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彼女の視る宇宙(そら)  作者: 藍原圭
第三章
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Fields of hope(1)

 1月は行く、2月は逃げる、3月は去る――

 小学校から現在の高校まで、校長が全校集会の度に揃いも揃って同じことを話していたのを思い出す。要は正月明けからは時間の流れが早いということだが、聞くたびにだからどうしたといつも思っていた。

 ただ、今年はその言葉どおり、時間の流れが特に早い気がする。年明けから廃部の宣告、藤崎先輩との出会い。色々あったからだろう。


 僕と藤崎先輩をあれこれ邪推していた連中も、日が経つに連れて違うことに関心が移ったのかフェードアウトしていった。

 気がつけば2月も下旬に入り、3月の期末試験や卒業式が近づいていた。

 天文部に残された日も、確実に少なくなっていた。


「本当に最後、どこにも行かなくていいのか?種子島は無理だろうが、近隣なら付き合うぞ」

 天文部の定期活動日、夜の校庭で望遠鏡を覗き込む僕の隣で、顧問の鞆浦先生がそう話す。

「いえ、本当にいいんです」

 こうして校内で普段通りの観測や雑談をして終わるのも、それはそれでいいのではないかと思い始めた。

 ただ――


「……菊池?」

「あ、はい。すみません」

 考え事をしていて、先生の話は半分上の空だった。

 ずっと考えていたのだ。先輩にプレゼントを――と。

 そう思い始めたのは、バレンタインの日から数日ばかりしてからだった。


 先輩の誕生日が3月11日。ちょうどホワイトデーにも近いし、合わせて何かお返しをしたい。

 ただのお菓子やアクセサリーでは味気ない。かといって、高額な品をプレゼントして喜ぶような人でもない。手作りのお菓子で喜ばせる男子も最近は多いらしいが、生憎そういうスキルは僕には無い。

 一体何だったら喜ばれるだろうか。


 何も思いつかず、ただ、夜空を見上げる。茫洋とした暗闇と、星々の光。無論、それらが答えてくれることはない。

 その時、視界の隅に、すっと光が流れた。

「お、今のは流星だな」

 鞆浦先生もちょうど見ていたようで、ぽつりと呟く。

 流星群のシーズン以外でも、流れ星というのはそこまで珍しい存在ではない。ずっと夜空を眺めていれば、1時間に1~2個くらいは見ることができる。


「そういえば、人工流星のプロジェクトなんてのがあるらしいな」

「聞いたことがあります。人工衛星から流れ星の元となる金属粒を放出するんですよね」

 海外の国家プロジェクトでもなく、国内で民間ベンチャーによる企画が進行しているのは少し前に知った。宇宙旅行だけでなく、流星も身近に手に届くところまで来ているのだ。


 先輩に流星を贈ろうか。ふとそんな突飛な考えが頭をよぎる。

 思わず自嘲的に笑った。そんなこと出来るはずがない。大金持ちのスポンサーでも無ければ、先輩の誕生日に合わせて贈ることもできない。

 そうでなくても、今の先輩の目には、かなり明るい流星でなければ見ることは難しいだろう。きっと美しいだろうに。


 いや、人工流星?もしかしたら――

 あることを思いついて、僕はその場でスマホを取り出した。JAXAのHPにアクセスし、目的のページを開く。

 日時、位置、時刻、仰角……

「これだ」

 突然声を上げたので先生が驚いた様子で僕を見た。何でもないです、と慌てて誤魔化す。


 ――これはいい発見だ。何しろタイミングがどんぴしゃだ。これなら、先輩にも見えるし喜んでくれるだろう。

 ただ、問題が2つある。

 1つ目は天気だ。こればかりはどうしようもないので、当日晴れるよう祈るしかない。3月の天気は変わりやすいという。小学校の時以来、てるてる坊主を本気で作ろうか。


 2つ目は、先輩を説得すること。今回は、夕方の下校時にちょっと――というわけにはいかない。というか割と無謀な提案になる。果たして乗って来てくれるかどうか。

 止めた方がいいだろうか。先日の家庭教師云々の言葉は体のいい理由で、本音はもう僕と関わり合いたくないということではないのか。


 ネガティブになりそうな思考を押しとどめだ。

 それでも――先輩にこれだけは見せておきたい。

 願いを届ける場所があることを伝えたい。

 そして僕も、先輩に伝えたい想いがある。それを言葉にして、一緒に贈ろう。


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