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第7話 宮司さんは婿養子らしい

 ここまで書いて、子門を格好良くしすぎたと後悔している。このままではヒロインが子門に惚れる展開になってしまう。なので、これからは子門の活躍を二割減ぐらいで書こうと思う。子門がちょっと情けなくなるかもしれないけど、ライトノベルとして、主人公がヒロインを脇役に取られるほうがもっと情けない。



 僕らは全速力とまではいかないけど、そこそこのスピードで豊表神社を目指した。宝来の中にいるやつが、なにかしでかす前に止めなければならない。子門はバッグから出したロザリオを首から提げて、十字架をずっと握りしめていた。

 走りながら、僕は徐々に近づく花咲山を見た。もう五月はすぐそこまで来ている。新緑が深い色になっているせいか、山の形はどことなく優しさが感じられ、そしてなんだか女性ぽかった。

 山裾を包むように広がる水田には、田植えを待ちわびる水がキラキラと光る。水田の縁は、開花し始めた菜の花の黄色が彩っていた。


 神社の駐車場に到着した頃、僕の息はかなりヤバかった。僕以上に子門はいっぱいいっぱいで、フルマラソンを走り終えた選手みたいに、体を折り曲げて荒い呼吸を繰り返している。すぐに石段を上がることは無理だと判断し、僕らは少し休憩をとることにした。

 一分ぐらい休んでいた頃だろうか。上から風呂敷包みを持った中年の男の人が降りてきた。浅黄色の袴を履いているから、きっと豊表神社の宮司(ぐうじ)さんだろう。つまり神薙さんのお父さんだ。

 降りてきた彼は僕らのところに来て、まだ苦しそうにしている子門を心配そうに覗き込んだ。


「どうしました? 大丈夫かい?」


 すごく穏やかな声をした人だ。プロレスラーみたいな子門の伯父さんに会ったせいか、とても小柄に見える。というか、実際に背も低くて痩せていた。


「あの、あずささんはいますか?」

「あずさ? もう帰ってきていると思いますよ。君たちはあずさの同級生かな?」


 その両目には、いきなり尋ねてきた娘の男友達に動揺している色が浮かんでいる。父親ならもっともな反応だ。けれど僕らは、神社を守るために走ってきたんだと言いたかった。っていうか、実際に言うことにした。


「宮司さん、実は花咲山が大変なことになってるんです! 悪霊が住み着いて、ここ最近、花が枯れているのもそのせいなんです!」


 僕は両手を握りしめて力説した。変なやつらだと思われてもいい。それぐらい心を込めて訴えた。すると宮司さんは、


「やっぱり、そうだったんですか」


 すべてを納得したというような表情で、寂しげに山頂を見上げる。シバくんの話では、この人は見えてないと言っていたけど、本当は見えているのではないかと思ってしまった。


「ああ、理解したってわけではないですよ。ただ東京に行っている息子が、気をつけろと何度も言ってくるので」

「気をつけろ?」

「ええ、悪い物がいるって。息子はどうやら、そういう目に見えないものが見えるようです。というより、神薙家の血を引く者は見えるらしいのですけれど、残念ながら僕は婿養子。死んだ妻が一人娘で、先代が亡くなったあとに急きょ、僕が宮司を務めているってわけです」

「ってことは、やっぱりあずささんは見えてるのか……」


 すでに分かっていることを、僕はその事実をもう一度確認した。


「あずさが? ああ、そうかもしれないですね。あの子は幽霊が昔から嫌いだから、なにも言わないけれど。でも、もし悪い物が住み着いたとしたら、やっぱり裏のせいかな」

「裏ってなんですか?」

「山の裏側にお寺があるんですよ」

「へぇ、そうなんですか。知らなかった」


 僕は目が丸くなるほど驚いた。


「ですが五年前に住職が亡くなって、ついこの間まで廃寺だったんですよ。言われてみれば、確かにその頃から花が枯れ始めたかな。悪霊はきっと裏から侵入したんでしょう」


 なるほどと僕は納得した。

 豊表神社のあるのは北東で、その裏は南西。つまり鬼門と裏鬼門を守るために、神社と寺が建てられたというわけだ。


「花咲山には昔、力のある人が住んでいたって聞いたんですが、本当ですか?」

「さあて、どうででしょうね。文献などは残ってないですし。いずれにせよ、この山の神様がそうなのかもしれませんね。ああ、でもホッとしました」


 宮司さんはその言葉通り、微笑みを浮かべた。改めて彼を観察すると、口もとはどことなく神薙さんに似ている。彼女も笑ったらこんな感じになるのかなと僕は思った。


「脱サラ宮司の僕が神職に就いたせいで、山神様が怒っていらっしゃるのかと思っていまして。そうでなくて良かった。今日はこれから地鎮祭ですが、明日は山神様に祈祷しましょう」

「っていうか、悪い物って虫の化身みたいなんですけど」

「おや、神虫様ですか。お祀りしたことはないですが、その方にも静まるよう祈祷いたしましょう。それと花神様というのはいらっしゃるのかな? 調べなくては……」


 首を傾げた宮司さんは、やがてニコニコと微笑み、「では失礼」と言って、近くに止めてあった銀色のセダンに乗り込むと、あっという間に行ってしまった。


「神虫様花神様って……」


 やっと立ち直った子門が呟く。


「ま、山神、海神、川神、神木、神虫、色んな神様がいたって面白い」

「うーん、まあ、そういうもんなのかな」


 子門は微妙な表情をしつつも、軽くうなずいた。

 さてと、ふたりで石段のほうへと顔を向ける。

 敵はあの上だ。子門はエナメルバッグから小瓶と聖書を取り出した。小瓶はポケットに、聖書は脇に、そして胸のロザリオを握りしめて、戦闘準備に取りかかる。僕は左ポケットに手を突っ込んで、黙ってそれを見ていた。

 そして僕らは、バッグを駐車場の草むらに隠し、いざ出陣と石段を上がり始めた。


―――――――――――


佐伯くんへ

チェック10

 冒頭はいったいなんでしょう!? というより捏造は良くないです。父は、駐車場で背の高い男の子と話したと言っていました。(まさか父が家庭の事情を話しているとは思ってなかったので、少々げんなりしてますが)

 息が上がっていたのは佐伯くんなんですよね? 正直にお答えください。


神薙さんへ

回答10

 はい、捏造しました。すみません。お父さんと会話していたのは子門です。僕は疲れてヘロヘロでした。


佐伯くんへ

返信10

 やっぱりそうでしたか。でも今までの流れから、この主人公が力説したら読者は違和感を覚えると思います。あとで書き直してください。佐伯くんには佐伯くんの良さがあるし、今まで通りでも私は好きです。

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