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彼女の視る宇宙(そら)  作者: 藍原圭
第一章
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水の星へ愛をこめて(1)

 場所は運動公園が整備された広い河川敷の一角だ。

 簡易の野球場やサッカー場を備えたこの運動公園は週末になると小中学生による試合で賑わうが、今は犬の散歩やランニングをしている人がまばらにいる程度だ。南北に川を横断する鉄道の橋脚の下では、ひとり壁当てキャッチボールをしている人もいる。


 ここならば視界が開けていて、水星のような高度の低い星を見るのに最適だ。

 太陽は西へ大きく傾き、既に山の稜線にかかろうとしている。冬の日没は早い。


「いい景色だね」

 そう呟いて西の空を眺める先輩。西の彼方には上流に架かる斜張橋のシルエットが浮かんでいる。川から飛び立った渡り鳥が、そのシルエットに加わっていく。

「そうですね」

 実際、夕方のこの河川敷の眺めは好きだった。北風の強い朝とは違い、凪が訪れた夕暮れは時の歩みが遅くなった気がする。


 とはいえ、ゆったりとした時間に身を任せている余裕はあんまりない。今から、この夕焼けに染まる空から淡く光る星を見つけ出さなければいけないのだ。

 水星の観測は日没の直後、もしくは日の出の直前1時間弱が勝負とされる。 

 それを過ぎれば、地平線の下に沈んでしまうか、もしくは太陽の光に完全にかき消されてしまう。


「座ろっか」

「え?」

 突然の提案に声が上ずった。

「すぐに見つかるものでもないんでしょ?立って待つのも疲れるし」

「あ……そうですね」

 そう言ったものの、周辺にはベンチも何もない。どこに座るべきか逡巡している間に、先輩はすっとハンカチを取り出すと堤防の法面に敷いて、あっさりと膝を抱えて座った。仕方なく、2人分ほどスペースを空けて隣に腰を下ろす。


 この状況――周囲からはどう見られているんだろう。

 僕は周囲をちらっと見た。こちらを凝視している人はいないようだ。

 肩を寄せ合うアベックといった雰囲気ではない。かといって、夕暮れの河川敷に若い男女が2人きりでいるこの図。通りすがりの人が見たら何も思わないという方が無理だろう。


「あ、そうだ!」

 素っ頓狂な先輩の声に僕は腰を浮かせそうになった。

「水星で思い出した。セーラームーンの亜美ちゃんだね」


 確かに、水野亜美ことセーラーマーキュリーは、美少女戦士セーラームーンにおいて水星を守護星に持つ戦士だ。ただ、あまり僕はそちらの知識がない。アニメは好きだが、SFやロボットに少々偏向していてセーラームーンも大雑把な知識しかない。太陽系の惑星をモチーフにした美少女戦士というくらいの話しか分からない。

 しかし、女の子とはいえ生まれる前に原作もアニメも終了している作品を知っているのはちょっと意外だった。


「好きなんですか?セーラームーン」

「んー、ものすごく好き!ってわけじゃないけど、再放送を見てお気に入り。あと知ってる?実写版。北川景子とか小松彩夏が出演してたの」

「そ、そうなんですか……」

 聞けば実写版ももう15年以上前の作品だという。そうか、今を時めく大女優にもそんな時代があったのか……

 謎の物思いに沈みそうになっていると、太陽が本格的に沈んで、夕闇が迫ってきた。

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