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彼女の視る宇宙(そら)  作者: 藍原圭
第二章
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WHITE REFLECTION(7)

 夕方のHRが終わり、クラスが弛緩した空気に包まれる。今日は7限目まで授業があったので既に17時近く、外は薄暗い。窓の外に目をやると、澄んだ冬の空に殆ど雲は無かった。


 今日はどうしようか。部の活動日ではない。晴れているし、先輩と一緒に帰るチャンス――もとい天文部帰宅支部のいい機会だ。

 だが、いざこちらから先輩を誘うとなるとどうにも勇気が出ない。アルの写真はもう既に何枚か送っているのだが、一緒の下校の勧誘となるとハードルが上がりすぎる。

 せっかくだし先日拾ったアルのことも直接会って存分に話したい。だが周囲の目もあるし、いやそんなことを考えている間に先輩が先に下校してしまうかも――


 わちゃわちゃとした思考を振り切り、思い切ってアプリを開く。

『お疲れ様です。もし良かったらきょ』というところまで打ち込んだところで、唐突に先輩の側からメッセージが入った。

『大変!月がおかしくて……何かの前触れ?』


 月がおかしい?どういうことだろう。生憎この教室の窓からは建物が邪魔になって見えない。特に月食があるというニュースも聞いていないが、まさか月に隕石衝突でも――流石にそれはないか。

 ともあれ、先輩と一緒に下校できることになったのは間違いない。心躍らせながら僕はすぐに向かう旨を返信した。


「あ、透也くん。ほら、月が……」

 いつもの場所で落ち合うや否や、先輩が西の空を指す。言われた通り西の方角に目をやると、細く欠けた月が浮かんでいた。

うっかりすると見過ごしてしまいそうな程の、ごく細い月だ。


「あ、二日月ですね」

「二日月?三日月じゃなくて?」

 僕の言葉に先輩が首を傾げる。確かに聞きなれない言葉だろう。

「三日月よりも更に1日早い、月歴2日目の月です。陽の短い冬場にしか見られない、ちょっと珍しいお月様ですよ」

「へぇ……」

 大抵の場合、新月を迎えた後に新しく見えるのは三日月だ。今日は冬場で空気が澄んでいるというのもあるだろう。繊維のように細いので、二日月と三日月とまとめて繊月などともいう。


「それで、おかしいっていうのは?」

 話が逸れてしまった。

「うん、ほらよく見て――気のせいじゃないよね?月の影になってるところもぼんやり光ってる気がして」

 目を凝らすと確かに、輝いている三日月と反対側の影の部分がうっすらと見える。太陽光が直接当たっていないので、月の側は夜で本来は見えない部分だ。


「あれは地球照ってやつですよ」

「地球ショー?」

 あっさりと答えた僕に肩透かしを食らったような表情で首を捻る先輩。

「月面が地球に反射された太陽の光で照らされてるんです。今、月から見たら地球は満月――もとい『満地球』に近くて、かなり明るいはずですよ」


 地球から見る月と違って、月から見る地球はサイズが大きい上に、白い雲や氷床で光がよく反射される。月面は本が読めるほどの明るさだ。地球によって反射された太陽光で、地球から見えるという訳である。

「ありがちな現象なの?」

「夏は月の高度が低いですし、水蒸気も多いんで見にくいですけど、それ以外の季節なら結構見れる機会は多いですね」


 こちらも珍しい現象ではないが、空や星を見上げる習慣がないと気が付きにくいのは確かだ。

「そっかぁ。てっきり大地震とか天変地異の前触れかと」

 寒さよりも恥ずかしさで僅かに頬を染めた先輩が話す。早とちりしたと思っているのだろう。以前雑誌の話をしたときに照れた先輩も良かったが、恥ずかしそうな先輩も可愛くていいな、なんてつい思った。


 今日は特に条件が揃っているのか、地球照がひときわ明るく見える。ここまではっきりとしているのはなかなか珍しい。先輩もそれで思わず聞いてきたのだろう。

「……数えきれないほど見てきたはずなのに、やっぱり、まだまだ知らないこと多いな」

 茜色がまだ残る西の空を眺めながら、先輩は呟くように言った。


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