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彼女の視る宇宙(そら)  作者: 藍原圭
第一章
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静かな夜に(5)

 また先輩と2人で下校する様を見られまいと、「部室にちょっと寄らないといけないんで」と姑息な嘘をついて、校外にあるコンビニ前で落ち合うことにした。

 前回と同じ河川敷に集合しても良かったのだが、ベテルギウスは水星と違って街中でも簡単に見られるし、何より今日は風が冷たいのであまり先輩を寒い場所に連れて行きたくなかった。


 学校から100メートルほど離れた場所にあるこのコンビニはカフェ併設で、すぐ隣に郵便局もあり、客は多い。新町北校生の利用者もいることはいるが、校門前で待ち合わせをするよりは目立たないだろう。

 内心期待していたが、まさか早くも再び先輩と天体観測を行うことになるとは思わなかった。観測というほど大仰なものではないかもしれないが、星について語り合いながら空を見上げるのならそれはもう天文部の活動だろう。


 先輩は先に来ていると思ったが、姿が見えない。別のところに寄っているのだろうか。

 入り口すぐの雑誌売り場で待つ。

 並んでいる雑誌にちらと目をやると、先輩が表紙を飾ったというタウン情報誌も置かれている。確か数年前にフリーペーパーに転換したらしいので、該当のバックナンバーも案外置いていないだろうか。どれ探してみようと1冊手にした。

 その矢先――


「お待たせー」

 先輩から突如声をかけられ驚いた。

「ごめん、お手洗い行ってて――って、ちょっとまさかそれ」

 事情を察したと思しき先輩が、僕を眺めて眉をひそめた。

「あーいえ、違います。これはあくまで最新号で」

 言った瞬間、墓穴を掘ったことを自覚した。

「……ダメだからね」

「は、はい」

 どことなくつむじを曲げた先輩も悪くないな、なんて思いつつ僕は神妙に頷いた。

 

 まだ明るさが残る空の東の果てを見ると、いくつか星が輝き始めている。

 白く輝くのがシリウスとプロキオン、お目当てのベテルギウスと共に冬の大三角を形成している一等星だ。薄暮の中でもその3つははっきりと見える。オリオン座は夜空を彩る星座の中でも特に有名で、星空に詳しくない人でも大勢の人が見たことがあるだろう。


 中心部に広がるオリオン大星雲は肉眼でも見ることが出来るが、望遠鏡ならより一層楽しめる。とはいえ、まだ完全に夜の帳が下りていない今はまだ見えないけれど。

「ほら、あれですよ」

 赤色に輝く星を僕は指差した。

「えーと、どれかな……」


 1等星なのですぐに先輩も見つけられると思ったが、先輩は目を細めて探している。収縮期にあるのか、例年よりもベテルギウスが暗いのが原因かもしれない。ベテルギウスは明るさの変化を肉眼で観測できる数少ない変光星だ。

「どうぞ、先輩」

 前回と同様に双眼鏡を取り出して手渡した。こんなこともあろうかと、ちゃんと準備しておいて良かった。


「ありがとう。ええと――お、あれだね」

 流石に双眼鏡を使うと、先輩はすぐに見つけた。

「赤いね……燃えてるみたい」

 先輩が見惚れたように呟く。ベテルギウスはかつて平家星と呼ばれたという。平家の赤旗に準えた呼び方だそうだ。

 虚空を見上げる先輩の横顔は、とても綺麗だった。

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