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時戒の魔女は旅をする  作者: 灯昂lowten
プロローグ 魔女の目覚め
2/10

出会いと自覚の第1話

プロローグからの第1話です。


――自分は死んで、気付いたら女になって此処にいた。


 自分の状況を説明しようとすると、この一言に尽きる。


 場所は多分森の中、にしては目に見える植物も虫も見たことが無いものばかりだが。


 自分の身体を見下ろせば、真っ白な均整の取れた身体が見える。



「やっぱり現実かぁ」



 現実逃避気味に呟いてしまったが、仕方のないことだと思う。


 此処がどこなのかも分からないし、先ほどから自分の知らない知識が津波のように押し寄せてきていて、その知識を整理するだけで必死なのだから。


 とりあえず少しの間、動かずに状況と知識を整理しよう。














――よし、とりあえずは収まったかな?



 知識の波も収まり、現状もある程度理解できた。


 内容を整理すると、


 自身が《魔女》と呼ばれる存在であること。


《魔女》とは異界からの外敵への抑止力として世界の概念が意思を持って擬人化した存在であること。


《魔女》は他に12人存在しており、姉妹――自分にとっては姉に近い存在であること。


 異界の《敵》は対になる魔女が存在している限り、この世界に干渉出来ないこと。


 自身は時の理を象徴する《魔女》であること。


 自分の魔女としての名前は《時戒のアルシア》であること。


 そして自分が生まれたということは、対となる《敵》がこの世界に干渉しようとしていること。


――なんというか、世の中色々あるんだなぁとしか言えない。


 多分、というか確実に此処は自分からすると異世界と呼べる場所であり、其処に《魔女》として生まれ変わったと。


 状況は理解したが、今度は色々疑問が湧いてくる。


 何故自分が魔女として生まれたのか。とか、何かあったのだとしてももう少し人選しっかりした方が良いんじゃないかとか、色々と疑問は尽きないが、多分考えても無駄なので今は置いておくとする。


 とにかく今は人の居るところへ、と考えた時。


「――――」


 魔女になって以前とは比べ物にならない程発達した耳が何かの音を捉えた。


 そちらへ注意を向けるとその音、否、声?が徐々にはっきり聞こえてくる。


「⋯⋯て」


「⋯⋯けて!」




「誰か助けて!」



――瞬間、声が聞こえた方向へ走りだした。



 木々の間を凄まじい速度で駆け抜けていく



 速く、速く、人間だった頃では信じられないような速度で声がどんどん近付いていくのが分かる。




 そして木々の先に見えたのは、横転した馬車のような物と、何人かの死体、そして下卑た笑いを浮かべて襲いかかる男達と必死に抵抗している男が2人と女が1人、そして3人に守られているだろう家族が1組。



――此処で2つ失念していることがあった。


 1つは速度を出しすぎて勢いをつけすぎたこと。


 もう1つは――今の自分は全裸であること。



(あっ、これ止まれない)


 気付くも既に遅く、争いのど真ん中に割って入る事になった。


(もうどうにでもなーれ)


 もう取り返しは付かなくなったことに自棄になりながら。


 さて、取り敢えずは――


「誰か、着るものか羽織る物くれませんか?」








 男達の方は突然割って入ってきた女に一瞬ポカンとした顔をしたものの、すぐに下卑た顔に戻って男達の1人が言った。


「おいおい、駄目じゃあないかそんな格好でこんなとこに来ちゃったら」 と笑う。



 下卑た笑い声が響き渡ると、他の男達も色々と不愉快なことを言ってニヤニヤし始めた。


(やっぱりこういうのって世界共通なのかな?)



 等とどうでもいいことを考えていると、後ろにいた家族の娘であろう少女が、


「あなた馬鹿なの!? 早く此方に来なさい!」


と叫んだ。


 すると笑い声が止み、男達のリーダーらしき男が


「何いってんだ? 何処に行こうと変わらねえよ。お前らもそこの女も全員此処で死ぬに決まってんだろ!」


 とそれを聞いた男達の1人が


「こんないい女久しぶりだからなぁ。精々楽しませてから死んでくれよぉ」と笑いながら此方へ向かって歩いてきた。


(人間相手に試すのは気乗りしないけど――)


 そして動かない此方へ手を伸ばし、触れようと近付いて――










▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


 「は――?」


 女に触れようとした仲間の1人がその声を漏らした途端に動かなくなった。


 まるで時間を止められたかのように微動だにしない。


 それを女はそれがあるべき姿であるかのように一顧だにせず、こちらを見つめ続けている。


 気付けば商人達も女の視線に入りたくないかのように、息を潜めて縮こまっている。


 まるでこちらの存在そのものを見透かすような目で、ただこちらを見ている。


 何が起こった――?


 何だこいつは――?


 浮かんだ疑問を振り払うように、


「ッッッ! 殺せ!」


 その声を受けて同じく硬直していた仲間が動いた。


 不思議な事に男達の全員が共通して1つの確信を持っており――。


 それは、この女が動けば自分達は間違いなく終わる、という生存本能にも似た心の震えだった。


 男達は畏れを振り払うように女へ剣や弓を向け、恐らくこれまで生きてきた中で最も速くかつ正確な動きで殺すべく襲いかかった。


 しかし男達の射る矢は女に当たる前に空中で静止し、剣は振るうよりも前に塵となった。


 「――!」


 理解出来ない現象に男達は最早唖然とするしかない。


(ふざけるな⋯⋯! こんな現象、魔術で起こしているにしても有り得ない!)


 男達のリーダー――かつて曲がりなりにもある都市で軍人として勤めていた自分だからこそ分かる。


 あの女は魔術を使えない。


 そもそも魔術を使うには専用の魔導器が必要であり、あの女がそのような物を持っている様子は無い。


 魔術を使わずにあのような事が出来る存在は、宗教都市の司祭や、科学都市の軍隊等いるにはいるが、それらにしても大なり小なり特殊な道具を使わなければ、あれ程の事象は起こせない――。


――だとしたら、思い付く答えは1つだけ。


(いや、あり得ない⋯⋯あり得ていいはずがない!)


 何故なら、彼女達は12人(・・・)しか存在しない筈――。

 

 そのような事を考えている間に女が動き、その時点で勝敗は決した。


 というよりは、そもそも戦いになっていなかった。













▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲



「成る程ね、これが魔女の《理》ってことか」


 自分でも驚くくらいに淡々と呟きながら、《停止》させた男達を見る。


 死んではいない。がまるで石になったかのようにピクリとも動かない彼らを見ると、改めて自分に起きた事態を直視せざるを得なくなる。


 要は自分はもう人間ではなく魔女という名の怪物のような存在であることを。


(まぁ、そんなことは大して重要じゃないんだけど)


 器が変わっても本質は変わらない。


(取り敢えずは――)


 襲われていた家族を見る。


 此方を見て明らかに恐怖していることに若干傷付きながらも、これだけは言わなければならない。


「あの、服か羽織る物貰えませんか?」


 商人達は首が取れんばかりに首を縦に振った。




――気持ちは分かるけどそんなに怖がらなくても。





誤字や文章のおかしな点がありましたら、指摘お願いします。

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