表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時戒の魔女は旅をする  作者: 灯昂lowten
死霊の館編
10/10

命と終結の第9話

 大分遅れてすみません



▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲




「――――!」



 泥の巨人が絶叫しながら拳を振るう。



 迫り来るそれを避けて、自身の時間を圧縮して強烈な一撃を叩き込む。



 すると轟音を響かせながら泥の巨人の頭部と、そして背後の壁を破壊した。

 


 しかし巨人は直ぐ様再生し、今度は液状化して襲いかかってきた。 それを時間を停止させる事で動きを停めて思いっきり泥を殴り飛ばす。



 

 戦闘が始まってから二十分程、このような応酬が続いていた。



 泥の巨人は大きくはあるものの動きが大振りかつ単調な為に、避けやすいし反撃しやすい。その為未だに1度も攻撃が掠る事すらない。



 その一方で、此方は泥の巨人の核を引きずりだす作戦を取っていた。あれが1人の憎悪を核としているのならそれ以外の魂を引き剥がしてやればいい。



 ああやって元気に動いているのも核となった存在だけではなく他の魂を取り込んでいるからこその物だろうし、他の魂を引き剥がせばあの状態は維持出来ないだろう。



 そう考えてこうして攻撃を仕掛けているのだが、その作戦は概ね有効だったようだ。



 最初は即座に再生出来ていた身体も徐々に遅れが出始めているし、大きさに関しても大分小さくなってきている。



 それから数分経ってその時が来た。



「これで⋯⋯ラスト!」



 繰り出した蹴りが泥を完全に払いのけ、核が露出した。



 それはどす黒く変色した人間⋯⋯の様なものだった。顔に当たる部分には鼻も口も無く、眼窩のような窪みからは血のような赤い涙を延々と垂れ流していた。



「⋯⋯あまり見ていて気持ちの良い物じゃありませんね」



 おそらくは死霊術の男に殺されたのだろう。殺された経緯はわからないが余程に酷い方法でやられたに違いない。そして只単に憎悪という感情だけを搾り取る存在として加工された。という事なのか。



 男の誤算だったのはその意思の強さだろうか。生を軽んじていたが故に、それを奪われた人の憎悪を甘く見た。そして⋯⋯。



 (⋯⋯よくもまぁ同じ人間相手にこんなこと出来ますね)



 あの男がしていたのは結局最後まで他人を巻き込んだ独り善がりな行為だった。という事だろう。自身の思い込みで多くの人を殺した挙げ句にその被害者達によって自身の悲願を潰された。



 何はともあれ、



「想像以上に酷いんですけどどうしましょうか」



 憎悪のまま倒すのは気が引ける、と言って格好つけたのは良いが、この状態じゃ心を救うどころかもう終わっていると言っていい。人間が同じ人間相手に此処まで残酷に成れると言うことを見せつけられている気分だ。



 ⋯⋯今回は仕方がない、ということで少し反則をする事にしようかな。



 理を発動させ彼?の時間を逆行させていく。今の状態では会話も何もできないが、この状態になる前に時間を戻してこの事件の事を忘れられるようにしようという訳だ。



 人の生を弄っているという点ではあの男と大差無いが、それで1人の人生を取り戻させるという点では多少マシと思いたい。



 取り敢えず元の人間の状態になるまで、時間を急速に逆行させる。



 そして人間の状態に戻ったので、生死を確認する。ちなみに普通に男性だった。歳は20の前半程に見える。



 そうこう観察していると男性が目を覚ました。



「此処は何処だ? 僕は⋯⋯何を?」



「初めましてですね。⋯⋯何があったのか覚えていますか?」



 男は戸惑ったように忙しなく身動ぎしながら



「君こそ誰だ? 此処は⋯⋯あれ? 僕は何をしていた? 何でこんな所にいるんだ? 何故⋯⋯。」



 最初は落ち着きが無かったのが徐々に静まっていき、遂には黙したまま考え込んでしまった。 熟考しているところ申し訳ないがこのままという訳にはいかない。



「すみません。貴方は自分の名前を覚えていますか?」



「⋯⋯あぁ。それは勿論」



 男の名前はリカイと言い、以前は海洋都市の造船所で働いていたそうだ。最後に覚えているのは親戚に会いにケルンに訪れ、宿に泊まったところまでらしい。



⋯⋯推測でしかないが、その時にリカイは殺されて核として加工(・・)されたのだろう。その時の記憶が失われているのは幸い、というべきか。自分が死んだ記憶を持ちながら生きるのは強く違和感を感じるのだ。



