1-19.第8の願い ジュラ・デ・ボン
”祝福者” ジュラ・デ・ボンはカナダのアルバータ州の町、ドラムヘラーに住む6歳の少年である。
考古学者の父とモーテルを営む母を持つ少年はどこから見ても理想的な家族であった。
経済的には裕福であったし、知的で優しい両親に愛情を込めて育てられたジュラ少年は、神童と呼ばれる程の賢さと、子供特有の素直さと愛らしさを持ち合わせていた。
ジュラ少年が神童と呼ばれた理由はひとつ。
恐竜に関する知識の多さからだった。
少年は100を超える種類の恐竜や古生物の名前を言うことが出来た。
ドラムヘラーは恐竜の町。
ドラムヘラーにはカナダ最大の恐竜化石が展示されているロイヤル・ティレル古生物学博物館があり、南東には数多くの古代生物の化石が発掘され続けているダイナソー州立公園がある。
珪藻土が水を吸うようにジュラ少年は恐竜の知識を吸収し、モーテルの観光客にそれを披露しながら町の名所を案内する。
そのチップだけで、ジュラ少年は子供が欲しがる程度のものならば、何でも買えたのだった。
だからジュラ少年は迷っていた。
いや、持て余していた。
”祝福”を使ってまで、叶えたい望みなんてなかったのだから。
だから、ジュラ少年は大好きな両親に問うのだった。
「ねえ、パパ、ママ、なにかおねがいごとはない? ボクがなんでもかなえてあげるよ」
「そうねぇ、ジュラがその人参を全部食べて欲しいわ」
「んもう、そんなんじゃなくって」
人参にケチャップを大量に付け、ジュラ少年はそれを口に入れる。
「ほら、ママはキングさまのパレードを見たいって言ってたでしょ。そういうのはどう?」
「うーん、見たいけどテレビでいいわ。人ごみは苦手なの」
「そう、ならパパは何かない? なんでもかなうんだよ、なんでも」
「そうだなぁ、恐竜がいっぱい出てくると嬉しいな」
ジュラの父は考古学者兼発掘家で、年の半分は新種の恐竜を求めて地層を掘り続けている。
「それって生きてるやつ?」
「ハハハ、生きている恐竜が出てきたら最高だな!」
「キングさまもよろこぶ?」
「喜ぶさ! 男は誰だって恐竜が大好きだからな!」
「そうね、アナタもジュラも、恐竜が大好きよね」
ジュラ少年の両親はそう言って無邪気に笑う。
それを見てジュラ少年の心は決まった。
パパはキョウリュウがすき。
ボクはキョウリュウが大すき。
だったら、キングさまもキョウリュウが大すき。
まちがいない、と。
「わかった! じゃあボク、かみさまにおねがいするね!」
「ええ、楽しみにしてるわ」
「神様によろしくな」
ジュラ少年は両手を合わせ、心の中で神様に願う。
『かみさま、おねがいです。せかいじゅうを生きているキョウリュウでいっぱいにしてください。ボクはキョウリュウとなかよくなりたいです』と。
ジュラ少年が願ったその瞬間、世界は一変した。
恐竜が大地を闊歩した中世代に戻ったかのように。




