1話『椎名』
◎命名
1話『椎名』
僕はキャラクターの名前は実際の友人などを思い出しながら命名してます。例えば椎名とか。
今から24年前。椎名さんは平井堅にゴリラを足したような、それなりのイケメンで、でもゴリラ風な顔をした千葉工大の学生でした。その顔が彼の性格にも似合ってた。
当時の僕は16歳で少し歳上の椎名さんとその友人の超イケメンな木下さんという兄さんに可愛がってもらってました。彼らと連絡先は交換してないが必要なかった。いつ雀荘に行っても必ずいたからだ。高校のブレザーを着たまま打つ僕は周囲には『坊や』と呼ばれていました。満貫大量生産ロボや麻雀強化人間とも言われましたが。スマートに『坊や』と言われることが多かったように思います。もちろんそれは若いからというだけでなくて『麻雀放浪記』由来でした。(阿佐田哲也 著)
椎名さんもやはり僕のことを坊やと呼んでいました。僕はその呼び名に不満はありません。むしろ誇らしかったです。なぜなら坊やという呼び名は麻雀放浪記の主人公の呼び名だからです。坊や哲。
椎名さんの麻雀は強い意志の麻雀でした。こうすると決めたらこう!最後まで貫く!そんな男気のようなものすらありました。
そういえば、一度だけ彼の運転する車に乗ったことがありました。電車を逃した僕を送り届けてくれたんだっけな。真夜中の道路を「ゼンツ!ゼンツ!」と言って黄色信号も(もう、ほぼ赤になるタイミング)無視して突き抜けたあの夜は死ぬかと思いました。助手席に乗った僕は「道路交通法守れや!」と声を上げたのを覚えています。彼は僕にこの日「ゼンツ」という言葉を初めて教えてくれた。
(ゼンツ。麻雀用語。全部ツッパるの意。この勝負おりませんよ、と)
破天荒な彼の麻雀が真似はしたくないけど勉強になったし、好きだった。
時は流れて彼らとも疎遠になった。一年以上は一緒に遊んだ気がするし、今でも彼らとの闘牌を思い出すこともあるがファーストネームはもう思い出せない。
でも、まだ彼らが、椎名さんが、どこかで牌を握っていて。麻雀と名のつくものには目がない、僕の知ってる麻雀バカな友人のままでいるとしたら。きっと僕の小説も読むでしょう。その時。
「おっ、この麻雀小説の主人公『椎名』だ」
と喜んでいたらいいな。と。
そんな願いを込めて。
僕はキャラクターにこんな感じに名前を付けているんです。