プロローグ:鳩になっていた
鳩になっていた男とその周囲の日常系物語。
鳩、鳩だ。
灰色のボディー、愛くるしい瞳、滑らかな羽毛。
見紛う事なき鳩ボディーである。
翼を広げれば風を仰ぐ音と共に幾ばくかの羽が舞い散る。
灰色のくちばしは汚れたイメージなど欠片もない。
磨き上げられた鉱石の如く鋭く堅い牙である。
兎に角、鳩なのだ。
何が言いたいかというと。
「くるっぽー」
俺が鳩なのだ。
00000
どうしてこうなった。
叫んだところで答えは出ない。
ご都合主義機構かみさまは居ないし、美少女、美女、イッケメーン、ショタ、召喚者に類するような奴の人影など何処にもない。
いや、居たらいたで取りあえず自慢の嘴で突きまくってやるのだが。
兎に角、誰もいないのだ。
ゲームのチュートリアルよろしく説明してくれる誰かが居ないといのは、どうやら結構面倒なことらしい。
身をもって分かったよ。
ずっとスキップしていた俺、今すぐ謝るんだ。
そしたらきっと今の状況何とかしてくれるから。
「くるっぽー・・・」
寂しげ泣き声。
いや、俺的には「どうしよっかなー」と呟いたつもりだったんだが、口?から出てきたのは「くるっぽー」。
鳩だから仕方ないと言うことは分かってはいるが、流石にすぐ前まで人間だった身からすると結構不安になってくる。
テンプレで言うとこのまま俺は恐らく人間としての意識が薄れ、そしてそのまま鳩として新たな生を歩むことになるのだろうか。
いやいや、それともこのまま百年過ごして鳩又?として爆誕して、人間共は俺の餌じゃーとかやったりするのだろうか。
基本的に自分が無事であるのならば前者よりは絶対後者。
きっと鳩又になれば人間にも化けれるというご都合主義があるはず。
そうすればチーレム築いたりSEKKYOUしたりチーレム築いたり俺TUEEEしたり出来るはず。
「くるるっぽー」
おう、鳴き声にバリュエーションが。
待てよ、もしかすればコレはきっと『鳴き声を工夫したら喋れるようになったぜ!』というフラグだろうか。
世のチート転生者たちは往々にしてあっという間に絶技を習得するから参考にならない。
『あれから数十年・・・長かったぜ』とか言われても、読んでる側からしたら文字数にして五百行くか行かないか。
あのときは楽しんで読んでいたが、こうして鳩になってみると過程の大切さが身にしみる。
畜生俺にもキンクリが使えればどうと言うことはなかったというのに。
ちなみにあれから十分ちょっとしか立っていないと言うところに妙なリアリティがある。
「くるぽー」
何だ、何だか一気にアホっぽくなった。
このままアホのことしてデビューして、マスコットキャラになるのも悪くないかも知れない。
そうすれば使役主である美少女の主と何時の日か恋仲に、と言う妄想もしてみる。
「くるっぽっ!?」
やばい、閃いた。
とんでもない頭してるぜ俺は。
このままその路線で行ったとして、俺に待ち受けているのは鳩としての人生。
それはつまり。
「・・・」
『・・・』
目の前をじりじりと、そしてついでに食べないでと言って見つめてくる青虫さん。
俺にお前が食えるわけないだろう。
さっさと行けよ。
と、目線で伝えたつもりが、何故か腹を仰向けにして横たわる虫。
そう、このままマスコット路線で行けば俺に待っているのは毎日わくわく虫食ライフ。
それは死ぬ。
勘弁して欲しい。
「くるっぽぉぉぉお!!」
『・・・』
無口だったが、もの凄いスピードで立ち?去っていく虫さん。
グッバイ、もう俺の前に来るんじゃねーぞ。
来たら潰す。
食べない、突き潰す。
つついてつついて、ペースト状にする。
あ、いや、その場合くちばしに青虫汁がついちまう。
…‥‥‥よし、くちばしじゃなくて、足で踏み潰そう。
もしくは捕まえて、池に落としてしまえばいい。
お魚さんが大切にいただくことに成るだろう。
ぐるぐるぽー
鳴き声じゃない、腹の虫だ。
なんだか鳩になって腹の虫まで鳩っぽくなった気がする。
意味がわからん。特に『ぽー』の部分。
ぐるぐるぐるぐぽー
……ふむ
ふと、周りを見渡してみる。
変な木。紫色で、赤と黄色のみをつけている。あれは絶対毒だ。
やばそうな草。基本緑だが、根っこを見るとプルプル震えている馬っぽいやつの足が見える。
そして池。先程逃げようとした青虫を、空飛ぶ魚が食っていってた。乱杭歯で、明らかに肉食。
……ふむ。
やっぱり、食わず嫌いは良くないな。
そういって、いや、言ったつもりで『くるぽー』なくと、取り敢えずさっきのような青虫を探しに行った。