WHITE REFLECTION(6)
「猫?」
「うん……昨日拾ったばかりなんだけど」
翌朝、まずはクラスメイトに声をかけることにした。
多少仲の良い知人から順々に事情を説明していく。ただ、聞く者みな微妙な表情をする。
仕方ないかもしれない。付き合いの浅いクラスメイトから猫の里親探しを依頼されても戸惑うだろう。「分かった」と返事はされるものの、あまり期待はできないかった。
結局、先輩頼みか――情けないが、人望も人脈も全く比較にならない。
こういうときにこそSNSの出番なのだろうけど、生憎僕はROM専用のアカウントしか持っていない。
ネットには里親探しの掲示板もあるだろうから、見てみようか。そんなことを考えていたとき――
「菊池君が拾ったの?その猫」
不意に工藤から声をかけられて、僕は思わず振り向いた。
彼女が関心を持つとは意外だった。見かけによらず、と言っては失礼だが案外猫好きだったりするのだろうか。
「ああ、そうなんだけど、もしかして飼ってもらえる?それか誰か飼えそうな人を――」
「あのさ……」
だが工藤が呆れたような怒ったような顔つきで僕の言葉を遮った。
「昨日夜に藤崎先輩からメッセージきてたんだけど。白猫の里親探し。もしかして一緒の猫なの?」
いけない。先輩のルートを失念していた。工藤は部活の後輩なのだから、真っ先に連絡してもおかしくない。
「なんで菊池君が拾った猫の里親探しを先輩が手伝ってるの?」
「いや……先輩には、僕から別にお願いしたから。だから先輩が色々とツテを頼ってるんだと思う」
こいつのために憧れの先輩がなぜそんな真似を、と言わんばかりの表情を浮かべたまま工藤は無言でその場を離れた。
また余計な詮索をされそうだ。2人で見つけて、動物病院にも行ったなんて言ったらどうなるやら。自分が何を言われるのも仕方ないが、先輩に累が及ばないか心配だ。
と、そのとき――
「先輩!どうしたんですか」
工藤の声が響く。思わず入口の方を見ると、そこにいたのは他ならぬ藤崎先輩だった。
「おはよー志帆」
笑顔で工藤に声をかけている。先輩がこのクラスに顔を出すのは初めてだ。クラスメイトも少々ざわついた様子で見ている。
ちらと先輩と視線があう。彼女が軽くウインクしたのを見て――僕は慌てて軽く会釈した。
先輩の隣で工藤が咄嗟にこちらを見た気がしたが、視線の先にいたのが僕だと気づいただろうか。
「あのね、昨日の件だけど――」
耳打ちするように工藤に話しかける先輩。その内容は分からないが、時折なぜか工藤が僕の方を向いた。
「お願いね」
そう最後に言うと、不承不承と言った様子で工藤は頷き、先輩は立ち去った。
「何なの……もう」
工藤は僕に聞こえるように悪態をつきながら、席に着いた。恐らく、先輩から念押しされたのだろう。既に部活は辞めたとはいえ、先輩の手前おろそかには出来ないといったところか。
様子を眺めていた前の席の近藤がふと聞いてきた。
「お前、まさか藤崎先輩と付き合ってんのか?」
「いや、そんなわけないって」
近藤も最初から僕に否定されるのを分かっていた様子で、無表情に頷いた。
「まぁ、そうだよな。お前が付き合えるはずないよな」
あっさりそう言われるとそれはそれで釈然としない。
「……あの人、もう彼氏作らないのかねぇ。勿体ない」
ぽつりと近藤が呟く。そういえば、散々告白を断っているが、以前は分かれた彼氏がいたようなことを工藤は言っていた。誰と付き合っていたんだろう――そしてなぜ別れたんだろう。
僕は先輩の去った廊下をぼんやり眺めた。




