浦島太郎その後
「ところで、アンタ誰なん?」
現実の問題を夢野叶が問う。
「すみません」
三つ編み眼鏡の少女が頭を下げた。
「私、タイムスリップとか古代文明とかオーパーツとか、昔話の考察とか好きで、趣味なんです。話を聞いていたら、意見せずにいられなくて……」
理由を説明された。
「なるほど」田中納得。「それで途中から登場してきた訳か。てか、キミ、職員室の」
「あ、はい。そうです。佐藤響と申します。田中先輩」
「ん? ヒビキちゃん、カナタと知り合いなん?」
「はい、えっと、カナタって田中先輩のことですよね? その田中先輩には……その」
彼女はモジモジしていた。
「ああ、昨日職員室であった」
「フーン。そうなんやー」
叶はちょっと不機嫌っぽい。
「あの、ところで……」
伊藤が話そうとする。だが――
「でも、佐藤さん。今のはすげえよかった」
田中は伊藤の言葉を遮って評する。
「え、田中先輩? なにが……」
「正直、場が混乱したことは否めないけれど、まあそれも即興劇の、エチュードの醍醐味だ。それよりも、佐藤の堂々とした演技とセリフの掛け合いはとてもよかった。頭が固い子なのかと思っていたんだが、柔軟な対応もできるんじゃん! うん、よかった!」
「えっと、それは、……どうもありがろうございましゅ」
――あっ、かんじゃった!
さっ、と少女は口元を隠した。
「全員が合わせて路線変更したのも、トラブルへのアプローチも素晴らしかった」
田中が本当に誉めちぎる。嬉しいのだ。上機嫌である。
「俺が想定していた『古代文明都市アトランティス竜宮城支部 VS 老中浦島太郎幕僚長率いる日本海軍艦隊』編よりもよかった!」
「なんですかそれっ! 逆にそっちの方が気になるんですけどっ!! どういう話しになるはずだったんですか?」
少女が食いついた。
「いや、それよりもですね」
これまで先輩に遠慮して我慢していた後輩・工藤大がついに口を開いた。
「佐藤さん、なにか用事があってきたんじゃないですか?」
「あ、えと、そうでした」
佐藤響は思い出した。
「言いたいことがありまして、あ、でもその前に、この教室の窓からけむ――」
ドバーン!
豪快な音。教室の戸が開いた。
「おい、この部屋から煙が出てるぞっ!! 何やってんだ! 死にてえのか! 早く避難しろォ!」
体育教員・北海先生。己が命の危険も顧みず、生徒を救う目的で突入してきた。
「やべっ! 玉手箱の小道具! そのままだったぁ!」
白いモヤが窓から漏れていた。
ドライアイスを少量の水の入った水筒に入れていた。
理科の実験で余った物を田中が無料でもらったものだった。
烈火のごとく、怒られた。