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彼女の視る宇宙(そら)  作者: 藍原圭
第四章
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月下美人(4)

「申し訳ありません。あのときは、取り乱していました。冷静に対応してくれた貴方に感謝するべきだったのに」

 通話の中で、先輩の父親は謝っていた。


 とんでもありません――僕が連れ回したせいで、と答えると、違うんです、と言った。

「娘の急性緑内障は、私たちに原因があるんです。長時間の勉強やストレス、それらが病を誘発させてしまったんです」

 長時間の下向きの姿勢や目の酷使、そして何よりもストレスは眼圧を上げる要因になるのだという。厳しい家庭教師がついて以降、先輩は頭痛や目の疲れを訴えていた。あれは発作の前兆だったのだ。


 両親がそれを知ったのは、先輩が倒れて運び込まれた後だった。

「娘の遺伝病のことを知っていれば、少なくともあんな無理はさせなかった。娘の信頼を得られなかったばかりに相談もしてもらえなかった」

網膜色素変性症――先輩の生まれついての病は、僕以外、家族にすら相談していなかった。それを知ったとき、親として何を思ったことだろうか。


「娘と……ちゃんと向き合ってこなかった。生まれのことをずっと気にしていたことにもまるで気が付かなかった。いや、気が付かないふりをして、一方的に期待ばかり押しつけていた。入院後は過保護になって……」

 ただ一家の、藤崎家の期待の星。それだけの存在だったばかりに、彼女と家族の間にはいつしか見えざる壁が出来ていた。そしてそれが今、最悪の事態を招こうとしている。


「入院中、よく貴方の話をしていました。貴方と一緒に夜空に願いをこめたから、きっと大丈夫だと。本当に、心の支えだったんですね」

 僕は泣きそうになりながら自転車を走らせ続けた。何が希望だ。何が願いを届けるだ。病を祓うどころか、より災いをもたらしてしまった。彼女には、より絶望を深くさせる結果にしかならなかった。


 そう希望――僕ははっとなった。

 2人で夜中に向かったあの場所。凍てつく寒さの中、見上げた夜空。宇宙ステーションを見た海浜公園だ。もしかしたら――



 日没が訪れた。西の果てに沈んだ太陽に代わって、鮮やかな満月が東の空に昇っている。

 海浜公園に着くと、展望広場へそのまま自転車を乗り入れた。辺りを見回すが、先輩らしき人は周囲には見当たらない。


 ここにもいないのか――焦燥感に襲われながら東の海へ目をやる。月明りが水面を照らしている。まるで水平線へ道しるべとなるように。

 そのとき1人の女性らしきシルエットが、その明りに惹かれるように、海へと足を進めていくのが見えた。満月が、望月の明りが彼女の影を煌めく水面を背景に浮き上がらせている。

 まさか――

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