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ダンジョン1ー①

連載はじめました。

どうぞよろしくお願いいたします。

「カノートのダンジョンが消滅したって話聞いたか?」

「馬鹿、情報が遅ぇよ。カノートだけじゃねぇ。ワーレン、サイラス、ここ最近だけで三つもダンジョンが消滅したって話だ」


冒険者ギルドに併設された酒場で、荒くれ者たちが今もっとも旬な話題で盛り上がっている。


ギルド受付嬢のハルは溜息を吐きそうになるのを堪え、その話を陰鬱な心地で聞き流していた。


「マジかよ。ダンジョンが消滅したってことは、誰かが攻略したってことだろ? ここ数百年ダンジョン攻略の話なんざ聞いたことがねぇってのに、一体どんな連中がやりやがったんだろうな?」

「それが誰も名乗り出て来てねぇらしいぜ。恨みを買うのを恐れてのことなんだろうが、ひょっとしたらダンジョンの消滅は攻略されたからじゃなく天変地異か何かじゃないかって噂もあるぐらいだ」

「ほ~ん。しかしカノート、ワーレン、サイラスか……だんだんここに近づいてきてんのが気味悪いよな」

「全くだ。どの街もいきなりダンジョンが消滅して大混乱らしいからな。大手クランやギルドの連中はひょっとしたらここもって、ピリピリしてるよ」


ダンジョン消滅の報はダンジョンから産出される魔物の素材や資源によって生計を立てている冒険者やギルドに大きな衝撃を与えた。既に国やギルド上層部も調査に乗り出しているそうだが、今のところ原因は全く不明。ただただ不安と不穏な空気が充満し、関係者は皆浮足立っている。


かくいうギルド職員のハルも、上司から何か異常がないか注意し、些細な変化でも報告するよう言い含められていた。


──異常って言ってもねぇ……まさかダンジョンを消滅させた当人たちが、分かりやすく『自分たちがやりました』って首から看板ぶら下げてるわけじゃなし、一体何を報告すればいいんだか。


「すいませーん」


と、ハルが愚痴めいた思考に耽っていると、カウンターの向こうから声がかかる。彼女が慌ててそちらに意識を向けるが、視線の先に人の姿はない。


「こっちこっち。下でーす」

「──あ。はい」


言われて視線を下に向けると、冒険者には珍しい小柄な三人組がこちらを見上げていた。


一人目はヒューマンの少年。

年齢は12~3歳ほどだろうか。小柄で細身、黒髪黒目の癖の無い顔立ちをしており、手には魔術師らしき杖を持っている。ギルドに登録可能なヒューマンの成人年齢は15歳なので、あるいはヒューマンではなく小人族か、他の種族の血が混じっているのかもしれない。


二人目は腰まで届く長い黒髪と黒ひげが特徴のドワーフの男性。

粗末な神官衣の下からゴツゴツした鎖帷子がのぞいており、恐らくは神官戦士だ。


三人目は真っ白な毛並みのコボルト。

地域によっては魔物として討伐対象になり得る種族だが、主人と認めた者には忠実で、人間の下僕として働いている姿を街中でもよく見かける。背には大きなリュックサックを背負っており、恐らくはポーターとして同行しているのだろう。


いずれもこの街のギルドでは見かけたことがない。

ハルは上司の指示に従い、普段より少しだけ注意を払いながら三人組に話しかけた。


「本日はどういったご用件でしょうか?」

「登録と仕事の仲介をお願いします」


応じたのは魔術師の少年だ。

彼はそういってE級冒険者の証である黒鉄のタグを見せ、既に他の都市で冒険者登録自体は済ませていることを示した。


「この間までサイラスで活動してたんですけど、何かダンジョンがいきなり消滅しちゃって……」

「……なるほど」


どうやらこの三人は、ダンジョンの消失で仕事にあぶれ、街を移ってきた一団らしい。今後こうした冒険者が増えるかもしれないな、と内心で厄介事の増加を危惧しつつ、ハルは事務的な笑顔を浮かべてカウンターの下から登録用紙を取り出した。


「それではこちらの登録用紙への記載をお願いします。代筆の必要はありますか?」

「いえ、大丈夫です。この子の分は僕が書くので」


そう言って、魔術師の少年はコボルトの頭を撫でた。


「ワフ!」

「かしこまりました」


彼らが登録用紙を記載している間、ハルは情報収集を兼ねて話しかける。


「それにしてもサイラスですか。噂は聞いていますが、あちらは相当混乱しているそうですね?」

「そりゃ無茶苦茶ですよ。何せ仕事のネタが丸々なくなったんですから」


登録用紙に整った文字を書きつけながら魔術師の少年が答えた。


「冒険者やギルドだけじゃない。そこと取引してた商人や職人まで、今後どうやって生きて行けばいいんだって呆然としてましたよ。僕らがいた時はまだみんな現実感がなかったのか、そこまで大混乱にはなってませんでしたけど、多分今頃は現実を直視して酷いことになってるんじゃないかな」

「なるほど……」

「僕らは蓄えがなかったんで、すぐに街を移らざるを得なかったですけど、他の人たちはまだ様子見してる感じでしたね。多分、これから徐々に僕らみたいなのが増えてくると思いますよ」


