夢幻の魔女と第3話
第3話、どうぞ。
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此処は、アムスタル大陸。
世界に存在する大陸の中でも特に広く、また周囲に島国が多数存在することから、他国との交流も盛んである。
かつてはメルカルスという国を頂点として周囲に存在する都市国家同士で交易をしている状態だったが、約70年前《殺戮の魔女》が引き起こした大虐殺、《メルカルスの惨劇》によってメルカルス王家や、主要な貴族は全滅。
メルカルスは滅亡し、後釜を狙う都市国家による覇権争いが頻発するようになった。
現在覇権を狙う主要な都市は
魔術の研究によって発展し、『魔術を利用した道具《魔導器》を使って人類を発展させる』という理念を掲げている魔導都市 《アルガス》。
信仰によって得られる法術をもって発展し、『神を信じ謙虚に生きることが世界全体の調和を取る唯一の方法である』と宣言している宗教都市 《ブレジウス》。
科学の発展による特異な兵器や超能力を生み出し、『科学のもとでのみ、人は真に繁栄することができる』と語る科学都市 《オルグラウス》。
他にもエルフ等の長命種が中心となり自然と共に生きることを至上とし、精霊に対する信仰が篤い精霊都市 《セラゼルン》や、竜を神聖な物として扱い、竜と共に空を翔ぶ竜騎士が中心となっている竜騎都市 《グラマズラ》等が存在する。
そして忘れてはならないのが、《王権の魔女》が統治している都市、《エジェルタ》である。
《魔女》の絶対的な力を象徴とし、他にも2人の魔女を擁しているとされるこの都市は現在最も覇権に近いとされている。
これ等の都市が互いに牽制し合い、危うくも均衡が保たれているのが今のアムスタル大陸の現状である――。
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「なーるほど」
此処は図書館。
昨日ケルンの通行許可を貰い、ペリウスさんから謝礼として貰ったお金で教えて貰った宿へと泊まった。
その時にも色々あったのだが、そこは割愛しておいて。
まずこの世界の事をよく知らなければいけないと、道行く人々に尋ねながら、図書館へ向かった訳だ。
今読んでいたのは《アムスタルの混乱について》という本である。
⋯⋯どうやら文字も読めるらしい。
此処に来てから2、3冊読んでいるが、どの本も微妙に記述が違っていたり、贔屓目のようなものが見えるのは多分本を出版した都市の違いだろうか。
本の内容を要約すれば、
・色んな都市が覇権を目指し競っている。
この一言に尽きる。
と、此処まで考えたところで、
「ッ!」
何者かに干渉されているのを察知した。
悪意のような物は感じないが、とても強力であり、抵抗し辛いものがある。
こんなことが出来るのは――。
「いらっしゃい、私の新たな妹」
先達の《魔女》しかいない。
「どうぞ此方へ。少しお話しましょうか」
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目を開けると其処は花の舞う庭園のような場所だった。
此処は――
「夢と現の狭間よ」
気付けば彼女は其処にいた。
「初めまして」
豊かな翠髪を垂らし、これまた翠色のドレスのような物を着ている美しい女性だ。
「私の名前は《夢幻のラグリス》。夢を司る魔女にして貴女の姉よ。可愛い妹、貴女の名前を教えてくれる?」
取り敢えず名乗られたので、
「初めまして。《時戒のアルシア》です。恐らく貴女方からすれば末の妹、ということになりますね」
ラグリスは、まぁ、と驚いたように
「此処で挨拶を返されたのは久しぶりね。あの子達は何も言わずに攻撃してきのだけれど」
とそこまで言ってから、
「良いわね貴女。見ていた限りだととても素直なようだし、少しサービスしちゃおうかしら」
「サービス?ていうか今見てたって」
「私は夢を司っていますから」
他人の夢だろうと覗けちゃうのよ、と悪戯気に笑う彼女に
「あんまり良くないと思いますよ。そういうの」
会ったばかりで言うのも何ですけど、と返す。
「貴女までお姉様みたいなことを言うの?」
楽しいのに、と言う彼女。
「夢ってね、その人の心が表れるのよ」
そう言って笑う彼女の顔は何処と無く羨望が見え隠れしていた。
