1-4.始まりの朝 鈴成 凛悟(すずなり りんご)
ピピ
時計のアラームと同時に鈴成 凛悟は目を覚ます。
そして、左手の数字を見て後悔する。
あれは夢じゃなかった、もっと早く目覚めるべきだった。
数字が示すのは”21”。
出遅れた! 凛悟は跳び起きてテレビのニュースとパソコンのブラウザを立ち上げる。
いつもなら暢気にトップニュースのチェックをする所だが、今日は違う。
「ふぅ、特に何もなしか」
そうひとりで呟いた凛悟はもう一度左手の数字を見る。
”21”
変化なし。
その事実に凛悟は再び安堵し、書き連ねる。
神の座での出来事を。
「どんな願いでも叶える権利、それが”祝福”。ただし願いには制限があって、総数は増えない、人は生き返らない、死ぬと権利は誰かに渡る」
”祝福ゲーム”のルールを書き、次に彼は”祝福者”の情報を思い出す。
「”祝福者”の数は24人。集まった人の人種は多様、おそらく国籍も。子供から老人まで年齢も多岐に渡る」
彼は読唇術が使えるわけではない、だが発音と口の動きの差くらいはわかる。
あの神の座では全ての言語が日本語に聞こえた。
いや、日本語として理解出来た。
しかし、しゃべっている人の口の動きは日本語とは明らかに違った。
「直接脳内に情報が入っているのかもしれないな。……神の力か。そして、既に叶えられた願いは3つ」
ブツブツと呟きながら室内を回り、凛悟は思案を続けるが、ふと我に帰る。
──そもそもあれは現実のことだったのか?
左手の数字はそれを裏付ける材料ではあるが、確証にはならない。
「”情報”を集めなくては。まずは他の”祝福者”からだ。そして”祝福ゲーム”の勝利ルートを確立する」
凛悟の趣味は旅。
車で自転車で徒歩で、日本中を駆け巡りその土地の名物や名所を回る。
その脚は高校の時には自転車で日本一周をやりとげるほどに太い。
旅で最も重要なのは”情報”。
道の選択から、どこを楽しむかまで。
”情報”如何によって旅が楽しいものになるか、疲労だけに終わるか変わるものだと彼は知っていた。
そしてそれはこの”祝福ゲーム”にとっても同じものだと感じていた。
「あれはやはり蜜子だったよな……」
神の座で見た制服、それは彼が昨年まで通っていた全方位学園のもの。
しかも、その人物に彼は見覚えがあった。
制服の主は学園の後輩の蜜子。
「よし、連絡してみよう」
スマホを手にメッセージを書いた所で、凛悟の指が止まる。
『やったぜ蜜子! 俺達は神に選ばれた! いっしょに幸せになろう!』
…
……
……止めよう、これでもし神の座のことが夢だったり、俺の思い違いだったら『センパイ 気でも狂ったのですか!?』と返信があってもおかしくない。
制服を着てたということは学校へ行こうとしていたところだよな。
だとすると、補講か。
あいつは素直で可愛いが、成績は少し残念なんだよな。
そんなことを考えながら凛悟はメッセージを打ち直す。
「凛悟だ。久しぶり。少し話したいことがある。補講が終わったらランチでもどうだ?」
送信ボタンを押し、凛悟はしばし待つ。
『センパイ! あたしもちょうどセンパイとお話したかったです! ランチご一緒します!』
相変わらずだな。
メッセージに満足した凛悟は身だしなみを整え始める。
鏡をみると、そこにはにやけた自身の顔。
「いけない、こういう時こそ冷静に」
大きく深呼吸しながら凛悟は高鳴る鼓動を抑え、家を出る。
そう思いながらも彼は昂りを抑えられず、駆け出し始めた。
自分は絶対的にこのレースの有利に立っていることに喜びながら。
 




