違和感と到着の第2話
第2話です。
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(さて、服も着たことだし)
衣服を貰うことが出来た為、取り敢えずは未だに緊張が解けない様子の商人に話掛ける。
「怪我とかはありませんでしたか?」
彼は少し強張った声で、
「ええ、大丈夫です。しかし――」
彼の視線を追うと、そこには未だに停止したままの男達。数えてみると、27人――反撃によって死んでいた者も含めれば34人か。
その近くでは商人達の護衛である男女が傷の手当てをしながら、此方に対しても若干の恐れが見える目で、それでも油断なく見つめていた。
(まぁ、無理も無いのかな)
仮に商人達に何かあった場合即座に動けるようにしているのだろう。
無理もない、というよりは自分でもこんな奴が出て来て警戒するなという方が無理だとは思う。
とはいえ、今はそれよりもあの男達の事が先である。
「彼らはどうするつもりで?」
1人や2人なら兎も角、30人近くとなると連れていくのも大変だろう。
商人が、
「出来れば近くの都市の軍に引き渡してしまいたいのですがね⋯⋯」
そこまで言ったところであぁそういえば、と
「助けていただいたにも関わらず、礼もまだでしたね」
非礼でした。と謝る商人に、
「まぁ、生きるか死ぬかの瀬戸際の直後に礼を求めるのも酷なことでしょう」
事実彼らは自分が割って入らなければ数に押し切られて死んでいたかもしれない。
「個人的な言葉ですが、礼というのはお互いに余裕がある時だけ尽くせば良いのだと思います。何よりも大切なのは生きていることなんですから」
――勝手に死んだ自分が言って良い言葉ではないが。
少し黙っていた商人だったが、直ぐに首をふり、
「そう言っていただけると助かります。しかし妻や娘、恥ずかしながら私もですが――」
正直貴女が恐いのです。と未だに少し震えた声で告白してくる。
此方もその言葉には特に何か言えることも無い為、苦笑して誤魔化すしかない。
⋯⋯少し気まずい沈黙の後、商人が恐る恐るといった表情で
「⋯⋯私の名はペリウスと言います。ペリウス・ルードック。フラムラックの商会の一員です。貴女の名を伺っても?」
⋯⋯そういえば名前決めてなかった。元の世界での名前を名乗ろうかとも思ったが、今の自分は人間ではなく魔女である。となれば、
「アルシアです。アルシア⋯⋯ティムロウです。」
即興にしてはちゃんとした名前っぽくなっていたのは、ちょっと自賛したい。
商人――ペリウスさんが、では話を戻して、と前置きしてから、
「とにかく、あの男達を全員軍に引き渡すのは少し難しいので近くの都市に報告してから逮捕しに来て貰いましょう。⋯⋯彼らの状態は後どれほど続くのでしょうか?」
少し考えて、
「2日程は持つかと」
そこまで強く停止させた訳では無いので、その辺りで動けるようになるだろう。
というかこの人怖いと言う割には堂々と聞いてくるな、と感心していると、
「では大丈夫でしょう。近くの都市――ケルンまでは直ぐなので」
――ケルンという都市がどういう場所なのかは分からないが、ここは連れていって貰おう。
「出来れば同行させて貰っても?」
ペリウスさんは快く、
「恩人を無下にすることはルードックの恥。喜んで」
というより、此方から言いだそうと思っていました。と笑うペリウスさん。大分緊張も解けたようだ。
「では、早速行きましょう。日が暮れたら危ない」
そう言って、遠巻きに此方の様子を伺っていたペリウスさんの家族や、護衛の3人を集めて出発することや私が一緒についていくことを伝えていた。
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馬車を全員で何とか起こし、その中から必要な物だけを回収してから全員で歩いてケルンまで向かっていた。
歩きながら考える。
(どこか頭を弄られたかな?)
言葉が通じているということもそうだが、それより大事なことがある。
というのも、この世界に来てから明らかに外からの脅威に対しての反応が鈍くなっているように感じる。
先程のは確かに《魔女》にとっては危機とは到底言えないものではあった。仮に剣や矢が直撃しても剣と矢が壊れるだけだっただろう。
しかし、自分は日本で平和に暮らしてきた只の人間だ。あんな状況で平静を保つことなど到底出来ない筈。
心当たりがあるとすれば⋯⋯
(一度死んだことでその辺りがおかしくなったかな)
一度死んだから危機感が薄れた、ということも可能性としては普通にあり得ると思う。
⋯⋯いや、考えるのはやめようか。
今答えが出ることは無いだろうし。
(とりあえず情報を集めよう)
思考を打ちきり、ペリウスさんにケルンの事を聞いてみる。
「ケルンとはどういった都市なのですか?」
ペリウスさんは少々驚いた顔で、
「ご存知無いのですか?」
と聞いてきた。
「はい⋯⋯この辺りに来たのもつい最近でして」
嘘は言っていない、が、本当のことも言っていないことに若干良心の呵責をかんじていると。
「ではお教えしましょう。」
と何やら得意気に言ってきた。
ペリウスさん曰く、ケルンとは、商業都市の1つであり、他の都市との交流で発展した都市らしい。他にもこの辺りの交易の中心であることや、現在の首長は寛容であることで知られている事、フラムラック商会の本拠地もケルンに存在することなどを誇らしげに教えてくれた。
「ペリウスさんは、ケルンが好きなんですね」
只の説明ではない、ケルンへの誇りが感じられる程に一句一句に熱がこもっていた。
その証拠にペリウスさんは、
「えぇ、勿論。ケルンで生きてケルンに尽くし、ケルンで死ぬ。其れが代々続いてきたルードック家の誇りであり、ケルンに生きる者へ見せるべき生き様ですから」
そう言って笑うペリウスさんの顔は、自らの故郷に対する確かな愛と自らが故郷に尽くしてきた事に対する自負があった。
それを聞いて、
「言葉にはし辛いんですけど――」
一拍置いて、
「良いですね、そういうの。凄く良いなって思います」
彼は、彼らはケルンを愛し、ケルンに生きる人の為に尽くしてきたのだろう。
それは間違いなく生きた人間が出せる答えであり、⋯⋯魔女になった自分には多分もう言えない言葉なんだろう。
少し、寂しい気持ちになっているとペリウスさんが、
「アルシアさんもきっと気に入りますよ」
自分も、
「そうですね、そうであれば良いなと思います」
⋯⋯その後もケルンの名所や、宿の場所等を聞きながら談笑している内に到着したようだ。
周囲は壁で覆われており、衛兵らしき人達が巨大な門を出入りする人々が列を乱さないよう注意を払っている。
ペリウスさん達はそのすぐ横にある、商人用の出入口へ向かうらしい。被害を報告し、軍に対処してもらう為なんだとか。
自分は今回が初の来訪なので、色々と手続きをしてからでないと入れないらしい。
という訳で、此処でお別れとなる。
「それでは」
ペリウスさんの奥さんや娘さん、護衛の3人から礼を言われ、ペリウスさんとも別れの挨拶をする。
するとペリウスさんが、あぁ忘れていたと、こちらを見て得意気に、
「ようこそアルシアさん。商業都市ケルンへ。どうぞお楽しみください」
第1都市 商業都市ケルン
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