表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女の視る宇宙(そら)  作者: 藍原圭
第三章
48/65

Fields of hope(2)

 スマホを手にしたまま、1時間が経とうとしている。

 画面を見つめたまま、踏ん切りがつかない。何度目か、手汗で濡れたスマホを拭う。

 いつまでこのままいるつもりだ。自分を奮い立たせ、思い切って通話ボタンを押した。


「――はい」

「先輩?お久しぶりです」

「透也くん。お久しぶり。どうしたの?」

 以前と変わらぬ優しげな口調に、僕は安心した。

「受験勉強、いかがですか」

「もーまいっちゃうよ。毎日毎日、休みの日まで1日中。おかげで勉強終わった後はひどい頭痛だし」


 勉強漬けの日々に辟易としていたらしく、先輩は意外に饒舌だった。話し相手を欲していたのかもしれない。

 お互いの近況を適当に話したところで、僕は切り出した。

「実は――先輩にどうしても見てもらいたいものがあって。夜空に、あるものが現れるんです。ちょうど、先輩の誕生日に」

「ほんと?何が見れるの?」

「それは、当日のお楽しみということで。当日実際に見てから、正体はお話しします」

「焦らすねぇ」

 先輩は笑った。


「ただ、朝早くなんです」

「朝かぁ。何時くらい?」

「午前4時50分です」

「4時――?」

 流石に先輩も絶句したようだった。

「無茶なことだとは思っています。まだ暗い時間帯ですし、どこかに集まって一緒にというのは難しいかもしれません。何でしたら先輩のご自宅前から見上げるだけでも――」


「それって、綺麗なの」

 先輩が静かな口調で聞いてくる。

「見て後悔はしないと、僕は信じてます」

「私でも、見れるかな」

「明るいので、先輩にもきっと綺麗に見えると思いますよ」


「分かった。それなら一緒に見よう」

「すみませんそうですよね――って」

 ほぼ確実に断られると思っていたので、即答に驚愕した。

「透也くんが太鼓判押すんだもの。きっと見る価値があると思う」

 電話越しにだが、先輩が微笑むのが分かった。

 先輩の想像以上にアグレッシブな態度に驚かされるとともに、胸に沸いてくる使命感で心が熱くなった。


「家を抜け出すのはそんなに難しくないし、6時までに戻れたら大丈夫」

「いやそんな、本当に大丈夫なんですか」

 自分で提案しておいて何だが、深夜外出などバレたら大目玉だ。まして先輩ほどの品行方正な人であれば尚更である。

「一度、こういうのやってみたかったから」

 悪戯っぽく話す先輩。恐らく本心なのだろう。

「まだ暗いですから危ないですよ。僕が、先輩の家の近くまで行きます」

 バレンタインの日に、先輩はわざわざ僕の家まで来てくれた。今度は僕が彼女の家まで行かねばならない。


「本当に?……ありがとう。そっちも、夜道くれぐれも気をつけてね――楽しみにしてるよ」

「はい!」

 約束は無事取り付けた。第一関門クリアだ。思わずガッツポーズをする。

 後は当日の天気――てるてる坊主をやっぱり作るべきだろうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