『うさぎとかめリベンジ』
『ある天気のいい日。2人は再会しました』
「おいカメ、リベンジマッチや」
早口で言いました。
「いいよぉー」
のんびりとした口調で返事しました。
ウサギ耳の彼女はルールを説明します。
「ルールは簡単、この大通りの突き当たりに交番がある。そこまで『かけっこ』や! 先に着いた方の勝ちや!」
「わかったぁー」
甲羅を背負った彼は鷹揚に頷きます。
「うちはなぁ、アンタに負けてから特訓に特訓を重ねたんや。何日も何日も悔しゅう悔しゅうて、お昼寝ができへんかった。夜はぐっすり眠ったけど。あんだけ煽っといてから敗北するなんて、一生もんの恥や」
「そうなのぉー?」
「けれど、もう油断も慢心もあらへん。アンタは強い。それでも、今度こそ、うちが勝つ!」
「うぅん。がんばえー」
彼女の熱い思いを秘めた宣言に、彼はおおらかに答え返しました。
『いよいよスタートです。――位置について』
「いくでぇ!」「うぅん。」
互いに目を合わせました。
『ようい』
『ドン!』
「うおらああああぁぁぁっ!!」
ドドドドドドドドドドド!!
ウサ耳彼女はものすごい速さで足を動かします。
(ええっ!)(すっごい!)(はっやい!)(めっちゃはやい!)(ほんきっ! アレほんきっ!)(かおがこわいぃ!)(ぜったいかちたいんだよ!)
ギャラリーが沸きます。
「よ、っこ、い、しょ、よ、っこ、い、しょ」
のっそり、ゆっくり、まったり。
甲羅の彼の動きはあまりに遅いようです。
(ああっ!)(おっそいよぉ!)(もっとはやくうごけるでしょ!)(まけちゃうよぉ)(おうえんしてたのに……)(ほんきだせぇえっ!)
ブーイングのような批判でした。
「ごめんねぇ。これが本気なんだよぉ」
困ったようにギャラリーに応じた。
(こたえてくれたっ!)(うそだぁ)(ほんとはもっとやれるって)(がんばえー!!)
「この勝負、もろたでカメぇ!」
高速で足を動かすウサ耳彼女は止まりません。
止まりません。
止まれません。――突然の赤信号も。
「あっ!!」
気がついたときには、赤信号の横断歩道に――路上に出ていました。
世界がスローモーションになります。
(ああっ!)(ダメっ!!)(ひかれちゃう!)
『ぶうううーん』
『クルマがせまります』
(きゃぁああぁ!!)(あぶないっ!)
(よけて!)
(よけてよけてよけてぇ!)
「もうダメや!!」
ウサ耳彼女が叫びます。
くるくるくるくる。
背中の甲羅をスピニング。
そこそこの速度で甲羅の彼がやってきました。
回転を止めて、立ち上がります。
ウサ耳彼女の手を取って、引き寄せます。
「きゃあっ!」
彼女は歩行者通路に戻ります。
甲羅の彼は――
「間に合って、よかったよぉー」
――入れ替わり車道へ。
ウサ耳彼女が手を伸ばし叫びます。
「カメぇええええええええええぇぇぇ!!」
(((カメさぁあああああーん!!!!)))
しかし、手は届きません。
『ドカーン!』
甲羅の彼が勢いよく吹き飛びました。
倒れ込みます。
…………。
「ま、まさか……」
唖然とするウサ耳彼女。
「うそやろ? うそやと言ってや! かめぇ!」
急ぎ吹き飛んだ彼のところに駆け寄ります。
彼を抱きかかえて、必死に呼びかけます。
「おい! カメ、カメ、返事せえや。カメ、か、め……、あ、ああっ!」
(…………)(…………)(…………っ)(…………っ)
ウサ耳彼女は涙ながらに懇願します。
「ああっ! ああっ! 嫌やっ! ダメやっ! カメっ! うちが悪かったから! お願いや! 目を覚ましてくれぇ、カメええぇぇぇ!」
「うぅん。わかったぁー」
返事しました。
「へっ?!」
彼女はあっけにとられます。
「よいっしょっとぉ」
彼が起き上がりました。
「ちょ、あんた、なんで……車に、轢かれたのに……」
「甲羅があったからぁ、大丈夫だったよぉ」
「カメぇぇぇえええ! よかったぁ!」
彼女が安堵します。彼に抱きつきます。
(((カメさぁああーん!! よかったぁぁああ!!)))
ギャラリーからものすごい、割れんばかりの歓声です。
「きっとぉもうぉ、ほんきのぉうさぎさんにはぁ、『かけっこ』ではぁ、勝てないよぉ」
甲羅の彼は、諦めるように告げました。
「いや、そんなこと……」
「ボクぅ、走る才能はぁ、ないからぁ……」
「…………」
「――けれどぉ、ボクにもぉ、できることがぁ、あったんだぁ」
甲羅の彼は、にっこり笑います。
「こうらがある。ともだちをぉ守れてぇよかったよぉ」
(カメさぁああーん!!)(よかったぁあ!)(かっこぉいいよぉ!)
「……ともだち」
「どうしたのぉ、うさぎさん?」
「なんでもあらへん。レースは中止や!」
ウサ耳彼女は、にっこり笑います。
「助けてくれて、ありがとうな!」
(((ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち!)))
(すっごいよかった!)(おもしろかった!)
(かんどうだった!)
(すぺくたくる)(やっべかやっべー)
(おれもこうらほしい!)
『はい。以上で近久野高校演劇部(仮)による交通安全週間・交通事故防止演劇『うさぎとかめリベンジ』を終わります』
『近久野小学校児童クラブのみなさん』
『聞いてくれて、ありがとうございました』