第1話 図書室での出来事とか
<はじめに。これから書くことはノンフィクションです。だからノンフィクションとして読んでください。出てくる人も実在しません、本当です。信じて下さい。お願いします。>
二年A組の佐伯海知が図書委員を選んだのは、楽だったからだ。
なぜかというと、この山桐高校では前期か後期どちらか、必ず委員会活動をしなくてはならない。だから海知は暖かい時期に、“一番楽で一番酷”と言われている図書委員に立候補した。
酷だと言われているのは、半期に二回、月曜日から金曜日まで図書室の受付係を下校時刻までしなくてはならないからである。部活動や塾がある人や、遊びに行きたい人などは、十日間も図書室に拘束されるのはとても辛い。
一方、楽だと言われるのは、受付係は基本、座っていればいい仕事だからである。たまに来る生徒のために貸し出しカードに判子を押し、返却された本を棚に戻す。たったそれだけ。それ以外はスマホをしていようと文句は言われない。
酷か楽かどちらを感じるのかは、生徒ぞれぞれの事情に依る。そして海知は楽だと感じる質だった。
海知が当番になったのは四月の中頃、つまり二年生になってすぐだ。受付係は二人いて、海知の相方は、神薙あずささん。隣のクラスの女子だ。
係が始まって二日は、なにごともなく終わった。
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佐伯くんへ
チェック1
冒頭からすみませんが、五つほどチェックさせていただきます。
なぜそんなタイトルなんですか? <はじめに>の部分は不要です。三人称を選んだ理由はなんでしょうか? 文章は軽いほうが読みやすいと思います。なぜ実名を使っているのでしょうか? 物語として書くのなら、偽名でも十分だと思います。なぜヒロインの説明を“女子”で終わらせたのでしょう? もう少し描写が欲しいと思います。
神薙さんへ
返信1
タイトルは思いつかなかったからです。あとで変えます。<はじめに>はあとで消します。三人称を選んだのは特に理由はないです。一人称にしてみます。実名は名前を考えるのが大変だったからです。あとで変えます。描写をしなかったのは難しかったからです。もう少し入れます。
佐伯くんへ
回答1
タイトルと実名については了解しました。でも、“さん”の敬称はいらないと思います。頑張ってください。
《変更案》
僕は図書委員になった。ラッキーだった。受付係は座っているだけでいいから楽だ。
当番の相方になったのは、隣のクラスの神薙あずさ。髪が長い女子だ。
係が始まって二日はなにもなかった。
佐伯くんへ
チェック2
文章が軽くなったというよりも、ほぼ切り捨てられてます。前のと中間ぐらいで書いたほうがいいです。私の描写がまだ雑です。なにか面倒臭さみたいなものが感じられます。
神薙さんへ
返信2
全部書き終わったら、中間ぐらいで書きます。神薙さんの描写はどれくらいしたらいいでしょうか? “目が大きい美人”みたいなのがいいですか? バストサイズとかも必要ですか? でも神薙さんのバストサイズを知らないので、教えてもらえますか? それと面倒ではないので大丈夫です。実名の時はやっぱり“さん”をつけます。
佐伯くんへ
回答2
描写は今のままでいいです。頑張ってください。
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受付係が始まって二日は平和に過ごした。新学期が始まったばかりのせいか、本を借りに来る生徒もなく、僕はただ黙々と本を読んでいた。
隣に座る相方の女子も同じく読書を続け、僕らは丸二日、挨拶すら交わさなかった。
ところが三日目に下校のチャイムが鳴り、彼女が日報に名前を書いた時、僕は何気なく尋ねてしまった。
「それ、なんて読むの?」
「あずさ」
「でも、ひらがなは読めるんだ、実は」
「かんなぎ」
「へぇ」
単語だけで会話をする女子は珍しいなと僕は思った。なにしろ僕と話す女子はわりとおしゃべりばかりだから、それに圧倒されて僕が単語で会話をすることが多くなってしまう。それはそれで楽ではあったけど、さほど楽しいとは思わなかった。
神薙さんもきっとつまらないだろうと思い、僕は彼女が単語じゃない会話ができる話題を一生懸命に探した。
