再開と依頼の第5話
全角スペースの件は解決しました。
第5話です。お楽しみください。
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夢と現の狭間から戻ってきたアルシアはまず周囲を見渡してみた。
すると何故か借りている宿の一室にいた。ラグリスに呼ばれる前は図書館に居た筈。
(どうせ姉さんが何かしたんだろうな)
ラグリスの凄まじい押しによって、彼女を姉さんと呼ぶ事になったアルシア。
お姉ちゃん呼びを回避出来ただけでも大金星と呼べるだろう。
「⋯⋯色々と濃い人だったな」
疲れたように呟くアルシアだが、彼女はまだ知らない。
――大体の魔女はラグリス以上に濃いということを。
短い間に色々有ったが、1つ決めた事がある。
(この世界を見て回ろう)
色々な都市に行って、色々な人と会って、この世界を知っていこう。
そう決めたアルシアは先ずはケルンを見ていこうかな、と宿を出る。今は昼近く、魔女に飢えは無いが何か食べに行くのも良いだろう。
と、そこには1日ぶりのペリウスさんが馬車の中からこちらを見て、
「あぁ、いらっしゃいましたか」
随分探しましたよ、と言うぺリウスさん。何故此処にいるのか、というか何故自分を探しているのか不思議なので聞いてみた。
「1日ぶりですぺリウスさん。どうしたんですか?」
ぺリウスさんはえぇ、と
「いくつかお話したいことがあるのですが、今お時間頂けますか?」
「大丈夫ですが、どうしたんですか?」
「話は馬車の中で、どうぞこちらへ」
言われるままに馬車に乗り込むと、ぺリウスさんの向かい側に腰掛ける。
馬車が出発し、ぺリウスさんは何処か急いだように話しを切り出した。
「実は頼みたいことがありまして」
「頼みたいこと?」
「実は近々娘が学園都市内の学園に入ることになりまして、出来れば今日から学園都市に辿り着くまで娘の護衛をして欲しいのです。」
謝礼の方は弾みますのでどうか受けて頂けると、というぺリウスさん。引き受けること自体は別に構わないのだが疑問が湧いたので聞いてみる。
「それは別に構いませんが、何故私に? 昨日会ったばかりですし、娘さんも私が同行することには反対するのではないのでしょうか?」
ぺリウスさんはそのことなのですがね、と前置きして、
「娘が貴女と友人になりたいようでして」
曰く、娘さんは助けてもらったにも関わらず礼の一つも言わずに去ってしまった事を申し訳なく思っているらしく、何とか謝って出来れば仲良くなろうとしているらしい。
「それに貴女は見たところ娘と歳も近いようですし、出会った時の事を考えると実力も人柄も申し分ないでしょう」
「随分誉めてくれてますけど、どうしてそこまで信用してくれるんです?」
信用してくれるのは素直に嬉しいのだが、こうも明け透けに頼られると何か裏があるのではと勘ぐってしまう。
「それこそ最初に会った時の事が理由ですよ。貴女は成り行きとはいえ我々の助けを聞き届けてあの場へ来た。商人としては失格かもしれませんが、信用できると感じたのはあの時です。それにやろうと思えば道中どうとでも出来たでしょうし」
⋯⋯そういえば馬車に乗ってから結構経っているけど、何処に向かっているのだろうか。
「話変わりますけど今何処に向かっているんですか?」
「あぁ、言っていませんでしたね。ルードックの屋敷です。先程も言った通り娘の護衛をしてほしいので今回はその顔合わせをしてもらおうかと。何分最近身の回りがきな臭いので」
「きな臭いというと?」
ペリウスさんは少し躊躇うように、
「本当は恩人である貴女を巻き込むのは気が引けたのですが」
ペリウスさん曰く、最近ペリウスさん個人が購入した屋敷で不可解な事象が起きているらしい。
最初の内は屋敷の花壇の花が突然枯れたり、ドアが誰も居ないのに開閉する程度だったのだが、段々と突然馬が居なくなったり、門番が昼間にも関わらず突然気絶したりするようになる等、不気味な出来事が続いているのだそうだ。
「最初は只の悪戯かと思ったのですが⋯⋯」
