決意と新生の第4話
全角スペースが何故か使えなくなって一字下げも出来ない⋯⋯。
第4話、どうぞ。
此処は夢と現実の狭間。
本来生物が入ってくることが出来ないそこで――
「ほーらまだまだ行くわよー」
魔女同士の特訓が繰り広げられていた。
ラグリスの横に浮遊している兵器の砲台から青い閃光が走り、アルシアに向けて一直線に向かう。
「どんどん⋯⋯どうぞ!」
それをアルシアは自身の時を停める事でやり過ごしつつ自身の時を停めたまま時間を引き伸ばすことで速度を上げてラグリスへと突貫した。
「やっぱり防御と速さは大したものね」
感心したように頷くラグリスへと拳を繰り出すアルシア。
「けど、攻撃がね」
瞬間、ラグリスの前に展開された翡翠の壁がアルシアの拳を防いだ。
――特訓が始まってから3時間程経過している。
攻防を繰り返す度に加速度的に強固になっていくアルシアの理と次々と増えていく理の応用に対して、ラグリスは驚きつつも余裕があった。
そもそも夢と幻を司るラグリスは他の魔女と比べれば直接的な戦闘力は殆ど無いと言っていい。
しかし此処は夢と現実の狭間、夢を配するラグリスにとっては寧ろ此方が現実と言える程に心地よい場所である。
そして何よりラグリスは数千年の時を生きる魔女だ。当然自身の理を十全に扱える。
対してアルシアは誕生して1日の新米魔女である。成長速度は驚異的な物があるが、少なくとも今は抜かれる心配は無いと言っていいだろう。
そうラグリスが考えている間にもアルシアは閃光を避け、天体の衝突を防ぎつつ、眼前の魔女に突撃していった。
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そしてアルシアは未だかつて味わった事のない感覚を味わっていた。
攻防を繰り返す度に五感の何処でもない場所が熱を放っているのを感じる。そして熱が高まっていくと同時に時間の流れを感覚で理解出来るようになっていく。
より深く、沈むように今まで手が届かなかった領域に近付いていると確信した。
まるで自分自身の内側を覗いているかのような不思議な感覚に戸惑いながらも、その心は自分でも不思議な程に穏やかだった。
眼前の攻撃に対処しながらもアルシアの心に元の世界の記憶が想起されていく。
楽しかったことや辛かったことも色々な事があって、自分にとっては間違いなく宝物であると断言できる。
――だからこそそんな大切な世界と此処で決別しなければならないと理解した。
それはある種の儀式であり、自身の《新生》に必要なこと。
この世界の魔女として真の誕生を迎えるために1つだけ避けては通れない事があった。
即ち元の世界へ帰ることを諦め、この世界で魔女として生きる決意を示すこと。
平和な世界で生きた「 」ではなく《時戒のアルシア》としてこの争いが絶えないだろう世界を生き抜くことを誓うこと。
⋯⋯未練は当然、ある
この世界に生まれてまだ1日しか経っていない。当然元の世界の記憶は鮮明だし、落ち着いたら帰る方法を探そうかとも考えた。
――同時にこうも思った。
今の自分が帰ったところで元のように生きられるのか?
既に自分は長い時を生きる魔女になってしまっている。
仮に元の世界へ帰っても自分と他の人が生きる時間は全く違う物になる。
そんな状態で以前のような関係を築ける訳も無い。
何より時間の流れを明確に知覚出来るようになった事で理解した。
元の世界とこの世界では時の流れが全く異なる。今すぐ帰ることが出来たとしても、自分が生きていた時代とは全く異なる時代に辿り着くだろう。
――既に一度死んでしまった時点で、自分が元の世界で生きる資格は永遠に失われてしまったのだ。
だから――
「今までありがとうございました」
此処に優しい過去との決別を。自分はこの世界で生きていく。
「俺は、私はこの世界で生きていきます」
最大限の感謝を込めて、大切な人達に別れを告げよう。
元の世界の記憶が無くなる訳ではない。
決別したところで自意識が変化する訳でもない。
それでも涙が止まらなかった。
「どうか、幸せに」
――瞬間、アルシアの全身が閃光に包まれた。
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閃光が収まると同時に、蒼銀の魔女が姿を表した。
虹に光っているようにも見える銀髪を靡かせ、深い蒼の瞳の中に時計のような紋様が浮かんでいる。
そして、その身体には所々にラグリスの物と似た透明な水晶が輝く銀と蒼のドレスを纏っていた。
其れを見てラグリスは、
「おめでとう、其れが貴女の理装ね。――本当に綺麗だわ」
と言って、
「じゃあ、試して見ましょう」
その瞬間、先程までとは明らかに質量の桁が違う天体が射出された。
それをアルシアは拳で迎撃し、
――天体は拳の一撃で粉砕された。
「一応威力は上げたのだけど、何をしたの?」
「時間の圧縮です。先程まで引き延ばした時間を圧縮してぶつけました」
アルシアは拳をぷらぷらと振りながら答える。
理の強度が先程とは明らかに違う。
今なら大半の魔女と互角に渡り合うことも出来るだろう。
「何か、吹っ切れたみたいね? さっきまでのちょっと悩んでる顔も可愛かったけど、その顔も良いわ」
アルシアは、はい、と答え
「どのみち突き当たる壁ですから。せっかくなので今ぶち破ってやろうかと」
ラグリスは、そう、と嬉しそうに笑った。
「なら真の魔女としての新生おめでとう。手始めに私の事はお姉ちゃんと呼んでちょうだい」
「⋯⋯出来れば姉さんで」
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結果的に目標は達成した為、ラグリスは非常に満足だった。
魔女の常識を教えることも理装を発現出来るようにすることも本心ではあったが、アルシアには伝えていないことがあった。
「人間性は良好、実力も成長性を考えれば申し分なし。これは期待出来るかもしれないわ」
ラグリス、というより今回の事を彼女に頼んだ存在は常日頃考えていた。
――即ち、魔女には問題児が多すぎる。
それぞれの理が人格形成の根本を担っているのだから、仕方のない部分はあるのだが。
「時間は万物に等しく流れる概念。当然それを司る貴女も本質的には誰にでも平等であろうとするわ」
既に現実に帰ったアルシアに語りかけるように言うラグリス。
気に入っているのは嘘ではない。
だがそれ以上に期待している事も事実だった。
「あの子達も少しは自重してくれれば良いのだけど⋯⋯」
無理だろうな、と苦笑する。
本来魔女が人間達の国に干渉するのはあまり誉められた事では無いのだが、止めようとすると彼女達は反発するだろう。
――殺意という返答を持って。
いくら問題児と言えどラグリス達にとっては変わらず妹だ。そんな事出来よう筈も無い。
「頑張って頂戴アルシア。流石に末っ子に負ければあの子達も考え直すかも知れないし」
「あ、でも」
ラグリスは心底残念そうに
「お姉ちゃんって呼ばなかったのは少し減点ね」
今まで言われた事なかったから言われてみたかったのに、『姉さん』なんて他人行儀な。
食い下がれば言ってもらえるかしら。と考えるラグリスの顔には、本人も知らずに笑みが浮かんでいた。
誰かpobox plusで全角スペース打つ方法教えてください⋯⋯。




