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『はだかの王様ーマッチョな賢王編ー』


「仕立て屋よ。『バカには見えぬ服』とはいま余が身に纏っているモノで間違いないのか?」



 ムッキムキ、そう表現するのが的確な筋肉。

 腹は6つに割れ目が入っており、胸部は大きく硬く膨れ上がっている。



「…………」

 ちょうど入室した三つ編み眼鏡少女は、その『漢』のあまりに堂々とした態度に唖然として何も言えなかった。



「は、はい。王よ。間違いございません」

 投げられた問いに『仕立て屋』と呼ばれた者が応えた。

「今お召しになっておられるのは『バカには見えぬ服』で相違ありません」


「……そうか」

 威厳に満ちた声と態度で、重々しく理解の声を返した。

「たったいま入室したメイドよ。貴殿には『この服』、見えておるのか?」

 自身の鍛え上げられた肉体を親指で示して、問いかける。


「……えっ! いや、その」

 突然の筋肉からの問いかけに、『メイド』と呼ばれた眼鏡少女は途惑う。


「その反応、貴殿には余の装飾が見えてはおらぬと察する。見えていない、か。いいや、かまわぬ。気にすることでない。そもそも――」

 途惑っている少女に、気にせず『漢』は言葉を続ける。

 あまりにも堂々と。



「――この服、余にも見えておらぬのだからなっ!!」



 ビクッ、と『漢』は誇示する自身の胸筋を揺らした。

 びくっ、と少女はその動きに恐怖するように反応した。


「ふむ、その反応……貴殿には、やはりこの服は見えておらぬようだな。その目に映るのは余自身の鍛え上げられた『鋼の鎧』であると心得た」


「…………」

 無言の少女。ついていけていなかった。



「お、王よ。見えていらっしゃらなかったのですか? あなたさまともあろうお方が?!」

 仕立て屋が驚くように問う。


「うむ。見えておらん!」

「な、なんとっ……!!」

 王よ素直すぎます! と仕立て屋が物申した。

 だが『漢』はさして気にしない。

「だが、よい。よいのだ。かまわぬ!」

「王よ。それはいったい……」



「この服を利用し次世代の『新たなる王』を選定する!」

 堂々たる宣言だった。









「メイドよ。立ったままではしんどかろう。貴殿にも着席を許す。座れ」

「……あ、えと、はい、どうも」

 不遜な王に促され、少女はイスに座る。


 半裸の『漢』は、堂々とイスに座したまま会話する。


「仕立て屋よ。これは『バカには見えぬ服』と申したな」

「はい。王よ」

「この服、貴殿には見えておるのか?」

 重々しい王の問い。


 仕立て屋は、申し訳なさそうに答えた。

「……いいえ。申し訳ございません。私には見えておりませぬ」

「なにゆえだ。この服を仕立てあげたのは貴殿であろう?」


「……いいえ。王よ。私めは衣装をふさわしき『あるじ』に卸すのが仕事であり役目にございます。その服は『妖精』の魔法により作られております。よって、私にも見ることは叶わぬのでございます」

 期待に添えずに申し訳ない、という気持ちが伝わるような声だった。


「そうか。いいや、かまわぬ。では、余にこの服を着せたのは――」

「妖精からの服に関する『トリセツ』がございましたので、そちらを参考に着付けさせていただきました。それにより見えておらずとも、着付けられましたのでございます」

「なるほど。妖精の仕事であったか……」

 考えるように腕を組んだ。


 ついでに右胸筋をビクリと揺らしてみた。

 座っている少女がびくりと反応した。


「ふ、おもしろい」

 本当におもしろそうに『漢』は笑った。



「では、先ほど申したように、この服は『次代の王』を選定するために、利用することとしようっ!」

『漢』はい勢いよく立ちあがった。



「王よ。それは、いったいどういうことでございましょうか?」

「……仕立て屋よ。余はこの国を憂いておるのだ」

 物哀しげに、語る。


「国力は衰退の一途をたどり、少子高齢、長時間労働、貧困問題、人材不足、待機児童――多種多様なトラブルに日々、頭を抱えておる。もっと余が、聡明英知、博学多才、ジーニアスであれば……国民にこれほどの負担を強いることもなかった」