幾らなんでも此処まで悪質な悪戯を興味本位で仕掛ける事も考え辛いし、何より知り合いの魔術師に相談したところ、死霊術の可能性があると言われたらしい。
「取り敢えず相手の目的が何なのか分からない以上、妻と娘の安全は確保しておきたいのです」
事が終わるまで奥さんは違う都市にある実家に移って貰い、そして娘さんは警護が厳重な学園都市へ入学させるらしい。
「娘がケルンを発つのは1週間後、学園都市へ着くまでは約2週間ですので依頼の期間は3週間程になります」
ペリウスさんは頭を下げて、
「改めてどうかこの頼み、聞き入れて貰えないでしょうか」
⋯⋯別に断る理由も無いし、寧ろ丁度良いかな。学園都市とか行ってみたいし。
「解りました、引き受けましょう。⋯⋯護衛の仕事は初めてなので上手く出来るかはわかりませんが」
「取り敢えず娘の安全を確保してくれたのならそれで構いません。⋯⋯どうかよろしくお願いします」
等と話している内に到着したようだ。
レンガのような物で造られた洋風の屋敷があった。屋敷自体は其ほど大きくないものの庭や物置小屋のような物を含めると、結構な広さになるだろう。
「こちらがルードックの屋敷です。今から400年程前に建てられ、時代に合わせての工事が繰り返された結果今のような形と成った、と言うところでしょうか」
どうぞ此方へ、と案内してくれるらしいペリウスさんについていくと門番が会釈してくる。
此方も会釈を返していると屋敷の方から2人の女性が此方へ歩いて来た。顔を見るに昨日のように怖がられてはいないようだ。
「昨日顔を合わせたかと思いますが改めて、妻のリュリスと娘のペルアと言います」
「娘をどうかよろしくお願いいたします」とリュリスさんが言いお辞儀をされたので此方もお辞儀で返す。
「昨日はありがとう、ペルア・ルードックよ。お友達になってくれると嬉しいわ」
中学生か高校生辺りだろうか。気が強そうな瞳はしているものの物腰は穏やかだ。
「外で話すのも何ですしどうぞ、中で食べながらお話しましょう」
ペリウスさんに先導されて中に入ると、既に食事の準備がされていた。
「部屋は用意しています。食事の後でペルアに案内させましょう」
ペリウスさんがそう言ってから食事が始まった。食べている最中色々とペルア(呼び捨てで良いと言われた)から質問された。
出身は何処かとか、髪が綺麗とか、行ったことのある都市は何処かとか。中でも最近この辺りに来たというと、明日から案内してくれると言ってくれた。荷造りは既に出来ているし、少しは遊んでも問題無いらしい。
食事が終わると部屋に案内された。ペルアの部屋の近くで何かあったときに直ぐに対応出来るようにという事らしい。
⋯⋯お風呂に一緒に入る時には流石に恥ずかしかったが。
商業都市らしくケルンには様々な都市の交易品があるらしく、お風呂も科学都市から仕入れた物だそうだ。
そんなこんなで今はペルアの部屋にいる。寝る前に少し話したいらしい。
既にベッドに入っているペルアは色々と聞いてきた。恋人はいるのかとか、此処に来るまで何をしていたのかとか、悪漢達をやっつけたあれは何だったのかとか。
流石に魔女である事はぼかしたが、本人曰く同年代と話したのは久しぶりだそうで、余りにも嬉しそうに話すものだから、ペルアが寝落ちするまで話に付き合ってしまった。
静かに寝息を立てるペルアを他所に廊下へのドアに目を向ける。
(⋯⋯何かいるな)
ペルアは気付いていなかったようだが、話している途中からずっと此方を見続けている視線があった。
「何かあるなら姿を見せたらどうです?」
ペルアを起こさないように小声で言うと、気配は少し迷うような素振りを見せ、ゆっくりドアを開いた。
「⋯⋯話を聞いた時にそれっぽいとは思いましたが」
その女性には足が無い、というか全身が透けていた。
「幽霊って本当に居たんですね」
女性は軽く微笑み、そして透けるように消えていった。そしてポトリと落ちた手紙が一通。
⋯⋯これは一悶着ありそうかなぁ。
誤字、文章のおかしな点等ありましたら、指摘お願いします。