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祝福ゲーム ──最初で最後のただひとつの願い──  作者: 相田 彩太
プロローグ 夢のような都合のいい話
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プロローグ 神の“祝福”

 そこは不思議な空間だった。

 見渡す限りの闇、光源は無い。

 だが視界は暗黒ではなく自身だけではなく他に立つ人の姿も見える。

 例えるなら、光を放つ黒曜石(こくようせき)で満たされた地平。

 ある者は神秘的と思い、ある者は好奇心旺盛(おうせい)に瞳を動かし、またある者は早々に夢だと決め込んで頬をつねった。

 涙を流す幼い少女の姿も見て取れた。

 冷静にスマホの画面を確認する者もいたが、そこに表示されたのは”圏外”の文字。

 やがて人々はここが夢ではないと気付き、声を上げ始める。


「ここはどこだ!? なにが起きている?」

「ワイは家で寝ていたはずや。隕石でも落ちて今際(いまわ)の国にでも来たんかいな? 今日は福岡ドームに行かんといけんとやけど」

「誰かここがどこか教えてくれ! 私は娘の病室へ戻らなくては!」

「その問いに答えよう。ここは光の座。我の……家のようなものだ」


 突如現れた光の塊、それに人々の視線が集まる。

 光の塊は光のまま人の形を取ると、にこやかに歓迎のポーズを取る。

 不思議なことに光の塊は光のままなのに、人々はそれが笑顔を取っているように感じた。


「ようこそ、選ばれし者達よ。(なんじ)らは幸福である」


 光も言葉を発するのか、声を受けてある者は思った。

 別の者は考える、『選ばれし者』の意味を。

 別の誰かはある種の胡散(うさん)臭さを感じ、心で身構えた。


「我はいわゆる神である」


 誰かの心の胡散臭さが増した。


「我が汝らを招いたのは”祝福”を与えるためである」

「父よ! ”祝福”とは何を意味するのでしょうか。わたくしは生まれた時に父の祝福を受けております」


 声を上げたのは修道服を着た女性であった。

 ある日本人の目から見ると、彼女の顔立ちと瞳は西洋人のそれであったが、不思議と外国語には聞こえなかった。


「その問いに答えよう。”祝福”とは”どんな願いでもひとつ叶える権利”である。我が汝らの願いを叶えよう」


 人々の声がざわつく。


「やったぜ! これで大逆転だ!」、「主よ感謝します」、「ハッ、虫のいい話だな」、「何かあるでしょJK(常識に考えて)


 そこには喜びと疑念の声が含まれていた。

 

「ただし。『どんな願いでも』と言ったが3つのルールがある」


 疑念の声の主は警戒心を深めた。


「3つのルールは以下のものである。ひとつ、“祝福”の数は決して増えない」


 誰かが当たり前という表情でうなずく。


「ふたつ、死んだ人間を生き返らせることは出来ない」


 とある男の表情に失望の色が浮かぶ。


「みっつ、”祝福”を持つ者、つまり”祝福者”が願いを願う前に死んだ場合、その“祝福”は別の人類にランダムに移る」


 最後のルールにある者は口の端を上げた。

 

「つまり願いを叶えられるのは生きている人間だけということだ」


 自称“神”の説明に数秒の沈黙が起こる。


「これだけの人が集まり、ルールがあるということは、つまりこれはゲームということだな。”祝福ゲーム”といったところか」


 スーツを着た壮年の男性が周囲の人を見まわしながら言い、数人がそれに同調するように(うなづ)く。


「この事象の名称は我にとって重要ではない。しかし、そう呼んだ方が君たちの理解が深まるということであれば”祝福ゲーム”と呼称しよう。何か質問は?」


 光が周囲を見渡すと、ひとりの青年が手を上げる。


「確認させてくれ。紙に書いた長い願いだってたちまち叶うのか?」

「ハイホーホーホー」


 表情のないはずの光。

 なのに一同はそれがおどけているかのように見えた。


「すまない冗談だ。その問いに答えよう、君の意図まで()んで答えはイエスだ。補足するならば願いを言う時は心の中で我に願い事を伝えるだけでよい。もしくは我の座。すなわちここを思い浮かべれば、汝らは時の束縛(そくばく)から解き放たれ、ここに招かれ、じっくりと願いを言うことが可能だということだ」

「なるほど、よくわかった。つまり死の間際でも長い願いを叶えることが可能ということだな」


 青年の台詞に感心の声があがった。

 同時に舌打ちも。

 

「その通り。ただし、願いを叶える気がないのにこの座を訪れるというのは遅延行為のようなもの。場合によっては”祝福”を失う可能性がある。注意することだ」

「”祝福”を他人に譲渡することは可能でございましょうか?」


 少なくとも80歳は超えている老婆がたずねる。


「その問いに答えよう。ノーだ。それは第1のルールに反する。我はひとつの“祝福”に対し、移譲の願いと、新たな祝福者の願いを叶えることになるからだ。誰かに”祝福”を譲渡したいなら、自ら命を断てばよい。約80億分の1という奇跡とも呼べる確率で望みの者に権利が移るかもしれないぞ」


 先ほどのおどけた感じとは違って、冷笑するような口調で光は答えた。


「この祝福に保持期限はあるのか?」


 さらに手が上がり、眼光の鋭いスーツ姿の男性が問う。


「その問いに答えよう。イエスだ。その期限は祝福者が天寿を全うし死に至るまでだ。その場合、ルールの通り祝福は別の人類に移る。さて、次の質問で終わりにしよう」


 光の声にどよめきが起こる。

 混乱の声の中、最初に質問した青年が再び口を開いた。


「この数字が示す意味は?」


 青年が挙げた左手の甲には24という文字。

 他の者も自らの手を見る。

 そこには同じ24の文字が刻まれていた。


「その質問に答えよう。それは聖痕(スティグマ)だ。願いを叶えた者の手からは消え、その数字は残された祝福の数を示す。今、ここには24人の祝福者がいる。歓喜せよ! 汝らは選ばれた!」


 光がそう叫ぶと、その輝きはより大きく、より(まぶ)しくなり、24人の選ばれし者たちは光の中に消えていった。

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