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とわ骨董店  作者: 藤和
2004年
2/75

2:近所の子供

 寒さが極まり、吹く風が肌を刺すように寒い日のこと。この日は快晴で、冷たい太陽の光が鋭かった。

 タッセルでまとめられたカーテンの間から入ってくる光を感じながら、林檎はレジカウンターの上に、白くて小振りな焼き物の花瓶を用意し、甘い香りを放つ水仙の花を生けていた。


「うーん、水仙の香りが無くなるまでは、お香焚かなくてもいいかしらねぇ」


 水仙の香りに満足しながら林檎がそう呟いていると、店のドアを開く音がした。咄嗟にそちらの方を向くと、ドアから入ってくるふたり組の、そっくりな顔をした銀髪の女の子達が入ってきていた。


「林檎さんちわー」

「こんにちは」


 髪を伸ばしている方の女の子は砕けた挨拶を、ボブにしている方の女の子は丁寧な挨拶を林檎に投げかける。その様を見て、林檎はにこりと笑ってこう言った。


「木更さんに理恵さん、こんにちは。今日もお店の中見る?」

「見る!」


 林檎の言葉に元気よく木更が返事をし、ふたりはしげしげと棚の上に並べられた品物を見ている。

 木更と理恵は、近所に住んでいる小学生で、林檎と真利がここに店をオープンして間もない頃に、両親と一緒に何度か見に来ていた。今ではすっかり両親にも信用を置かれるようになり、木更と理恵がちょくちょく店に遊びに来るようになった。

 子供が遊びに来るのは迷惑ではないかと、偶に他の客に訊かれることがあるのだけれども、ふたりとも店内の物は丁寧に扱うし、とくに迷惑だと思ったことは無い。それに、今の内から骨董品などに触れて興味を持って貰うのは、言ってしまえば将来のお客さんになってもらうきっかけだと、林檎は思っている。

 折角だからお茶を出そうとカップを用意して、林檎がふと思い出す。バックヤードの台所に、大判焼きを買っておいてあるのだ。それに気づいた林檎は、白地に青い線で絵付けされた有田焼のカップふたつと萩焼のカップに加え、唐津焼のカップも一緒にレジカウンターの上に並べる。それから、店内を見ているふたりに声を掛けた。


「おやつに大判焼き買ってきてあるんだけど、よかったら真利さんも呼んでみんなで食べない?」


 その声がけに、理恵がにこっと笑って答える。


「良いんですか? それじゃあ、真利さんに声を掛けてきます」


 理恵がすぐさまに店から出て隣に声を掛けていると、木更はバックヤードから出した丸い座面のスツールを三つ、並べるのを手伝ってくれた。その間に林檎は大判焼きを紙袋に入れたまま電子レンジにかける。甘い香りが漂ってきて、そうしている内にまた店の扉が開いた。


「呼んできました」

「どうもお邪魔します。良い匂いですね」


 嬉しそうにしている理恵と一緒に真利が挨拶をして入ってきた。それに気づいた林檎は、一旦バックヤードから出てきて、椅子を勧める。


「どうもいらっしゃい。

みんな椅子に座ってくださいな。今お茶を用意するから」


 そう言って、林檎は大きめのガラスのティーポットに丸い緑色の茶葉を入れ、電気ポットからお湯を注ぐ。蓋をしてからティーポットをすこし揺すっていると、バックヤードから電子レンジの音が聞こえてきた。林檎はティーポットを持ったままバックヤードへ入り、まずティーポットの中のお湯を捨てた。それから、電子レンジを開けて大判焼きを袋ごと取り出して、台所にかけてあったトングと一緒に、九谷焼のお皿を四枚重ねた物の上に乗せ、ティーポットを持って店内へ戻った。

 その様子を見た真利が慌てて言う。


「あわわわ、なんか大変な事になってますが、お手伝いすればよかったですね……」


 それを聞いて、林檎はくすりと笑う。


「それじゃあ、大判焼きをお皿の上に乗せてくれる?」

「はい、お任せ下さい」


 レジカウンターの上に置かれたお皿とトング、大判焼きを真利が手に取り、並べていく。その間に、林檎はティーポットにまたお湯を注いで蒸らしている。お茶を出している間に、真利には椅子に座って貰い、林檎がそれぞれに大判焼きを手渡した。


「おっきくて美味しそう!」


 理恵が嬉しそうにそう言うと、木更もじっと大判焼きを見て言う。


「この大判焼き、具はなに? あんこだったら私こしあん派だな~」


 それを聞いて、林檎がくすくすと笑って答える。


「そう言う事もあろうかと、チーズの大判焼き選んだのよ」

「えっ、チーズなんですか。良いですね」


 すぐさまに反応を返してきたのは、予想外にも真利で、真利もつい正直になってしまったのが恥ずかしいのか、心なしか赤くなってはにかんでいる。

 そうしている間に、お茶もいい具合になった。カップにお茶を注ぎ、有田焼のカップを木更と理恵に、唐津焼のカップを真利に渡した。

 いただきますとみんなで言ってから、お茶と大判焼きを食べる。青くすこし渋い味のするお茶に、すこししょっぱい大判焼きはよく合っている。

 ふと、木更がこんな話を出した。


「私たちもうすぐ中学生だけどさ、中学校ってどんな所なんだろう」


 続いて理恵も口を開く。


「そうだよね。部活があるのは知ってるけど、他に何か小学校と違うところあるのかな?」


 ふたりの言葉を聞いて、林檎は自分が中学生だった頃の事を思い出す。


「そうねぇ。制服があって部活がある以外は、そんなに変わらないかも」


 思い出しながらそう言うと、真利も感慨深そうに話す。


「大きな違いが出てくるとしたら、高校からですかね。

でも、中学でもテストで赤点を取ったら、困ったことになりますよ」


 すこし意地悪そうな真利の言葉に、木更が顔を酸っぱくする。


「赤点~! 難しい……

勉強難しくてわからなかったら、ふたりとも教えてくれる?」


 子供らしい不安と希望に、林檎は余裕の表情で答える。


「もちろん、教えてあげるわよ」

「やったー!」

「頼りになります!」


 嬉しそうな木更と理恵に、林檎と真利は視線を交わし合い、真利がこう付け加えた。


「わかる範囲でですけれどね」


 つまりはわからないこともあると言うことだと、林檎はふたりにウィンクして見せた。

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