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とわ骨董店  作者: 藤和
2008年
60/75

60:クリスマスの語らい

 街にクリスマスソングが流れ、学校も冬休みに入った頃。この日はクリスマスイヴと言う事で、木更と理恵がとわ骨董店に遊びに来ていた。

 ガラスのティーポットで金木犀が混ぜ込まれた紅茶を淹れ、白地に青い線が鮮やかな、揃いの有田焼のカップと、白い縁が付いた萩焼のカップに注ぐと、きらきらとした香りがふわりと漂った。

 有田焼のカップを木更と理恵に渡し、今度は花の文様が鮮やかな九谷焼のお皿を三枚出し、少し前に買って取って置いたシュトーレンを一切れずつそれぞれに乗せていく。


「お待たせしました」


 シュトーレンと、銀色のフォークが添えられたお皿を木更と理恵に渡すとふたりとも嬉しそうな顔をして喜ぶ。


「すっごい、ナッツとかいっぱい入ってんじゃん。めっちゃおいしそうー」

「わー、すごくずっしりした感じですね」


 毎年クリスマスに食べるケーキは、お母さんが予約するブッシュ・ド・ノエルだというふたりからすれば、シュトーレンは珍しいケーキに見えるだろう。

 林檎もカップとお皿を手に持って、椅子に腰掛けて声を掛ける。


「それじゃあ、いただきましょうか」

「いただきまーす」

「いただきます」


 早速大きめに切って口に頬張る木更と、小さめに切ってすこしずつ口に入れる理恵。双子でもこんな風に違いが出る物なのだなと、林檎はしみじみ不思議に思う。


「そういえば」


 シュトーレンを飲み込んだ理恵が、視線を壁に向けて呟く。


「今日は真利さんは居ないんですか?」


 その問いに、林檎は頭の中にカレンダーを思い浮かべながら答える。


「丁度今、海外に仕入れ旅行に行ってるのよ。帰ってくるのは年明けって言ってたわね」

「……そうなんですか」


 なんとなくしょんぼりしてしまった理恵を見て、木更が続けて林檎に訊ねる。


「真利さん、今回どこに行ってるの?」

「ボルドーに行くって言ってたわよ」

「ボルドー? って事はオランダか」

「フランスね」


 木更と林檎のやりとりを聞いて、理恵はくすくすと笑う。それを見て、木更もにっと笑った。

 それから話を変えるように、林檎がこう切り出した。


「そういえば、ふたりともまた受験生になるけど、準備とかはできてる?」


 心配そうに聞こえたのか、木更が不安を拭い去るように、胸を張って答える。


「今回はもう予備校に通い始めてるから大丈夫。

まぁ、予備校でも理恵の方が成績良いのが悩みの種ってくらいかな」

「予備校に通ってるのね。ふたりとも頑張ってて偉いわね」


 木更の予備校での成績がどの位の物なのか林檎には推し量れなかったけれど、理恵の方は心配がなさそうだとなんとなく安心する。

 すると、理恵は困ったように笑ってこう言った。


「でも、私もまだまだ頑張らないと」

「そうなの?」

「また推薦取れるようにしないと不安で」


 もしかしたら、高校に推薦で入れてしまっただけに、一般入試という物に壁を感じているのかも知れない。けれども、下手な気休めは言うだけ酷だろうと林檎が考えていると、木更が難しそうな顔をする。


「私もできれば推薦取りたいな。

まぁ、どっちかってと私は内申から攻めて行くスタイルだけど」


 林檎はそれを聞いて、ふたりにこう言う。


「これからまたしばらく受験勉強で大変だと思うけど、あまり気を張りすぎないでね。

疲れ過ぎちゃうと、頭に入る物も入らなくなっちゃうから」


 その言葉に、木更はにやりと笑って訊ねる。


「おっ? それは林檎さんの体験談?」

「高校時代の苦い思い出よ……」

「アッ、ハイ」


 急に改まってしまった木更を見て、林檎はくすくすと笑う。

 それからしばらく受験と予備校の話をして、これから家に帰って夕食後にケーキを食べるのが楽しみだという話をして、時間は過ぎていった。


 日も暮れて夕飯時が近づき、木更と理恵はそろそろ帰る時分となった。


「今日はごちそうさまでした」

「いえいえ、こちらこそ楽しかったわ」


 理恵と林檎でそんな挨拶をしていると、木更がなにやらもじもじした様子で、理恵の背中を入り口へと押していく。


「えっ? 木更どうしたの?」

「深くは訊かないでくれ。とりあえず先に出てくれ頼むー!」

「う、うん」


 木更に追いやられ、わけがわからないと言った様子の理恵が外に出る。それを林檎も何があったのだろうという顔で見ていたのだけれども、木更が鞄の中から小さな箱を取りだして、林檎に差し出した。


「あの、いつもお世話になってるからクリスマスプレゼント。

……受け取ってくれる?」


 そう言っている木更は顔が真っ赤で、それを見た林檎は、確かに日頃の感謝を伝えるのは、気恥ずかしいこともあるなと思う。

 突然のプレゼントなので驚きはしたけれども、林檎はそれを丁寧に受け取ってにっこりと笑う。


「あら、そんないいのに。でも、ありがとう」


 林檎が箱を受け取ってそう言うやいなや、木更はさっと後ずさって、勢いよく入り口を開けてこう言った。


「また来年も来るから!」


 それから、勢いよく扉を閉めてしまった。

 そこまで照れていたのかと微笑ましく思いながらも、また来年も来てくれるという言葉が嬉しかった。

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