緑色のランドセル
土曜日の午後。
来年、小学生になる娘のランドセルを購入するため、俺と妻と娘の3人で最寄りのショッピングモールのランドセル売り場にいた。
俺が小学校のとき使っていたランドセルの色は黒色だった。男は黒、女は赤が当たり前だった時代だ。
カラフルなランドセルたちが目の前に広がり、娘は目を輝かせている。今は男が赤、女が黒のランドセルを背負っても問題はないのだ。A4のクリアファイルが、ぐにゃっと曲がらずに、すぽっと入る現代のランドセルが羨ましい。
「あんた!何!そのランドセル」
「壊れた」
俺のランドセルは卒業する半年前に壊れた。右の肩ひもがちぎれたのだ。卒業までどうすんの?と母に怒られた。新しいランドセルを購入するわけにもいかず、修復するという結論に至った。修復といっても頑丈なガムテープをぐるぐる巻きつけ、繋ぎ合わせるだけだった。
翌日、俺はガムテープで修復されたランドセルを背負って登校した。当然まわりからは笑われ、バカにされた。まぁしょうがないよねと笑いながら同情する者もいた。
そんな中ひとりだけ普段通りに接してきたのが妻だった。
「中学でもサッカーやるの?」
「当たり前じゃん。俺はサッカー部だよ」
「そっかー。なら私マネージャーやろうかな」
「中学にマネージャーなんてないだろ」
「そうだっけ?でも心配だなぁ。誰かさんはよく遅刻するし、物の扱い雑すぎるし、授業中寝てばかりだし……そうだ!中学生になったら毎朝、私が玄関まで迎えにいくよ」
「余計なお世話だ」
妻は幼馴染で付き合い始めたのは高校生からだ。
結婚して大人になった今では――ガムテープのランドセルはいい思い出だ。
「パパ、これにする」
娘が選んだランドセルは明るい緑色だった。側面にはハートが刺繍されている。
「なんでその色にしたの?」
「ニャハオと同じ色だから」
好きなキャラクターと同じ色だから――そんな理由でランドセルの色が決まった。
隣にいた妻が娘に訊いた。
「6年間、ずっとその色のランドセルだけどいいの?」
「うん!」
緑色のランドセルを背負った娘が喜んでいる。
子どもはあっという間に大きくなる。ついさっき入園したかと思えば、もう卒園で小学生になろうとしている。
その大きなランドセルが、小さく見えるようになるのもあっという間だろう。
――娘よ、大きくなれよ。