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第4話 もともと変な宝来がもっと変になる!

 次の日、子門が僕のクラスに来たのは、二時限目が終わった直後だった。

 言っておくけど、あの子門が強ばった表情で突進してきたら、だれだって半身逸らして警戒すると思う。彼の性格を分かっている僕ですら、殴られるのではないかという恐怖が背筋と首筋によぎってしまった。


「佐伯! ちょっと来て!」


 右の腕をつかまれた僕は、そのまま引きずられるようにして連行された。


「な、なんだよ、子門!?」


 やっとそう言えたのは、三つ隣のクラスの前。教卓側の扉は開かれていて、中の様子がしっかり見えた。


「あいつを見ろ」

「あいつ?」

「宝来」

「ここ、あいつのクラスか」


 覗き込んで、窓際に座っている宝来を見た。一見変わった様子はないが、子門が感じただろうことを、僕も一瞬で悟ってしまった。


「……なんか変」

「だろ?」


 いくつかおかしいと思う箇所があった。その中の一つは髪型だ。やつをよく知らない者にはその違いが分からないだろう。


「あれはワックスセットじゃないな」

「そう、ただの寝癖」


 雨が降ろうと槍が降ろうと、降ったことないけど、でも降ったとしてもチャラい髪型だけはするだろうあの宝来が、寝癖のまま学校に来るなんて考えられない。

 さらにもうひとつ、彼の耳には銀や金に光る装飾品が一つもついていなかった。


「あれ? ピアスが……」

「そうなんだよ。あのピアスフリークの宝来が、体中穴だらけにしたいとすら思っている、あの宝来がなんだ」

「体中が穴だらけはマズいだろ」

「やっぱそうだよな。俺もそうじゃないかって思ったんだ。でも宝来が穴への愛を語るからさ」


 ツッコミどころが分からず僕が沈黙すると、本人も自分の失言に気づいたようだった。


「い、いや、穴の話をしたいんじゃなくて、つまり宝来が変だって言いたいだけで」

「とにかく呼んでみよう。おーい、宝来!!」


 僕の声に宝来はチラリと見ただけ。普段ならホイホイにスキップで入ってくるゴキブリのごとく、すっ飛んでくるはずなのに。しかも隣には子門がいる。


「やっぱ変だな」

「俺が呼んでみる。宝来、ちょっと来てくれよ!!」


 やっと立ち上がった宝来は、のそのそとした動きでこちらに向かってくる。

 顔にも笑顔もないし、不機嫌と言ってしまえば確かにそうだけど、妖しいオーラとかそんな感じなのが体中からあふれてて、まあなんというかつまり異様な雰囲気で、近くまで来た時の「なに?」という声もちょっと違っている気がして、宝来はたぶんこんなんじゃないだろうなと、僕はなんとなく思ったみたいな感じだった。

 子門はまだ半信半疑らしい。


「今日はさ、佐伯と一緒に帰るからな」と言うと、宝来は「いいよ。それだけ?」と聞き返した。


「う、うん」


 困った表情で子門が返事をする。

 すると宝来はただ小さく肩をすくめ、席へと戻ってしまった。


「やっぱ変だな。“しょぼん”って言わなかったし」

「佐伯、ちょっと来い」


 またまた拉致された僕は、今度は階段まで引きずられ、屋上前の踊り場へと連れ込まれた。


「今度はなんだよ」


 馬鹿力で握られていた腕が痛い。制服をめくればきっと、指の跡がついているかもしれない。それくらい痛かった。


「やっぱさ、佐伯もあれのせいだと思う?」

「あれ?」

「あのピンクの子ども」

「あぁ、あれかぁ」


 僕はなんて言おうか迷ってしまった。否定しても肯定しても変なことを言いそうだったし、今は静観しているのが得策に違いない。それなのに子門はデカい図体で前のめりに迫ってきて、「そう思うよな?」と必死に食い下がった。

 その時、逃げていいよと三時限目の鐘が鳴る。なにしろ次はグシゲンの授業だ。グシゲンは吉田という国語の教師で、年々その御髪(おぐし)が減少していくためにそう名づけられた。しかも髪の量に反比例するように、年々口やかましくなっているらしい。サボったら、明日は職員室に呼び出されること必至だ。


「昼休みにしよう。実は次グシゲンでさ」

「グシゲンと宝来とどっちが大事なんだよ!」

「そこ、比べるとこじゃないから」

「だって宝来が変になったのは、俺たちのせいかもしれないし」


 巨漢が気弱に下を向く。なんだかんだと文句を言われても、子門にとって宝来は大切な友人だろう。そんな友がいるのはなんにしても羨ましい。

 その時、フワッと花の香りがした。芳香剤とは違うそれは、狭くて暗い踊り場の中を穏やかに漂う。僕はその存在を視線の端で確認しつつも、子門の言葉を拾った。


「俺たちのせいってどういうこと?」

「ほら、俺たち、鳥居をくぐらなかったろ? 調べたんだけど神社の鳥居って、聖域の結界に入る門の意味があるらしいんだ。だから宝来があの子どもに取り憑かれたのも、きっとそのせいじゃないかって……ぐわぁぁ!!」


