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彼女の視る宇宙(そら)  作者: 藍原圭
第二章
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LICHT MEER(4)

 気がつくと、既に午後の1時になろうとしていた。

 朝の10時過ぎに入館したのに、時間が経つのが早い。充実した作品群のせいなのか、それとも先輩と2人でいるからなのか、たぶん両方だろう。


「あーもうこんな時間。お腹すいたね」

 腕時計を見て驚いたように言う先輩。見て回るのに夢中だったけれど、時間を意識すると僕も急に空腹を感じ始めた。

「ここってレストランとかあるんでしたよね」

「うん。確かいくつもあったはず」


 そうして僕たちが訪れたのは、地下2階のカフェだった。地下といっても外の庭園に臨んでいて、ガラス張りで太陽光が差し込む開放感あふれる場所だ。

 僕はチキンカツ丼、先輩がカレーを注文する。調理中の間、庭園を軽く鑑賞することにした。

 カフェの目の前にある庭園には、クロード・モネの『睡蓮』が陶板画として展示されるとともに、本物の睡蓮が池に浮かんでいる。夏になると花が咲いて壮観らしい。外にもテーブルがあり、日光の下で食事を楽しんでいる人たちもいる。


「睡蓮の花言葉って何だったっけ」

 池を覗き込みながら話す先輩。水面に映った先輩の顔は睡蓮の葉でよく見えない。

「すみません。そっちの方面はさっぱり」

 花言葉なんて気にする機会がない。花のプレゼントをしたこともされたこともないからだ。黄色の薔薇の花言葉は『愛情の薄らぎ』、『嫉妬』だから恋人に送るのはよろしくないなんて話はどこかで聞いたことがあるけれど。


「まぁ国によって同じ花でも花言葉はバラバラらしいけどね。世の中には星言葉なんてのもあるらしいよ」

「星言葉?それは初耳ですね……」

 文字通り星の数ほどあるのだろうか。意味を見出す方も大変だ。

「透也くんは星座占いとかも、あんまり信じなさそうだよね。科学的じゃないから」

「信じないというか、あんまり興味がわかないというか――先輩は、信じる方ですか?」

 先輩は熱心に信じそうでもあるし、一切信じず超然としてても不思議ではない。

「最近、以前よりは考えることが多くなった、かな」

 星が見たいというのと何かつながりはあるのだろうか。そんなことを考えていると、手元の呼び出しベルが振動した。料理が出来たらしい。


 お互いカウンターで受け取ったランチをテーブルに置いて、窓際の席に向かい合って着席した。幸い昼食のピークは過ぎているらしく、さほど混雑していない。

 先輩が注文したカレーはシーフードに加えてサツマイモやレンコンといった地元産の野菜がふんだんに入っている。僕のチキンカツ丼は、これまた県のブランド地鶏を使った一品らしい。

「それで足りる?追加で何か頼もうか」

「あ、おかまいなく……」

 正直言えばもっと食べられるが、先輩の手前あまりガツガツするのは止めておきたかった。


 いただきます、と2人で言う。

「で、どう。ここの感想は」

 袋からお手拭きを取り出しながら先輩が聞いた。僕も同じく手を拭きながら答える。

「本当に――面白いです。来たかいがあると思います」

 正直な感想だった。西洋画なんて知識も何も無かったけど、どんな分野であれ、人の叡智や努力の結晶を見るというのは感動するし、素晴らしいと思う。地元にこんな場所があったなんて、少しばかり誇らしくなった。


「良かったー。開始5分で飽きられちゃうんじゃないかとちょっと不安だったよ」

 にこりとしてスプーンを手に取る先輩。

 たとえ美術館を楽しめなくても、先輩といれば十分楽しいとは言えなかった。 

「実はね。一番見たい作品はまだなの。最後にしてるからね」

 まるで耳打ちするように先輩が囁く。その姿はどこか蠱惑的ですらあった。


 先輩が一番見たい作品――

 一体なんだろう。


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