すると、神薙さんのスマホの待ち受け画面が目に飛び込んできた。群生するピンクと紫の花は、まるでスマホまで香ってきそうなほど綺麗だった。それにどこか神薙さんの雰囲気に似ている花だなと、心の中で思っていた。
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佐伯くんへ
チェック3
登場人物の性格を実際のまま書かなくてもいいと思います。この話はもちろんフィクションとして発表する予定ですから。描写はとても良くなりました。
神薙さんへ
返信3
分かりました。少し変えてみます。
《変更案》
「ねぇ、みてみてみてー。これねー、芝桜って言うのぉ♪ きれーでしょ? うちの裏に咲いている花なんだよぉ。佐伯くんは花好き?」
「うん、きれい」
会話をしてみると、神薙さんはとても明るい子だった。でも僕はハイテンションの子がちょっと苦手だ。
佐伯くんへ
回答3
いくらなんでも一八〇度、性格を変えなくてもいいと思います。記号は使わないほうがいいです。それと二日ほどチェックができないので、先まで書いてください。よろしくお願いします。
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神薙さんはそれが芝桜であることと、家の裏に咲いていることを単語で教えてくれた。しかも眉がきゅっと真ん中に寄って、眉間にシワができるくらいの表情で。こんなに綺麗な群生なのに、なぜ彼女が怖い顔をしたのか僕はとても気になった。だから「嫌いなの?」と尋ねると、「好き」と返事が戻ってきた。
彼女が好きで良かったなと僕はつくづく思った。だからなのか、実際にそれを見てみたいと思ってしまった。
「あのさ、今日、見に行ってもいい?」
「え? え!?」
「あ、今日の今日は迷惑か。それに遅いしね。来週の月曜日ならいい?」
「ちょっと待って。どうして来るの?」
その時、初めて神薙さんが単語以上の言葉をしゃべった。
「もしかして電車通学? 家は遠いの?」
「そういう意味じゃないから。なぜ来るのかってこと」
「写真じゃなくて、実際に見たいから」
至極当然の答えだというのに、彼女は口の中でぶつぶつ呟き、ますます不機嫌な表情になってしまった。
きっと悪いことを頼んでしまったのだろう。だから素直に謝るべきだと、頭を下げて彼女に謝った。
「ごめん、無理なことを頼んだみたいで。それ、あれでしょ? 先祖代々、他人様に見せるなという掟がある秘密の花園なんだよね? 大丈夫、僕はだれにも言わないから」
「えっと……」
彼女の困惑した表情を見て、僕はさらに悪いことを言ってしまったのではないかと心配になっていた。
けれど__
「そんな秘密はない」
「なんだ、良かった」
「というか、思考回路がなんか変」
「え!? 僕が?」
うんとうなずいた彼女を見て、今度は僕が驚く番だ。
いったいどこが変だったのか。自分ではかなり理路整然と考えているはずなのに。それとも彼女は意思の疎通が難しいタイプなのだろうか。
そんなことを考えて、僕は穴の開くほど彼女の顔を眺めてしまった。
「そんなに驚いた顔をされても困るんだけど……」
「いや、だって、普通驚くよ?」
「って、私が変なの? 世界の思考回路が知らない間に変わってしまっているの?」
「確かに神薙さんはちょっと変わったところがあるけど、でも大丈夫だと思う。それより秘密の花園じゃないなら、月曜日か火曜日に行くね。どっちがいい?」
神薙さんはふぅーっと強い息を吐いたあと、「月曜日」とまた単語で返事をした。
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佐伯くんへ
チェック4
一話の最後まで読みました。読み終えてから、やはり私は変ではなかったと確信しました。途中途中の思考の繋がりに説明不足が感じられます。
神薙さんへ
返信4
足りませんでしたか? もっと書き足したほうが良いですか?
佐伯くんへ
回答4
色々考えたのですが、書き足すと読者がますます混乱するような気がしてきました。主人公はこういう性格だということで貫いていいと思います。次は二話が終わった時に。頑張ってください。