3-10.異国の天使 クリストファー・グッドマン
蜜子がエゴルトが用意したマジックミラー号に乗り込んだ頃、グッドマンはシンガポールで探索をしていた。
探す相手はケビン・フリーマン。
彼の住所は凛悟の”本”によって判明している。
現在位置は凛悟が教えてくれる手筈になっていたが、こちらから連絡しても反応がない。
トラブルでもあったか。
いや、あったのだろう。
グッドマンはそう考えながらスマホを切ると、こういう時にやるべきことを、凛悟と決めた作戦を思い出す。
連絡が取れなくなったらやるべきことをやる。
やるべきこととはは”祝福者”の協力を取り付け、”死んだ人間は生き返らない”というルールの撤廃を願ってもらうこと。
彼の愛する娘が生き返るにはこれが絶対必要。
グッドマンは一刻も早くケビンに会おうと小走りで彼の住所に向かう。
場所はシンガポールではありふれた公共団地。
日本のそれと違うのは階数も棟の数も段違いだということ。
目的の部屋に着き、グッドマンは呼び鈴を鳴らす。
だが、反応はない。
夕食にでも出かけているのだろか。
シンガポールでは自炊する人は少なく、ほとんどの人は外食で済ませるとガイドブックに書かれていたことを思い出し、グッドマンは階段を降りる。
1階で張っておこう、そうすれば見逃さない。
そう考えながらグッドマンは1階で待つが、そこの雰囲気は暗い。
それもそのはず、この公共住宅の1階は共有スペースになっていて、イベントがある時、住人はそこを使用する。
イベントとは祭りであったり、結婚式であったり、そして葬式も行われるのだ。
夢の中で恐竜で襲われ命を落とした人たち、それらの棺がいくつも並べられていた。
娘も、キャロルの棺も家に帰ってきているのだろうか。
いや、まだ病院に安置されているのだろう。
引き取り手である自分がいないのだから。
冷たく暗い地下でベッドに寝かされている娘の姿を思い浮かべ、グッドマンの目から涙がこぼれる。
泣くな、泣いている暇はないはずだ。
辛い時こそ笑え、悲しい時でも笑って欲しいと妻に言われたはずだ。
最期の、妻にキャロルのことを託された時を思い出しグッドマンは瞼を抑える。
だが、一度決壊した涙腺は簡単には戻らない。
人に見られまいとしゃがみこんだグッドマン。
その肩がポンポンと叩かれる。
「おじさんどうしたの? ないてるの?」
グッドマンが顔を上げると、そこには天使がいた。
彼の救いの天使が。
「君は……、ケビン君か?」
「うん、ケビンだよ。3さいだよ」
彼が巡り逢ったのは”祝福者”、ケビン・フリーマン。
”祝福”に選ばれた、最年少の少年だった。




