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彼女の視る宇宙(そら)  作者: 藍原圭
第一章
9/65

RIVER(1)

 気がつくと、信号が青から赤に変わっていた。

 違和感を覚えて周囲を見回すと、車が目の前を通過していく。どうやら考え事をしていて信号が青になったにも関わらず、また赤になるまでずっと待っていたらしい。信号待ちしていた車の運転手からは奇妙に思われたに違いない。

 はぁ、と溜め息をつくと息が白く凍った。今朝はまた一段と冷え込んでいる。


 考え事とは言うまでもなく、昨日の件だ。

 廃部が決まった部に突如現れた美しい女子生徒、藤崎望先輩。そして彼女との天体観測。

 また案内してね――彼女はそう言った。

 ということは、2度目、3度目があるのか?色々期待していいのか?

 男子高生特有の妄想が花開きそうになるのを良心で辛うじて押し留める。展開が早すぎる。そうでなくとも妄想で汚すには美しすぎる人だ。


 しかし――彼女の目的は一体なんだろう。

 最初に来たときは彗星を見たいと言っていた。だが昨日の様子を見るに、彗星に拘泥しているといった感じではない。別の星を見ることを提案するとあっさり乗ってきた。

 といって、純粋に天体観測や自然物理が好きなリケジョというわけでもなさそうだ。確か2年7組は文系の特進コース――この高校には成績優秀者向けに文系と理系それぞれ特別進学クラスがある――だったはず。そりゃ文系でも星空好きな人はいるけれど、そんな逸材がこの高校に少なくないなら我らが天文部も廃部の憂き目に合うことはなかっただろう。


 なんとも言えない心のもやもやを振り払うように自転車のペダルを踏み込む。今朝の通学もまた北風との戦いだ。

 交差点を渡り、青緑色のフレームが印象的なワーレントラス橋へ。なんでも竣工から90年以上経過した歴史ある橋だという。橋の両側に自転車併用の狭い歩道橋が併設されている。

 通勤で混み合う片側一車線の車道を横目でちらりと見た。車線が狭い上に、市内中心部である川南とベッドタウンの川北を結ぶ結節点ということもあって、通勤の時間帯は激しく渋滞する。

 上流に行けば幅が広く走りやすい新しい橋があるが、この橋の雰囲気が好きで、いつもこちらから渡っている。もっともそんなことを言うと物好きな奴と言われるのが常なので、あまり他人には口外しないけど。


 彼女に今からでも入部してもらうことはできないだろうか――そんな思いが頭をよぎる。動機や目的は分からないが、少なくとも寒い冬の夕暮れに天体観測に付き合ってくれる程度には興味があるらしい。まさか廃部が決定した部活動に所属する哀れな陰キャをからかう罰ゲームをやらされているわけではないだろう――そう願いたい。


 だが廃部が決まり、あとわずか3ヶ月弱、しかも来年度には受験を控えている人に頼むのは些か気が引ける。こっちの自己満足に付き合わせられてると思われても仕方ない。

 けれど昨日の彼女の目――不思議だった。

 星や夜空を見上げているだけでなく、もっと遠くの何かを見ようとしているような――

 入部してくれなくてもいい。ただ、その意味を知りたい。そう思った。


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