表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/98

2-2.勧誘の席 エゴルト・エボルト

 世界中から愛されるキングが生まれ、前代未聞のパレードの中、太古から復活した恐竜が人々を襲う。

 そんな体験をしたと思ったら、いつもの日常の中で目を覚ます。

 夢だと思う者が大半だろう。

 だが、”祝福者”であり、エボルトテック社のCEOであるエゴルト・エボルトはそれ(・・)が夢ではないことをすぐに理解した。

 神に選ばれ、”祝福”を宿し、勝ち残る策を練り、最後は恐竜に襲われる人々を上階のオフィスから見下ろす夢。

 彼が見たのはそんな夢だ。

 荒唐無稽(こうとうむけい)で全く論理的でない。

 普通の人物なら一蹴(いっしゅう)に伏す所だが、彼は違った。

 目覚めてすぐに彼は検証を行った。

 左手の聖痕(スティグマ)を確認し、夢の中のニュースや入国管理から割り出した”祝福者”のリストを夢の記憶から書き出す。

 エボルトテック社は総合型IT企業である。

 官公庁へのシステム構築から商店の決済サービス、世界的なSNSサービスまで幅広く手掛けている。

 彼の会社のサービスを利用したことがない人類はアマゾンの奥地くらいにしか生息していないだろう。

 CEO権限でエボルトテック社の各種サービスから、彼は照会する。

 夢の記憶から書き出した人物は本当に存在するのかを。

 

 やはり、実在の人物だったか。ならば、あれは夢ではない。誰かが夢にしたのだ。”祝福”で。


 目覚めてから数時間後、エゴルトはその結論に至った。

 ならば、彼の次の行動は決まっていた。

 夢の中の計画を継続するのだ。

 リストの人物で連絡可能と判明した者にメールを送り、エゴルトは秘書のレイニィに電話をかける。

 優秀な秘書はワンコールで出た。


『CEO,何か御用でしょうか?』

「おはよう。体調はどうだい?」

『夢見が悪かったこと以外は問題ありません』

「そうか、ならオフィスに来てくれ。君だけの仕事(・・・・・・)を頼みたい」


 設立からわずか20年程度で、ただのソフト会社を世界有数のIT企業にのし上げることは、清廉潔白(せいれんけっぱく)では成し得ない。

 君だけの仕事(・・・・・・)は彼が彼女に非合法な仕事を頼む時の隠語だ。


『かしこまりました。先ほど送られてきたリストがそうですか?』

「察しがよくて助かる。だが実行は僕の合図でだ」

『わかりました。いつでもできるよう(・・・・・・・・・)準備致します』

「ああ、いつもどおり綺麗に(・・・)頼むよ。君は僕の特別な存在だからね」

 

 エゴルトはそう言って通話を切ると、引き続き”祝福者”の割り出しに取り掛かった。

 夢で一度やったことだ、なんということはない。

 そう思いながらタスクをこなしていくと、レイニィから着信が入った。


『CEO、来客です。アポなしの』


 アポなしの来客など普通は通さない。

 エゴルトに連絡などせずに追い返すのが本筋だ。

 

「僕に連絡してくるということは、何か理由があるのだね」

『はい、来た人物はリストに載っている人物です』


 もう来たのか、早いな。

 普通なら少しは警戒するだろうに。

 そう思いながらエゴルトは秘書に尋ねる。


「来た者の名は?」

『クリストファー・グッドマンと名乗っています』


 なるほど、早いはずだ。

 グッドマンはエゴルトが作成したリストの中で最も価値のない人物だ。

 だが、だからこそ価値がある。

 利用価値が。

 

「通してくれ」

『いいのですか? 彼は少し興奮状態にあるように見えますが』

「いいさ。彼はハズレだが……」


 そう言ってエゴルトは表では決して見せない(わら)いを浮かべる。

 

「いい手駒になる」

 

 その声にレイニィは『かしこまりました』と冷静に応えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