はだかの王様その後
「てかなんなん?! いやあんた、なに小道具の冠かぶせようとしてんねん! やめぇや!」
金の王冠(プラ製)を半裸の男が頭に乗せてこようとする。
うざったい、と言いながら厄介そうに払いのける。
「え、これ、『はだかの王様』やないの?」
「えっと、そうですけど……あの、夢野さん?」
「なんやのこの展開? ふつう王様て裸やのに、周りの人間は立派な服を着ているって演技をするはずやん? 演技の演技するはずやん? なんやのこの展開?」
2回言った、大事なことなのだろう。
後輩が説明してくれる。
「いつもどおり別ルートの話なので。ちなみに今回は『マッチョな賢王編』でした」
「なんやそれ? 賢王て『かしこい王さま』か? うちが来たときこいつ外に出ようとしよったで? 半裸で。どこが賢いねん」
「そこには深い理由があったんです」
「どんなに深い理由があっても賢いやつは半裸で外には出えへん! ふつうに問題になるわ。止めや」
「すみません。なにか、逆らえない流れで……」
「カナエ、そういうなよ。工藤は止めようとしてくれた。――外に出ようとした俺が悪い」
後輩にあれこれいう同級生を止める。半裸で。
矛先はそっちを向いた。
「そうや。あんたが悪いわ。ぜんぶ悪いわ。諸悪の根源や。なに裸で外にでようとしてんねん」
「すまん。エチュードしてたらノリに乗って、逆らえない衝動に流されて……」
「流されんな。我慢せえ。――そういう性癖なんかと勘違いすんわ!」
「せ、せえへき……って、」
「ん? ああ、ヒビキちゃんやん。いらっしゃい」
「えと、その、どうも」
あまりにもナチュラルなあいさつに、流されて佐藤響は返事した。
「ん? もしかして入部してくれたん? そういえば今エチュードに参加してたん?」
叶が期待を込めた声で聞いた。
「いえ、入部はしていません。ただ部屋に入ってたら、活動されていたので……その流れで……私も一緒にエチュードに参加を――。それで、私は――」
「なるほど、それはごめんなぁ。無理やりエチュードに参加させてしもうたみたいで。もしも嫌やったら、ちゃんと言って――いや、言わなくてもええから、勝手に抜けて大丈夫やで?」
「いいえ、前回は私が勝手に乱入してしまったので」
「そうか。ええ子やなぁ」
うんうん、と夢野叶は頷いた。
「あの、ですね。……夢野先輩、でよろしいんですよね?」
「あ、せやった。まだゆうてへんかった! ――夢野叶。2年3組32番。よろしく」
にっこり笑顔で自己紹介。
「あ、はい。よろしくお願いします」
「うん。よろしゅうに~」
「そういえば自己紹介もまだだったな」
「そういえばそうですね」
田中と工藤が、少し離れたところで納得していた。
「あの、ところで、夢野先輩」
「なに?」
「その、あまりに、その、ふつうなんですけど……」
「フツーて? まあフツーやけど?」
叶はあまりに、通常どおりに答えた。
「あの、ですね……」
「うん? ヒビキちゃん、もっとハキハキ物言う子やったよな? どしたん? なんか言いたいことがあるんやったら、ハッキリ言うてだいじょうぶやで?」
心配してくれているようだ。
「えっと、それじゃあ、ですね」
その眼鏡少女は、おずおずと話し始めた。
「田中先輩、裸なんですけど……」
ダブルバイセップス。
田中はポーズを決めた。
「ん? それが?」
叶はあまりに平常だった。
普通に返事した。それが異常だった。
「だから、なんでそんなふつうなんですか?!」
アレ見てください、と田中を指差した。
サイドチェスト。
田中はポーズを決めていた。
「え、それが?」
夢野叶はあまりにも『異常』だった。
「田中先輩が、は、裸なんですよ?! 夢野先輩はなんでそんなふつうなんですか? もしかして、夢野先輩と田中先輩って、もしかして、その……」
佐藤は真っ赤な顔して問う。
「はい。僕もそう思いました」
工藤も同意した。
「…………ハッ!」
夢野叶はようやく気付いた。
「夢野先輩と田中先輩って、その、そういう関係でいらっしゃるのでしょうか?」
真っ赤な顔して、気まずいように、問うた。
「ちゃうっ!!」
秒速で答えた。
「見なれてるだけや!」
「見なれているぅっ?!」
「ちゃうて! 風呂あがりとかに見るだけで」
「ふ、風呂あがりぃいっ!」
「ちゃうちゃう! あの、その、そうや。部屋に行ったとき着替え中に――」
「部屋に行くって! 着替え中にぃっ!」
「そうなんやけどちゃうくて、ちゃうんや。たまたま着替え中に入っただけで――」
「たまたまぁっ!!?」
「えっ?! そこはちゃうやろ?! たまたまって―――はっ! いや! そうやなくてっ!!」
言い訳してどつぼにハマってゆく叶。
ツッコミしてもうそうだと感じる響。
2名は混乱の真っただ中に。
半裸のマッチョが答えた。
「家が近所で幼馴染なだけなんだけどな?」
「お二人は交際されてないんですよね」
「してないが?」
そうですか、と工藤はとりあえず納得。
そして。
事態収束のための最も適切な言葉を伝えた。
「服を着てください」