「…………」

「…………」

 何も言えない。



「そこで、余、思った」

 ニヤリと笑む。



「この服を見えるモノ――『バカには見えない服』を見ることのできた者を次の王とするのだ! この服が見えるということは、余よりも聡明であることは自明の理! かならずやこの国をよい方向へと導いてくれるに違いない!」


「な、なんと……!」

 おどろく仕立て屋。

「そ、それは……?」

 嫌な予感がする少女。


「仕立て屋。メイド。手伝ってくれ」

「え、あの……」

「王よ。まさか……」


「これより余の服が見えている人間を探しだす。――そのために、これより市井へとおもむくぞ! 貴殿たちは余の裸体を見ても動じないものを探し出してもらいたい」

 その『漢』は扉へ――外へ向かう。

 あまりにも堂々とした姿で。


「王よ! お待ちくださいっ! それは、王の服が見えている者を判定するのはあまりに難しゅうございます!」

 仕立て屋が反対する。必死に理由を述べて王を止める。


「心配するな。余は大勢の前に出る。きっと笑い者となることだろう。その中から『余の姿を見ても笑わない者』、また『民衆がなぜ笑っているのか疑問に思っているような者』を探すのだ。双眼鏡と物見台を用意する。――そこまで難しいことではなかろう」



 部屋の出口に向かう『漢』。

メイドと呼ばれた眼鏡女子が必死に考え、呼び止める。

「お待ちください。――しかし、それでは、その方法では、……その、王様のはだ……王様の裸体が……威厳、矜持が傷つきます。……民も混乱することでしょう。王様を批判する声も大きくなります。王様の、国での立場が悪くなる恐れだって……」


「かまわん!」

 裸体の『漢』は威風堂々、言い放つ。

「傾く国を救えるのなら、余のプライドや尊厳など安い物だ」


 覚悟を決めし『漢』に、それでも仕立て屋は意見する。

「し、しかし、そのような者、見つけられない場合もございます。そもそも、存在しない可能性だってある! ――賢王と名高いあなた様をもってしても、その服を見ることは適わなかった。その服が見える人物など、この世に存在するとは……」


「それでも、探さねばならぬのだ。見つけねばならぬのだ。傾いたこの国を立て直せる、余を超越せし器を有する賢者を、な」


「…………」

 仕立て屋が黙った。

 もう止められたない、そう悟ったのだろう。


「王……」「王様……」

 仕立て屋とメイドには、もう『漢』を止める言葉がなかった


 王は扉へと歩む。




 ――ガラガラガララ。

 戸が開いた。


「ふう。掃除、てまどって遅れたわぁ」

 女子が入室した。

 注目が彼女に集まった。




 ――しまった。もうはじまっとる?

 一瞬だけそんな表情だった。




 裸体の漢、そして真剣な顔の男女から推察。

 ――あー、そーゆーことね完全に理解したわ。(わかってない)




「すまんなぁ。遅れてもうて……」

「貴殿は、この城の侍女か、かまわん。気にするな。今日もよく励んでくれ」

 謝る少女を鷹揚に許す王。

「……かしこまりましたわ。王様。――てか、ええ服着とりますなぁ」


 半裸の男にその女はそんなことを口走った。



「「「っ!!??」」」

 その驚きは、その部屋を包んだ。

「侍女よ。貴殿、いま何と申した?」




「いや、ええ服着とりますなぁ、て」




 部屋には静寂が訪れた。



「いたぞ」

「いますね」

「いましたね」

 王と仕立て屋とメイドがただ言葉にした。


「えっ? なんなんあんたら?」

 ようやくリアクションがおかしいことに気がついた少女。




「新たなる王の誕生だ!」

 静寂から一転。

 室内は喝采と拍手に包まれた。


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