「その日嬉しかったこと、辛かったことや腹立たしかったこと、何より欲望が現れるのは見ていて飽きないわ」
「魔女の夢も覗こうと思えば覗けるけど」
一拍おいて、
「変わり映えしないのよ」
長く生き過ぎるせいかしらね、と言う彼女はとても退屈そうだった。
「魔女の寿命は他の生き物よりも遥かに長いわ。もしかしたら不老なのかもしれない程に」
――それは、そうだろう。
魔女の姿形は人間と大差ないが、本質的には精霊に近い。器は似ていても中身は全く違うのだ。
けど、と
「だからこそ、外からの刺激に鈍感になっていっちゃうの。私達を武力で上回る存在は居るには居るけど、魔女の《理》に抗うことが出来る生物はいないわ」
「他人を気にする必要が無くなっちゃうから、段々何も気にしなくなるの」
あぁ、そして――
「――そして夢も変化しなくなる」
そうね、と頷いた彼女はだからこそ、と
「貴女の夢は綺麗だったわ。誰かに対する感謝に満たされていて」
あまり正確には見れなかったのだけど。と言った彼女はそれよりもまずは用件を済ませましょうか、と言い、
「まず、魔女についてのより詳しい知識を教えてあげる」
実は生まれた時に与えられる知識って個人差がある上に結構大雑把なのよね、と少し嬉しそうに言う彼女。
「次は姉妹についてのことね。結構覚えることあるからメモすることをおすすめするわ。まぁ此処にメモなんてないけど」
何故かどんどんテンションが上がっていく彼女に少し引いていると、
「他にも色々あるけど⋯⋯、説明するのも面倒だしさっさと始めましょうか」
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楽しそうにラグリスが笑った次の瞬間、アルシアは全力でその場から下がった。
そして先程までアルシアがいた場所には、巨大な剣⋯⋯のような何かが突き刺さっていた。
アルシアは顔をひきつらせながら、
「一応、何でこんなことをするのか聞いても良いですか?」
ラグリスはとても楽しそうに、
「魔女は《理》が具現化した存在。互いの《理》をぶつければある程度お互いのことがわかるのよ」
それに退屈だったし、と呟いて
「まぁ、そういうわけで少し遊びましょう? 長い間体を動かしてなかったから、少し運動に付き合って頂戴?」
そう言って今度は空の果てまで覆う程の巨大な炎、というよりは太陽を落としくる。
アルシアはそれに対して時間を巻き戻す事で対抗しようとするが、太陽は僅かに勢いが弱まる程度で落下自体は止まらない。
「貴女は貴女自身の力を使いこなせている訳じゃないのよ」
力の大小の問題じゃなくてね、とラグリスは言う。
「魔女の理は理論ではなく、感覚に頼る物が大きいわ。 魔女の理はより深く感覚を沈めなければ十全の力を発揮できない」
そう、魔女はその理の擬人化と言って良い存在。 当然個々の理に関しては最初から極限の物が備わっているが、感覚については別だ。
「人と似た感覚を備えてしまったが故に、本来使える筈の理に対する感覚がずれてしまっているのよ」
アルシアは成る程、と呟いて
「特訓ですか」
「まぁ、そうね。ついでに教えてあげるけど」
「魔女が感覚を取り戻すのには幾つか段階があってね」
ラグリスの空気が変わった。
「ある程度感覚を取り戻すと自分の理を具現化した《理装》という物を創り出せるようになるの。ちなみに魔女同士で会う時の正装のような物でもあるわ」
ラグリスの全身が翠に輝き、一瞬の閃光の後には翡翠の鎧とドレスが混ざりあったような衣装を身に纏った魔女がいた。
「サービスすると言ったしね。理装を具現化出来るくらいには付き合ってあげる」
そう言ってラグリスは浮遊し、周囲に見たことがない兵器や小さな天体を出現させた。
アルシアもそれを聞いてわかりました、と答えつつ
「じゃあ、お願いします!」
そう言って自身の理を解放した。
その瞬間、周囲を舞っていた花びらは停止し、大地に咲く花は枯れる物や逆に種の状態へ戻る等、《時》の理が吹き荒れた。
「怪我は気にしなくていいわよ。此処は夢と現実の入り交じる場所、夢は人を苦しめる事はあっても直接殺すことは無いわ。」
――そして魔女同士の特訓兼語り合いが始まった。
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