「今度は此方の番だ。此処は何処だ? 何故僕が此処にいる? それに君は誰なんだ?」



 それからはある程度事情を誤魔化しつつ説明していった。此処がケルンにある館の1つであることや、リカイが此処にいたのはおそらくは何者かに誘拐されたからであること、自分はこの館で起きた怪奇現象を調査しに来たこと等々。



 一通り聞いたリカイは胡散臭そうにしていたものの誘拐されたことに関しては納得したらしく礼を言われた。⋯⋯嘘をつくのが上手くなっていくのは結構複雑だが、真実を言ってもそれこそ嘘としか思われないだろう。



 それに、自分の死んだ記憶なんて無い方が良いだろう。



 とにかく、霊を憎悪に染めた根源を取り除いた事でケルンの危機は去ったと言えるだろう。他の霊達は別に消滅したわけではない為に此の地に住み着くだろうが⋯⋯まぁ、そこは自分達で何とかしていくだろう。



「あぁ⋯⋯、今は取り敢えず外に出たい。案内してくれないか?」



 そう言ったリカイを伴って既にボロボロな祭祀場を出る時、ふと振り返ってみるとそこには以前に手紙を渡してきた女性の霊が微笑みながら手を振っていた。



















▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲



「いやぁ、大変申し訳なかった」



 そう言ってぎこちなく笑うニゼールさん。帰る最中に彼の遺体を見つけたので、ついでに蘇生させたのだ。目を覚ましたニゼールさんやリカイには気絶していただけと言っておいた。



 今はリカイを役所の方へ届けてから、ペリウスさんに今回の調査の結果を報告する為に屋敷の方へ向かっているところだ。



「気絶していたのは別に気にしてはいませんが⋯⋯、何かあったんですか?」



 我ながら白々しく尋ねてみた。ニゼールさんは少し首を捻りながら、



「とても恐ろしいものを見た気がします。 それが何だったのかまではまだ思い出せませんが⋯⋯」



⋯⋯どうやら詳しい事は殆ど忘れているらしい。正直好都合なのでそのまま忘れていて貰おう。



 そうこう話している間にルードックの屋敷へと到着した。半日程だったが非常に濃い1日だった。


















▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲



「アルシアはしっかり終わらせたみたいね」



 ラグリスは目の前にいる少女へそう言った。此処は実相世界の何処か。少なくとも魔女以外には知られていない場所。



「あまり人間達を信用しすぎない方が良いわよ? 今回の件だって貴女が自分の信奉者に望みを託しちゃったのが根本的な原因だし」



 少女は軽く頷いて



「今回は正直反省してる。けど⋯⋯」



「⋯⋯幾ら従順そうでも人間が私達の望みを理解してその通りに動いてくれる事は無いわよ。彼らが敬っているのは私達の力であって私達の願いじゃないんだから」



「⋯⋯」



 ラグリスは目の前の少女へ嗜めるように



「私達を意思ある生命じゃなくて、自分達に都合の良い神のようなものと考える人達は必ずいるわ。あまり信じすぎると嫌な目にあうかもしれないわよ?」



「かもしれないけど⋯⋯。やっぱり見てみぬ振りは出来ないよ」



「でしょうね」



 ラグリスは微笑みながら



「まぁ、やれるだけやってみなさい。出来る限りは此方も手伝ってあげる」



 今回はアルシアが先にやっちゃったけど、あの子にもそのうちお礼言っときなさいな。と言ったラグリスに少女は



「それで実際どうなの?」

 


 それは要領を得ない問いだったが、ラグリスは頷いた。



「もう少しってところかしら。やっぱり完成するには時間がかかるだろうけど⋯⋯。あの子もいるし其処までは待たなくて良いと思うわ」



 そう言って空を見るラグリスの目の前には巨大な青い結晶が浮かんでいた。



「これまでは迎撃しか出来なかったけど、これが完成すれば話は変わる。無為な犠牲も魔女の義務も何もかも」



「⋯⋯世界を越える舟、そんなものをよく完成させたね」



「エイリス姉様が創ってくれたのよ。魔女はこのままでは滅びかねないから」



「それで他の世界を侵略するの?」



 ラグリスはその言葉に首を横に振り、



「いいえ、その程度の事には使わないわよ。もっと凄いことに使うの」



 ラグリスは目を細めて



「世界が魔女を縛るなら、魔女の為の世界を創っちゃえば良いのよ」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