プロローグ
初投稿です。
魔女と聞いて皆は何を想像するだろうか?
怪しげな魔術だったり、呪いを使い他者へ迷惑をかける悪女を連想する者も多いのではなかろうか?
だがその言葉はこの世界では違う意味で使われる
それは自然と人のバランスを保つ調停者とも、無辜の民を虐げる邪悪な王から人々を救った英雄とも、または単に虐殺者と呼ばれる者もいる。
確かなことは《魔女》とは確認されている限り、その全ての個体が女性であり、1人1人が国家の総力を凌駕しているということである。
これは、そんな世界で《時戒の魔女》として生まれた彼だった彼女の物語だ。
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自分は愛情を受けて育ってきたと思う。
何処にでもいる普通の家庭に生まれ、やんちゃをしながらも当たり前に愛情を受けて育った小学生時代。
両親、特に父の口癖は「他者を助けることのできる人間になりなさい」で毎日これだけは守れと口酸っぱく言われていたのを覚えている。
父が病で亡くなり、落ち込む母を支えつつ色々なことに四苦八苦しながらも二人で乗り越えようとした中学時代。
母も持ち直し、友人と遊んだりバカをやって楽しんだ高校時代。
此処に至るまでに色々なことがあった。辛いことも、楽しいこともあって、でもその全てが、とりわけ両親との想い出が自分という存在の大半を形作っている
――――だからこそ、目の前で車に轢かれそうな子供を助けるのに躊躇は無かった。
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熱い。
熱い。
熱い。
いや痛い?
あまりよく分からない。
ただ分かるのは自分が直に死ぬ事と、自分が助けようとした子供は無事だということ。
ほら、今もポカンとした、まるで現実を理解していないような目で此方を見ている。
無事だったのか。と思うと同時に、二度と信号無視なんてするなと怒鳴ってやりたい気持ちが沸いてくる。まぁ、それも既に出来ないだろうが。
子供の母親らしき女性が怪我はないかと確認している。まるで自分が死にそうになったかのような顔をしていて、その顔を見てまず母のことを思い出した。
父が亡くなってまだ数年しか経っていないのに今度は息子まで死んでしまうのは、母にとってはとても辛いことであるのは間違いないだろう。
申し訳ない、と考えると同時に一種の達成感があることもまた事実だった。
それは自分が確かに誰かの命を助けることが出来たからで――――自己満足だろうし、残された母の事を考えると素直に喜べない部分もあるが、最期に自分が誰かを咄嗟に助けることの出来る人間であると知れたのは、自分にとっては喜ばしいことだったのだから。
――――さっきまであんなに熱かったのに今はとても冷たい。まるで底無しの沼に沈んでいくかのように自分が死んでいくことが分かる。
ふと1つの疑問が湧いてきた。
それは老若男女問わず誰しもがふとした瞬間に考えそうなこと。
まぁ、つまりは「人は死んだらどうなるの?」というものだった。
――――我ながら死ぬにしては呑気すぎるような気がしないでもないが。
そうこう考えている内にもう終わりが来たみたいだ。
もう目も、耳も、鼻も、何も感じない。
――大丈夫かなぁ。
意識が消え行く中最後に考えたのは、母や友人達の生涯に幸せが訪れて欲しいという願いだった――。
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その日、我々のいる世界とよく似た、しかし異なる世界に1つの異変があった。
空を飛ぶ鳥が、道行く人々が、川の流れも、木々のざわめきもあらゆる全てが《停止》した。
それは一瞬のことですぐに何もなかったかのように動きだした為、異変を察知できたものはごく一部の者達を除いていなかった。。
それは同類である他の魔女達や魔女と対峙したことのある者、他にも一部の長命種がその誕生を感じ取った。
ある者は新たな《妹》が生まれる事への祝福を、またある者は、その存在に対する憎悪を、他にも歓喜をもって迎える者もいれば、悲嘆する者もいる。
確かなことは、新たな《魔女》が生まれたこと、そしてその誕生を世界が認識したことである。
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――その女は美しかった。
往来の中心を優雅に歩いているにも関わらずその女を認識できている者はいない。しかし、誰もがその女を自ら避けていく。
その女は絢爛であり、純真であり、淫靡であり、何より美しかった。
女は笑う、新たな《妹》の誕生を祝って。
女は嗤う、期待し続ける己の諦めの悪さを。
「さぁ、あなたの誕生を祝いましょう、そして世界の不出来さを呪いましょう。わたしの12人目の可愛い妹」
願わくば、あなたが最後の《魔女》であらんことを。
その女、始まりの《魔女》である《創世のエイリス》はそう言って静かに微笑んだ。
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そして騒ぎの原因である当の本人はというと――
「女になったのかぁ……」
死んだと思ったら森のど真ん中で全裸、かつ女になっているという色々と意味不明な状況の中で、現実逃避しているようでしきれていない言葉をぼやいていた。
感想、アドバイス頂けたら嬉しいです。