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2-15.ふたりの旅立ち ダイダロス・タイター

 教会の鐘が響く中、ダイダロスは朝のひんやりとして気持ちのよい空気を感じていた。

 

「やあ、ティア。晴ればれとした朝でゲスな」

「兄さん……、何いっているの? そんなフィレンツェ(なま)りなんて今時誰も使ってないわよ」


 イタリア時間4月1日午前8時2分。

 ダイダロスは10度目の出所を迎えていた。


「気にするな、芝居めいた口調をしたい気分なんだ」


 ローマでの彼の作戦は見事成功した。

 あの一大観光地の中でひとりのターゲットを、”祝福者”ラーヴァを見つけることはまず不可能。

 だが今のダイダロスには可能。

 タイムリープの能力で何度もやり直せばいいのだ。

 そしてターゲットを見つけたなら、またやり直してそれを攻略すればいい。

 どんな手を使ってでも彼女に”祝福”を使わせれば彼の目的は達成される。

 篭絡(ろうらく)でも脅迫でも暴行でも。

 ただし殺しはダメだとダイダロスは心に誓っていた。

 出来ないわけではない。

 ターゲットが”祝福”を使わないまま命を落とせば、その”祝福”はダイダロスの知らない誰かに移ってしまう。

 そこに十分注意を払う必要があったが、ダイダロスは見事に最初のミッションをやり遂げた。

 発見まで3日半、タイムリープして攻略を繰り返すこと7回。

 苦労がなかったわけではないが、想像よりもずっと楽にラーヴァを攻略したことでダイダロスの機嫌は上々だった。


「ねえ、兄さん聞いてる? 今、ほぼ同じタイミングで聖痕(スティグマ)の数字が減ったわ。13から11へよ。これはマズイわ」

「ん? 何がマズイんだ? 俺たちはピンピンしているし、頭も正常だ。ゴールまでの道が近づいているじゃないか」


 兄の声を聞いて妹はハァと溜息を吐いた。


「よく考えて。同時に減ったってことは、誰かがコンポを決めたってことよ。考えてみれば当然のことだわ。わたしたちのように最初から協力関係にある”祝福者”がいないとも限らないもの」

「コンボ?」

「そう、例えば『俺たち以外の人類を人間ではない人間に極めて似た何かに変えてくれ』、『俺たち以外の”祝福者”を殺してくれ』ってコンボが決まれば残りの”祝福”はそいつらに移るわ。独り占め、ううん、ふたり占め出来るのよ」

「そんなことにはなっていないと思うぜ」

「そうね、わたしもそう思うわ。誰かを殺す系の願いはしっぺ返しが来るように既に”祝福”で願われている可能性が高いわ。兄さんでも気づくことだもの。だからこそ注意しないといけないと思うの。私たちの想像の上を行っている可能性があるもの」


 ダイダロスは知っていた。

 ”祝福”が同時にふたつ減ったのは自分とローマの女の分だと。

 だが、タイムリープの能力のことをティアに説明する気もなかった。

 なぜなら、教えたとしてもまたこの時間に戻れば、彼女はそれを知る前の状態になってしまうから。

 それよりも彼には次の行動を起こす必要があった。


「それよりもだ。俺は思い出しちまった」

「何を?」

「最初のあの座に日本人がいたってことをさ。しかも何人もな」


 兄の言葉にティターニアも思い出す。

 確かにあそこにはアジア人と思われる者たちがいたことを。


「どうして日本人だってわかるの?」

「あ、ああ、留置所で日本語が出来るやつと知り合いになってな、聞いてみたのさ”フクオカ”ってどこだってな。日本の都市の名前だとよ」

「そういえば、そんな事を言ってた男がいたわね」

「しかもだ、そいつの声に反応していたヤツが何人もいた。きっと同じ日本人だろ。さっきの話だと協力関係にあるヤツらはまだいてもおかしくない」

「そうね。さっきのひと組とは限らないわ」

「だとしたら、こっちも手を組む必要があるだろ。だから俺は日本に行ってくる。上手く行けば協力出来るかもしれねぇ」


 ダイダロスはそう言ったが、本心では協力関係を結ぶ気などさらさらなかった。

 ローマの女と同じように日本の”祝福者”を脅して”祝福”を使わせる。

 それが彼の目的だった。


「そういうことでお前はここで待ってな」

「待たないわ。わたしも行く。兄さんだけじゃ心配だもの」

「心配してくれるってのか?」

「心配だわ。兄さんが危ないことをして、うかつに”祝福”を使わないかがね」

「信用がないんだな、俺は」

「勘違いしないで、信用はしているわ。でも、信頼しているわけじゃない。危なっかしいのよ兄さんは」


 妹の言葉に兄はヤレヤレと肩を落とす。

 まあいい、いざとなればまたここ(・・)に戻ればいいのだ。

 ダイダロスはそう思ってティターニアの手を握り、行くぞと促した。


「わかった、無茶するなよ」

「わかってるわよ。無理しないでね」

 

 そう言ってふたりは歩み始めた。

 極東の地、日本を目指して。

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