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彼女の視る宇宙(そら)  作者: 藍原圭
第二章
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WHITE REFLECTION(8)

 か細い月を眺めながら、先輩と一緒に歩く。二日月は、早くも西の果てに沈みかけている。


「アルくんはもう透也くんの家に慣れた?」

 予想通り、現在里親を絶賛募集中の白猫の話になった。先輩もきっと話したかったに違いない。

「はい。迎えた当日から人様の家でしっかり熟睡してます」

 環境が変わってストレスで部屋中荒らしまわるのではないかと懸念していたが、ひとまずその様子はなかった。とはいっても留守番中に粗相している可能性も無いではないけれど。


「透也くんのこと気に入ってるんだよ。出会った時からそんな感じだったし。ずっと飼ってもいいんだよ?」

「そうできたらいいんですが……」

 苦笑気味に答える。親にはあくまで里親が見つかるまでと約束した以上、難しいだろう。自宅は動物禁止の集合住宅ではないが、室内で飼うとなれば壁紙や家具の破損、臭いなどは避けて通れない。いざとなれば説得しなおす方法もあるが、それは飼い主が見つからなかった際の最後の選択だ。


「だよね。うん、ちゃんと里親探し頑張るから」

 実際のところ、先輩の人脈ならあっという間に見つかるだろう。退部したソフトテニス部の後輩にも頼んで回っていたし、行動力も凄いなと思う。恐らく僕のクラスだけでなく、知人のいるクラスには全て直接出向いて回っているのかもしれない。僕にはできない芸当だ。

 いつお別れするか分からない。この先猫を飼える機会があるか分からないし、今のうちに精一杯愛でておこう。

 

「そういえばさ、猫って、お月様の象徴と見なされたんだって」

「月が――ですか?」

 二日月とアル。まさかその2つが結びつくとは予想外で、僕は思わず聞き返した。

 月の象徴といえば兎と勝手に思っていたが、よく考えてみればそれは日本限定だ。

「猫の瞳孔は明るい場所と暗い場所で大きく変わるでしょ?それが月の満ち欠けと似てたから」

「なるほど……」

 確かに猫の瞳孔はまん丸に近くなることもあれば、縦に細長くなることもある。日中はそれこそ糸のように細い。


「ただ、どちらかというと死と再生の象徴だったみたいだけどね。古代エジプトのバステトは猫の女神だけど、元は闇や葬儀を司る神様だったらしいし。昔の人から見たら、規則的に満ち欠けする月が死んではまた蘇るシンボルとされたのは自然だよね」

「そういえば、猫は9つの命を持つなんて言われます」

「海外でも猫は死と関連づけられることが多いらしいよ。暗闇で目が利くし、あの世を見通せると思われたのかも」

 月も猫も、身近でありつつも神秘や畏怖の対象だったのだ。


「アルの目にも、僕たちとは違ったものが見えてるかもしれないですね」

「あはは。オッドアイだもんね。魔法や超能力が使えたりするかも。それか、透也くんが寝てる間に二足歩行して、言葉しゃべってるかもね」

「それは結構なホラーですね……」

 枕もとに二足で立って自分を睥睨しているアルの姿を想像して若干怖くなった。


「ケットシーって知らない?アイルランドの妖精猫」

「あ、聞いたことあります」

 様々なファンタジー系のゲームにマスコットとして登場することでお馴染みだ。

「まぁケットシーは黒猫みたいだけどね。でも『ファザー・ガットの屋敷』みたいに、猫が恩返ししてくれる話もあるし。きっと命を救ってくれた透也くんには恩で報いてくれるよ。たとえこの先、里親のもとへ行くとしてもね」

「そう願ってます」

 恩を着せるつもりはないが、せめてアルにとって憎からぬ飼い主でありたいものだ。

 それにしても――


「先輩は詳しいですね」

 文学部志望というだけあって、神話や民話に通じているのは流石だ。成績優秀というのも納得である。

「私は西洋文化とかに偏ってるから」

「いえそんな――僕も大概偏ってますし。知らない分野のことも、もっと知りたいと思ってます」

 特に先輩と一緒に語らいが出来ると一層楽しい――その言葉は飲み込んだ。


「いいね。よし――」

 先輩はふむふむと頷くと、くるりとこちらを向いて微笑んだ。

「実はね、ちょっと勉強というか、前々から行きたいところがあるの。もし良かったら、今度の土日、一緒に行かない?」

「えっ」


 先輩と2人でお出かけ。それはつまり――

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