少年はハルが聞きたいであろう情報を先回りして教えてくれる。

サイラスのギルドの規模はこのフールの街より一回り大きい。職にあぶれた冒険者たちが全てこちらに向かってくることはないだろうが、やはり相当な混乱を覚悟しなくてはならないようだ。


「皆さんはあちらではどんなお仕事を?」

「ワフ! クー、カミサマハコブ!」


どんな仕事を回すべきか検討の為の質問に答えたのは、やることがなく行儀よく椅子に座っていたコボルト。意味不明な言葉にハルは首を傾げる。


「は? 神様……ですか?」

「これクー。話の邪魔をするでない」

「ワフゥ?」


それまで黙っていたドワーフがコボルトの顎の下を撫でながら笑う。


「すみませんな。拙僧がこ奴に『万物には神が宿るので渡された物は大切に運べ』と教えておったので、自分は神様を運んでおると思うておるのでしょう」

「ああ、なるほど」

「僕らは主にサポーターですよ。見ての通り単独でダンジョンに潜るには人数が足りないので、大抵他のパーティーにくっついてお手伝いをしてました……と、書けた」


二人分の登録用紙を魔術師の少年が先に書き上げ、それに少し遅れてドワーフが自分の分を差し出す。


「はい。確認させていただきますね」


ハルは登録用紙にざっと目を通すが特に不備は見当たらない。


──へぇ、意外。魔術師の子がリーダーなんだ。


魔術師の名前はウル。

見た目は完全にヒューマンだがエルフとのクォーターで、この幼い見た目で既に16歳らしい。


ドワーフの名前はボール。

見るからに熟練の僧侶クレリックだが、冒険者になったのはつい最近らしく、ランクは最下級のF級。


コボルトの名前はクー。

彼も冒険者登録はしているが、特別な技能は持っておらずF級。純粋な荷物運びだ。


──確かに前衛が薄くて単独で仕事を任せることは難しいけど、呪文遣いは希少だし、サポーターとしてなら引き合いはありそうね。コボルトくんも一人前の報酬は難しいだろうけど、この二人とセットなら何とかなるかな。


問題は、ドワーフのボールはまだしも、他二人は小柄で見た目が頼りないこと。組む相手を選んであげないと舐められて足元を見られる恐れがある。


「……はい。記載内容に特に不備はないようですので、この内容で登録させていただきます。仕事の仲介もご希望ということでしたが、こちらでもサポーターとして活動されるご予定ですか?」

「はい。この街での仕事のやり方や流儀みたいなものも分かりませんし、当面はどこかのパーティーについて仕事をさせてもらえたらと」


魔術師のウルが如才なくスラスラと言葉を紡ぐ。


「それが宜しいかと思います。同行するパーティーに関して、何かご希望はありますか?」

「そうですね……僕らは見た目があまりごつくないので、あまりそういうのを気にしない方を」


やはり見た目では苦労しているのだろう、ウルが苦笑しながら注文をつける。


「それと、ここのダンジョンの様子をしっかり確認しておきたいので、できる限り深層で活動してるパーティーがいいですね」

「深層……ですか」


その要望にハルは少しだけ顔を顰める。


「深層での活動となりますと相応にリスクも、求められるスキルも高くなりますが……」

「もちろん分かってます。だからできる範囲で結構です。一応、僕は戦術魔法師の資格を持ってますし、別ダンジョンですが深層での活動経験もあります。足手まといにはならないつもりです」

「なるほど……」


命のかかった状況で能力を過大申告するような冒険者はE級にすらなれずに死んでいくので、そこは信用してもいい。だが彼らを見た目で侮ってトラブルを起こすことなく、その上で相応の実力を持ったパーティーとなると……


意外と難しい注文にハルがどのパーティーを紹介しようか頭を悩ませていると、そこに割って入る者たちがいた。


「ねぇ、ハルさん。良ければその人たち、俺らに紹介してくんない?」

「──クルトさん」


話しかけてきたのは茶髪を短く刈った剣士らしき少年。

どうやらウルたちとの話に聞き耳を立てていたらしく、その背後には彼のパーティーメンバーも揃っていた。


マナー違反は後で注意するとして『悪くない組み合わせだ』との感想をハルは抱いた。


「俺らケナンが抜けて呪文遣いがミーシャ一人だけだろ? 臨時ででも彼らに入ってもらえるとありがたいんだけど」


クルトと呼ばれた少年はウルの方を見ながら勧誘する。

ウルは即答することなく、チラリとハルの方に視線をやった。


「クルトさんたちのパーティーは先日D級昇格を果たされてますし、若手の中では有望株です。かなりご希望の条件に近いと思いますよ?」

「報酬の分配はそっちのコボルトくんも含めて人数割でいい。俺ら今はちょっと事情があって、安全マージン多めにとっておきたいんだ。頼むよ」

「ふむ……」


愛嬌よく片目を瞑り両手を合わせて頼み込むクルト。

ウルは少しだけ考える仕草を見せ、仲間たちに異論がないことを視線で確認して彼らの申し出を受諾した。

本日中に後二話、投稿予定です。

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