PRIDE(2)
顔つきはそれなりに端正だが、値踏みするような目つきや、にやついた口元、そして何より軽薄な雰囲気。あまり好意的に捉えていい相手ではなさそうだった。
「きみ、菊池君?」
色黒が妙な馴れ馴れしさで聞いてくる。そうですけど――と困惑気味に答えると、2人は笑い合った。
「分かんねぇなぁ」
「あれでしょ。やっぱ好みが変わってるんだって」
色黒と坊主頭がわざとらしく首を捻って笑う。何の話をしているのか。困惑している僕を愉快そうに眺めながら、色黒が机に手をついて身を乗り出した。
「あー菊池君。天文部って俺たちも入れんの」
「え……?」
入部希望というのだろうか。だがなぜ今更、というよりそもそも、天文部の活動に興味があって来たようには見えない。
「あの――ご存じかもしれないですけど、うちの部もう廃部が決まってて、この3月までなんです。今から入部してもらっても活動らしき活動はできないと思いますが」
なんと答えたものか一瞬迷ったが、ひとまず無難なことを言っておくことにした。だが、聞いているのかいないのか、色黒は机に腰かけると顔を近づけてきた。
「そんなことないっしょ。よく活動してるらしいじゃん。連れてってよ。どこか近所で見てるの?この望遠鏡とかは持っていけるの?」
そう言うなり、彼らは望遠鏡を無造作に触り始めた。
「ちょ、ちょっと――」
「これ何?これを使って見るの?」
箱に詰めてあったアイピースを取り出すと、キャップを外してそのまま覗いたり、隣に投げて渡したりし始めた。無論アイピースだけでは用をなさない。たまらず声を上げた。
「あんまり乱暴には扱わないでください。それ大事な望遠鏡のパーツなんです」
アイピースは安い代物ではない。特に今部室にあるものは超広角ワイド型で、1個1万円を超える。廃部が決まっているとはいえ、将来的に学校の備品となるのであれば粗末に扱っていいものではない。
「乱暴に扱わないのがコツなんだ。天文部だし、やっぱり女の子口説く時にはロマンチックに愛の言葉ささやくの?『君の微笑みはアンドロメダの輝き』とか」
品性も教養も感じさせない言い草に、顔が引き攣りそうになるのを辛うじて堪えた。
この1年弱、天文部だと自己紹介する度に言われるのは似たようなことばかりだ。
面と向かって口を開けばロマンスだの何だのと紋切り型の事しか言わず、その癖実態を知ると離れていく。
確かに漫画や映画の華のある天文部のイメージは実際からは程遠い。だからと言って本気で取り組んでいる人間を冷やかして回ることがそれほど楽しいのだろうか。
「天文部の活動は地味です。外で夜の寒さに耐えながら計器をいじったり、記録をつけたりっていう作業ばかりで、先輩方の思っているものとはかなり違うと思います。ですから――」
つとめて冷やかに僕は言った。
「先輩方には向かないと思います」
2人が沈黙する。そのとき、今まで喋らなかった長身が無表情に口を開いた。
「なぁ」
運動部なのだろうか。坊主頭よりも更に背が高く、180センチは優に超えていると思われる体格の良さは、僕とは比較にならない。喧嘩になったらとても敵わないだろう。
「お前、望と付き合ってんのか」




