表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女の視る宇宙(そら)  作者: 藍原圭
第二章
29/65

LICHT MEER(1)

 『デート 定義』 『デート 高校生』 『デート 高校生 服装』 『デート 高校生 心構え』


 自分のスマホの検索履歴を見て思わず机に突っ伏した。他人に見られた日には豆腐の角にヘッドバットして死んでしまうかもしれない。

 だが仕方ない。何しろ休日に同年代の女性と出かけること自体初めてなのだ。

 ネットで調べると「高校生向けコーデ」だの「女子が選ぶ男子に着てほしいデート服」「初デートの心構え」だの何だの出てくるが、自分には遠い世界でまるで参考にならない。


「どうしよう、アル」

 先日捨てられたところを救ってあげた白猫に語りかける。彼は完全に我が家に慣れた様子で、心地よさそうに惰眠を貪っている。猫はよく寝ると聞いていたが、本当に寝てばかりだ。

「なぁ、どうするよ」

 頭を撫でると目を覚まして欠伸をした。睡眠の邪魔するなと言わんばかりだ。出会ってまだ数日だが、意外とマイペースで図太い性格であることが分かってきた。まぁ無暗に繊細で落ち着かずうろうろされるよりよっぽどマシだけれど。


 ともかく、猫に相談しても仕方ない。とりあえず計画を整理しよう。

 先輩が行きたい場所とは、県北にある私立美術館だ。県内出身のとあるアーティストがNHK紅白歌合戦で歌唱した舞台で、それ以降知名度が急上昇している。

 僕も名前は知っていたが、今まで行ったことがない。そもそも美術館という場所自体、県立中央美術館に家族で行った以外はあまり縁がない。興味がないと言うよりも、どちらかというと博物館や科学館の方が好きというのもあった。プラネタリウムや探査機『はやぶさ』のカプセル展示には心躍らせてよく見に行った。


 美術館というのはどう回ったものなのだろう。男女2人で出かけて、どうしたものか。お互い感想を言い合ったりして仲が深まるものなのだろうか。

 ネットで調べてみると、何でも世界中の西洋名画を原寸大の陶板画で再現した美術館で、国内でも最大級の面積とのことだ。本物は1つもないのだが、再現性と展示数が圧倒的らしい。


 入館料の項を見て――思わず横山三国志みたいな悲鳴が出そうになった。ちょっとした遊園地やテーマパーク並みの価格だ――と思ったら高校生は割引があった。ワンコイン程度でチケットが買える。ひとまず安堵した。

 なんでも入館料日本一らしい。なんでそんな美術館がこんなローカル県にあるのかと思ったら、どうも地元企業の名士による発案だそうだ。


 しかし西洋アートのことはとんと分からない。

 何か予習して行ったほうがいいのかな――そんな考えも浮かんだけれど、どうせ付け焼き刃にしかならないだろうから止めておいた。同級生や年下なら多少無理してもいいところ見せるべきだろうが、相手は成績も優秀な先輩だ。素直に相手のリードに任せるのも悪くないかもしれない。


それにしても――今の自分と先輩とはどういう関係なのだろうか。

 一緒に下校しながら星空を眺め、猫を保護し、今度は休日に2人で出かける。客観的には恋人として見えなくもない。

 最も、先日動物病院では「部活の後輩です」とあっさり言われてしまった。

先方としては、使い勝手のいい後輩ができたくらいの位置づけなんだろうか。


 あの日、天文部に突然やってきた日から、彼女の本心が読めない。いや、そもそも他人の、特に女性の心が読めたことなどほとんど無いのだが、言動の背景に何か重大な秘密がある気がしてならない。

 それは突然廃部決定済みの部にやってきたこと、充実していたソフトテニス部を辞めたこと、そして何より――時折見せるあの表情。


 未知のことを知りたいと、本や夜空に幾度も目を向けてきた。けれど、それが周囲の人間に向くことは今まで無かった。

 今は、彼女のことを少しでも知りたいと思う。

 けれど、知ることが出来たとして、自分に何が出来て、何をするというのだろうか。


 ぺちん、と自分の頬を打つ。今は学校指折りの美人先輩とお出かけ出来ることを素直に喜べばいいのだ。下手にあれこれ考えても仕方ない。とりあえず遅刻だけはしないようにしなければ。

 アルの頭をもう一撫でする。今度は目を瞑ったまま反応しない。また眠りについたようだ。

 それを確認して、僕も床に就く。

 ――明日はどんな日になるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