2-13.攻略の開始 ダイダロス・タイター
「おい、どうした? 聞いてるか? おい!?」
ダイダロスを現実に戻したのは店長の声だった。
「何でもない、ちょっとボーっとしていただけだ」
「そうか、ならいいけどよ。それよりも本当にいいのか? この情報をこっちのもんにしちまっても」
「いいって言ったろ」
もはやダイダロスの興味はそんなものにはなかった。
あるのは目の前の”祝福者”宛に送られたメールのリスト。
これは過去へは持って行けない、記憶の中に持って行かなければ。
リストを何度も見て、その全てを記憶した所でダイダロスは出口に向かう。
「ダイダロス、いい情報をあんがとよ。また儲かるネタを仕入れたら頼むぜ」
「ああ、あんたがその情報で大金持ちになることを祈っているぜ」
そんなことはありえないけどな。
心の中でそう投げかけ、ダイダロスは初の『タイムリープ』に挑む。
戻りたいと思うのは昨日の晩の留置所の中。
無論、発動しない。
よし、リミッターは正常に作動しているようだな。
ひと呼吸おいて、ダイダロスは今度こそ初の『タイムリープ』に挑んだ。
今朝、留置所の前でティターニアと会った時へ。
◇◇◇◇
フワッと身体が浮かぶような感覚が起こり、朝の空気が鼻腔を満たす。
遠くからコーン、コーンと8時を告げる鐘の音が聞こえた。
「兄さん!」
留置所の前、妹のティターニアの出迎えの時にダイダロスは降り立つ。
「やあ、ティア。気持ちのいい朝だな」
「バカなこと言わないで、とっても心配したのよ」
「その心配なら、もう必要ないぜ」
「心配もするわよ。あれからふたつ、ほら今もひとつ誰かが願いを叶えたわ。キングのような変な願いじゃないといいけど」
ティアが左手の甲を見せる。
その数字は12。
ダイダロスの記憶からひとつ減っているのは彼自身が”祝福”を消費したから。
「心配いらねぇよ。お前は必ず願いを叶えられるようになる。他の”祝福者”に後出しで消されることもなくな」
「それってあたしが最後のひとりになるってこと?」
「ああ、俺がそうさせてみせるさ。まかせとけ」
ダイダロスはそう言うとティターニアに手を振って駅への道を歩き出した。
「ちょっと、どこいくの?」
「ちょっとな。お前は何も心配せずに家でビデオでも見てな。いいか、絶対に”祝福”は使うなよ」
「言われなくても使わないわよ」
その返事にダイダロスは満足すると、再び足を進める。
「兄さん」
「なんだ?」
「無茶しないでね」
「わかってるさ。俺だって自分の命が可愛い」
俺がするのは無理なことだがな。
心の中でそう呟いて、ダイダロスは進む。
彼の第1の攻略目標へと。
ローマに住む”祝福者”の下へと。




