1-13.第6の願い カーネ・モッテル
「常夏の島ハワイでカーネといえばハワイ神話に登場する創造や生命、清らかな水を司る主神のことなんだとよ」
ハワイに在住の自由人、カーネ・モッテルは酒場でよくこう話していた。
「普通息子にカーネなんて大層な名なんて付けるかい。例えばゼウスとかオーディンとか。ママは俺に期待しすぎなんだよ」
彼はそう言うが、その名は愛情の証でもある。
彼は母親の愛と期待を背負ってスクスクと成長した。
成長した彼は数件のコンドミニアムを経営するなど一定の成長を収めたが、ハワイの主神の名に見合うだけの成功かと問われれば”No”である。
さらなる成功を目指す意志もあり、精力的に活動してはいるが、彼には足りないものが多すぎた。
人脈、技術、情報、コネ、人材、そして何よりも金。
不動産を動かすには大きな金が要る。
カーネにとって酒場での台詞は、母親の期待に応えたいという気持ちと、どうあがいてもそこに到れない葛藤も含んだ愚痴だった。
昨日までは。
彼の左手には”祝福”がある。
それをどう使うかは彼の目下の悩みだった。
母親の期待に応えたい、そして今は愛すべき王、キングがいる。
年老いた母もキングを孫のような目で可愛がっている。
母も喜ばせ、キングに自分の名前を知ってもらいたい。
ハワイの神の名と同じ名ではなく、ひとりのと男として。
そして、彼は知っていた。
ビジネスでも恋愛でも、先んじた者が最も印象に残ると。
「よし、決めた!」
ショットグラスをカウンターに置き、酒の勢いも借りてカーネは言葉で心で、神に向かって叫ぶ。
『1000兆ドル欲しい! ただし金によるトラブルとは生涯無縁で!』
ビジネスの世界では常識のことだが、世界一の金持ちの個人資産は約2200億ドル。
アメリカの国家予算でも約1兆5000億ドル。
世界の個人資産の総計ですら約500兆ドルであることを。
その倍の金があれば、しかも金持ちに付き物のトラブルとも無縁となれば、彼は自由に好きなようにお金を使える。
その意図を正しく神は理解し、願いを叶えた。
世界一の超金持ち、カーネ・モッテル
まるでキングが王であることを自然と感じたように、人々は彼を無尽蔵の金を持っていて、それが当然であるように理解した。
だが、それだけでは彼の本当の望みは叶わない。
彼はすぐさま、彼の資産の1%を、アメリカ国家予算の約666%にあたる金額をキング様パレードの資金として使うことを発表した。
彼は一躍、時の人となった。
 




