2-3.修練の賜物 鈴成 凛悟
「ハッハッハッ、ハッ、ハァー」
窒息しそうな苦しみと共に鈴成凛悟は目を覚ます。
なんだ夢か……。
恐竜に追われ、下水道の貯水層に落ちて死ぬなんて、悪い夢……。
そう考えて凛悟はハッとなって背中をさする。
当然、傷などあるはずがない。
夢の中で恐竜に襲われた傷など。
だが、彼にとってあまりにも夢の内容は鮮明過ぎた。
だから彼はそれ確かめるため鏡の前に立ち、両手に丸めた雑誌を手にする。
「ホッ! ハッ! ホッ! ハッ! KIMG! KI! 敬愛!!」
「KING! SUMMER!!」
右手を上に左手を上にクルッと回して3回転。
見事なオタ芸を凛悟は披露する。
「LOVE LOVE ! KING! ハッ、ハッ、ハッ」
このオタ芸は夢の中のキング様パレードの前座の時に藤堂から教わったもの。
何度も何度もダメ出しされて、やっと形になった技だ。
あれが本当に夢だったら、記憶に、身体に、こんなに染み付いているはずがない。
「間違いない、夢じゃない。”祝福”のことも、キングのことも、恐竜のことも」
ひとしきり踊った後、肩で息を切らせながら凛悟はひとり呟く。
いや、ひとりではなかった。
カタッ
音に振り向くと、そこには玄関に立って凛悟を見る蜜子の姿があった。
「ご、ごめんなさい。か、鍵が開いていたものですから……。今見たことは忘れますっ!」
ここで蜜子が帰ってしまってはマズイ。
早急に誤解を解かなければ。
そう思った凛悟は踵を返そうとする手を掴み、懇願するように言う。
「待ってくれ! これは誤解だ! 俺には蜜子が必要なんだ! いや、今の俺には蜜子しかいない! だから行かないでくれ!」
「えっ!? それってセンパイたら、告白を跳び越えちゃって、一気にプロポーズだなんて、そんな……、イヤンイヤン、でもスッゴクいい! 夢見は悪かったけど、今日はサイコーの日ですっ! LOVE LOVE! センパーイ!」
無邪気に喜ぶ蜜子の誤解を解くのに、凛悟は少々時間を要した。




