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彼女の視る宇宙(そら)  作者: 藍原圭
第二章
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WHITE REFLECTION(4)

 診療が終わった後、待合室で先輩と椅子に座って清算を待っていた。

 診療代は折半しようとしたが、先輩が『私が第一発見者だから』と譲らなかったので、お言葉に甘えさせて頂いた。正直なところ、安い金額ではなかったので助かったのも事実だけれど。


「これから、どうするかですね」

「うん……」

 ひとまず命の危機は去ったが、問題はこれからだ。この子が幸せになる方法を考えなければならない。

「クラスの子達やソフトテニス部のツテを辿って、里親を募集してみるよ」

「僕も――知人に相談してみます」

 交友関係は決して広くないが、それでも出来ることはやらなければならない。


「それまでは、僕の家で引き取りますよ」

 自宅でペットを飼わなくなって久しいが、院長先生の言う通り、手を差し伸べた者としての義務だ。

「ダメだよ。一応私が最初に見つけたんだし」

 慌てたように先輩が言う。

「でも、先輩のお家じゃご両親が許さないでしょ」

 両親はペットを飼わない方針だと聞いたばかりだ。


「だけど――説得してなんとか」

「それに今からこの箱ごと連れて、列車に乗って帰るのは無理ですよ。キャリーバッグ買うためにホームセンター寄ってたら遅くなりますし」

「う……」

 先輩が言い淀む。

 子猫とはいえ、今先輩が携帯している鞄に押し込むのは窮屈――というより危険だ。

 猫用の餌くらいならコンビニで入手できるが、ここからペットグッズを販売しているホームセンターとなると数キロ離れている。そうでなくても、診療代を払ったら先輩には持ち合わせが無い可能性が高い。


「安心してください。ちゃんと家まで安全に帰りますから」

「その点は心配してないけど――なんか押し付けたみたいだな」

「先輩には里親を探してもらうお仕事がありますから。それに――」

「それに?」 

「いえ、何でもないです」

 捨てられたこの子には申し訳ないけれど、先輩から真っ先に頼ってもらえたこと、そして2人の共有の存在ができたことは、ささやかな喜びだった。


「あ、そういえば――」

 思い出したように先輩が呟く。

「名前、つけた方がいいのかな」

「そうですね……」

 正式に飼うと決まったわけではないが、名無しのまま里親を待ち続けるのもちょっと気が引ける。

「いい名前思いつく?私こういうセンスあんまりないの」

「うーん……」


 そう言われても、僕も友人やペットのニックネームを考案した経験がほとんどない。僕は改めて、今日保護した子猫を眺める。純白の身体に、青色と金色のオッドアイ――

「星に見立てたら何かないかな」

 そう先輩に言われて、ふと思いついた。

「――アルビレオ」

「え?」

「はくちょう座にある星です。青色と金色の美しい連星なんですよ」


 連星とは、互いの重力で引き合って回り合う2つ以上の恒星のことだ。宇宙では比較的ありふれた存在だが、アルビレオは低倍率の望遠鏡でも容易に観測でき、しかも色の違いがはっきり分かるので連星の中でも特に有名だ。

 まぁ実際にはアルビレオは地球からそう見えるだけの『見かけの連星』とする説が有力らしいのだが、それはこの際置いておこう。


「あ、なんか聞いたことあるかも。確か宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』にも登場してた気がする」

「あれ、そうなんですか」

 以前読んだ筈なのだが、詳しい内容までは覚えていなかった。

「うん。2つの星がサファイアとトパーズに例えられてた。そっか――この子にぴったりだね」

 白い躯に収められているのは、2つの宝石。そう思うと、愛おしさが増してきた。


「でもアルビレオだと言いにくいですから、アルにしましょうか」

「いいね!オスだからアルくんだ」

 先輩が目を輝かせて同調する。

 みぃ――

 僕たちの会話が理解できたわけではないだろうが、心なしか嬉しそうにアルは鳴いた。


「天文部帰宅支部、新メンバーだね」

 夜空の宝石の名を冠した白い子猫を抱き上げて、先輩は微笑んだ。


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