友人と姉の第6話
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アルシアはペルアに案内されながらケルンの町の中を歩いていた。得意げに先を歩くペルアはとても楽しそうで此方も嬉しくなってくる。
何でも友人とこうして町を歩くのが一種の憧れだったらしいが、ペルアのように明るい性格だったら友達の1人や2人出来ただろうに。
「単純に私に付き合えるような同年代の人がいなかったのよ」
他の家の子はケルンでの影響力が強いルードック相手では委縮してしまい、かといって同等の商家にはペルアと歳の離れた子供しかいないらしい。
「貴女ったらそんな事まるで興味ないって顔だもの。今まで見たことの無い人だし興味が出てきちゃって」
最初は怖かったんだけどね、というペルアは少し恥ずかしそうに、しかし此方の顔をしっかり見て言った。
「改めて聞きます。アルシア、どうか私とお友達になってくれませんか」
「喜んでペルア。貴女が望むのなら友達になりましょう。」
悪い子でも無さそうだし、喜んで友達になろう。
そこからははしゃぐペルアを眺めつつ、ケルンの町を見て行った。
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男は見ていた。
人混みの中でペルアが楽しそうに笑っているのを只じっと見ていた。
その顔は何処か悲しそうに、しかし憎悪が満面に写されていた。
そして、その隣にいるアルシアが此方を見ると同時に消えていった。
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「どうしたのアルシア?いきなり向こうを見て」
「誰かがいた気がして、⋯⋯気のせいだったようですね」
「誰かって⋯⋯。人なら其処ら中にいるじゃない」
変なアルシア、と笑うペルアを他所にアルシアは考えていた。
(やっぱりあの手紙に書かれていた事は本当だったかな)
昨夜渡された手紙には、今ケルンに起ころうとしている事の原因がペリウスさんの屋敷である事が書かれており、同時に現状対処出来るのが自分だけだという事が記されていた。
――それによると仮にこのまま放置した場合、今ケルンの中で生きている全ての生物は死に、逆に死んでいた存在は無差別に甦るようになるらしい。
⋯⋯あの幽霊が何のつもりで手紙を渡してきたのか正確なところは分からないが、ケルン内全ての生と死が入れ替わると聞いては流石に黙っている訳にはいかない。
とはいえ、今はペルアの護衛をしなければならないのも事実。彼女を連れていく訳にはいかないし、かといって置いていくのも違うだろうし⋯⋯
⋯⋯うん、取り敢えずペリウスさんに相談してからかな。
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「⋯⋯そんな訳なので護衛やると言った矢先になんですが、異変が起こっている屋敷の方を見させていただけないでしょうか?」
ルードックの屋敷に戻ってから、ぺリウスさんに手紙の事をある程度伏せた上で何か分かるかもしれないと言って屋敷にどうにか入れないか聞いていた。
「危険です。と言いたいところですが正直なところ此方も手詰まりでして」
あれから様々な伝手を使って原因を調べようとしたらしいのだが、何かわかったという訳でも無いらしく、詳しい原因がわからない現状何もできることが無く困っているらしい。
「この都市に在中の司祭の方も死霊術が関係している事以外よくわからないと言っていますし⋯⋯」
この都市にはブレジウスから派遣されてきた司祭が教会を運営している。宗教都市であるブレジウスは各都市で孤児院や教会を設立している。
曰く、「神の眼下に生きている以上、誰であろうと慈愛を持って振る舞うべき」というブレジウスの現在の首長――教皇というらしい――が宣言した事が切欠らしい。
「明日屋敷の方に司祭の方が調査しにいらっしゃいますのでその時に同行するという形なら大丈夫です。流石に何が起こるとも知れないのに1人で行かせる訳にもいきませんし」
ちなみに最初に会った時に居た護衛の人達は、契約している傭兵の組合から派遣されてきた為、今はいないらしい。
組合とは登録している人の中から依頼された条件に合致した人を斡旋する組織で、その人の素行が組合の評判に直結することから登録するには厳しい審査が必要で、仮に登録出来たとしても依頼の失敗が多ければ登録を取り消される事もあるそうだ。
「わかりました」
何はともあれ、明日屋敷に行く事になった。⋯⋯こっそり先に行こうかとも思ったが、下手に動いて状況を悪化させても意味がない。
その後はペルアと共に過ごした。昨日と同じくお風呂に入ったり、髪を乾かしあったり、⋯⋯髪の扱いが下手と言われ、色々と教わった。
そしてペルアが寝るのを待ってから、目を閉じた。
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「いらっしゃい、アルシア。今回はどんな用事で来たのかしら?」
今アルシアは夢と現実の狭間、つまりはラグリスのもとへ居た。
「別に何か用事がある訳でも無いのですが⋯⋯。いつも此処に居るのですか?」
「そうねぇ。現実に居てもやることも特に無いし、此処の方が退屈しないわ」
メル姉様のように日頃から仕事がある訳じゃあ無いし〜、とだれた様子で言うラグリスにアルシアは半目で、
「なんというか、本当に自由ですね⋯⋯。 というかメル姉様って?」
ラグリスはあぁ、と億劫そうに
「悠天の魔女、メルシェスナ姉様よ。天候とかの空に関する現象を統括しているから毎日自然に大きな乱れが無いように調整しているんですって。それに自分の組織を持って活動しているから相当忙しいんじゃないかしら」
ちなみに姉妹の上から3番目ね、と付け足すラグリスは疲れているようだ。
「というか随分眠そうですね。⋯⋯何か問題が?」
必要なら力になりますけど、というアルシアにラグリスは手を振りながら、
「平気よ。貴女は貴女で問題を抱えているでしょうし、まずはそちらに専念なさい。それも姉妹が無関係とは言えないから」
「やっぱり見てましたか」
「暇潰しよ。あまり気にしないで」
そう言うラグリスにアルシアは
「そろそろお暇します。体には気をつけてください」
「貴女もね。貴女は確かに強いけど新米なんだから。⋯⋯人によっては貴女を悪意を持って貶めようとするものも当然いるわ。魔女ってだけでなりふり構わず殺しに来るのもいるし」
心にも体にも気をつけなさい。と言って手を振るラグリスにアルシアは若干悩んでから少し顔を赤くして、
「ありがとうございます。⋯⋯お姉ちゃん」
そう言って現実へと帰っていった。
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アルシアが帰った後、ラグリスは珍しく目をカッと見開いて、ガタガタ震えていた。
「お姉ちゃん⋯⋯。私がお姉ちゃん⋯⋯」
頭の中でアルシアの言葉がリフレインしていく。思えば姉と直接言われたのも久しぶりかもしれない。
「⋯⋯やっぱりどうにかして介入しようかしら。その前にあの件は済ませないといけないけど」
悩むラグリスは本気で動こうと決めた。さっさと終わらせてあの瞬間を繰り返し夢見るのだ。
尚、言ったアルシアは顔を真っ赤にして後悔していた。