 子門の野太い声が、狭い空間でこだまする。数メートルほど下がった彼は、壁に張りつき、制服の裾をつかむ小さな手を必死に振り払った。


『お兄ちゃんお兄ちゃん、ボク、取り憑いてなんてないよ?』


 ピンク色の頭が大きく右に傾ぐ。子門は、胸の前で必死に十字を切っていた。


「悪魔よ去れ、悪魔よ去れ、悪魔よ去れ、悪魔……」

「子門、そんなに怖がらなくて平気だよ。この子、芝桜の妖魔だから」

「悪魔よさ……え? 芝桜……?」

「髪の色と目の色、あの花と一緒だし、それに花の香りもする」


 子門はクンクンと鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ、「ホントだ」と呟いた。僕は妖魔の横まで行って、子門を怖がらせないようにっこりと微笑んだ。


「なんとなくだけど、悪いものじゃないと思うな」

『ボクは悪くないよ。悪いのはあいつだよ。あいつが悪いやつなの』

「あいつ?」


 やっと悪魔払いモードが治まって、子門は十字を切っていた手を下ろした。


『えっとねえっとね、山を乗っ取ろうとしている怖いやつなの。あいつ、山の中に入って来ちゃって、アヤメお姉さんやサルスベリのおじさんがずっと守っていたんだけど……』


 紫色の瞳に濃紺の陰りが入った。妖魔の子は寂しそうにうつむいて、次の言葉をためらっている。それでも言わなくちゃと決意したのか、唇を噛みしめ悲しい事情を説明した。


『アヤメお姉さんや、サルスベリのおじさん、死んじゃったんだ』

「あ、そうか……」


 妖魔の言葉を聞いて、子門がそう呟いた。


「そうかって?」

「佐伯は去年転入してきたから知らないかもしれないけど、豊表神社のある山は“花咲山”って呼ばれていて、神社の周りには色んな花が咲くので有名だったんだ。でも五年ぐらいから次々と枯れ始めて、去年はとうとうあの池の周りで咲いていたアヤメも全滅したって、俺の婆さんが残念がっていた」

『裏が壊れちゃったから……』

「裏?」


 子門の質問に、妖魔はピンク色の頭を小さく振っただけで、返事はしなかった。代わりにやや元気を取り戻した声で、


『だけどだけど、あのお姉さんはボクが見えてるんだよね?』

「うん、たぶん」


 でも僕らはちゃんと分かっていた。あんなに怖い表情で、あんなに大きな声でこの子どもを拒絶したのは、神薙さんにはすべてが見えていたからだって。


「きみは神薙さんになにをしようと思ってるんだい?」


 いつの間にやら、子門のデカい図体のどっかに隠されていた幼稚園の先生スイッチが入っていた。腰を下ろし、妖魔の顔を真っ正面から見つめている。その瞳はまるですべてを包む込む父のように、暖かいんだからみたいな?

 そうか、こいつが宝来とつき合えるのは、内に秘めた父性なんだ。優しいお父さんと悪ガキ宝来とか、妙なことを考えながら僕はふたりの会話を黙って聞いていた。


『んとねんとね、神社の人間はぜんぜん分かってくれないから、だから早く知らせたかったの。じゃないと山が死んじゃうの。でもねでもね、おじさんはボクが見えないし、お兄さんはトーキョーの、大、大、大がい……?』

「大学?」

『うん。そこに行っちゃったの。だからねだからね、あのお姉さんにちゃんと教えたいのに、見えてないふりをするの』

「でもなんで、神薙さんは見えてないふりをしてるんだろう」

『あのねあのね、サルスベリのおじさんにちょっとだけ聞いちゃったんだ。昔、お姉さんがちっちゃい時、サルスベリのおじさんが大学に行ったお兄さんと一緒に、お姉さんにたくさんいたずらしちゃったんだって。だからお姉さん、ボクが怖いのかも……』

「そんな理由!!」


 叫んでいたのは僕だった。同時に心の中で作られ始めていた、“神薙さんの哀しい過去”みたいなのも、物の見事に破壊された。


 いや、どうだろう? 

 たとえば、『サルスベリのおっさん妖魔にからかわれた幼女は、トラウマを抱えて戦ってます。』みたいなライトノベルが本屋に平積みされいたとして、僕は手に取って読むだろうか? 

 その本にスペクタクルロマンが秘められていると感じて、心を躍らせるだろうか? 感じるとしたらやっぱイラストか、イラストなのか!?


「よしゃー!!!」


 ふたたび叫んだのは、僕じゃなく子門だ。両手に握り拳を作り、肩を怒らせ、彼はなにやら燃えていた。


「え? 今度は何スイッチ入っちゃった?」

「妖魔くんや、神薙さんや、宝来のために俺が一肌脱ぐ。いつもローテンションの佐伯さえ、こんなに怒らせるその悪いやつを俺が退治する!!」

「ええと、もしもし? 僕は怒ったんじゃなく、スペクタクルロマンが……」


 しかし子門は僕の言葉など一切耳をかさず、「俺に任せろ!!」と大声で遮ったのだった。


―――――――――――


佐伯くんへ

チェック7

 子門くんは優しくて、とてもいい人だと分かりました。あと、例のことは本当に怖かったんですよ。真夜中に変なおじさんが出てきて、「さ~る~す~べ~り~」と言うのを見たら、どんな人でも泣くと思います。そうですか、原因は兄でしたか……。ああ、夏休みに兄が帰ってくるのが、なんだか楽しみです(笑) 

 それとひとつ気になったのは、宝来くんの様子が変という説明をしている部分、二話目のように無理やり繋げた一文になってますけど、なにか不自然です。どうかしましたか?


神薙さんへ

回答7

 いえ、なにもありません。あとで変えておきます。

 子門は優しく感じたんですか。僕は? 僕はどうですか?


佐伯くんへ

返信7

 佐伯くんは、えっと、佐伯くんらしいと思いました。では頑張ってください。

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