(3)ふさわしくないのに…
「どうしよう……」
メニールは、頭を抱えてしまった。
原因なるものは分かっているから、それがまたメニールの頭を悩ませている。
あの後、つつがなく授業を終えたものの、フリームとベリーの視線が痛くて仕方がなかった。
なので、放課後になるとすぐさまメニールは家へ帰った。あまりにも早い帰宅に、使用人逹は驚いているのがわかる。しかし、それに構っている暇はないのだ。
「翡翠……厄介ね。」
翡翠の頼み事は、少々厄介なのだ。…内容はこうだった。
『宝石の出し方を教えてほしい。』
勿論、書かれていたのはそれだけではなかったが、冒頭からため息をつかなかったのは、褒めてほしい。
なんせ、人それぞれなのだ。『宝石の出し方』なんて、感覚の問題だ。
「……どうすれば、いいの…?」
メニールは、本日何度目かのため息をついた__。
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学園の教室にて……。
「メニール、大丈夫?」
「見た目からして、大丈夫に見えないですわ。」
昨夜、あまり眠ることのできなかったメニールは、半ば無理矢理学園に来て授業を受けていた。
「お昼、裏庭なら人目につかないかしら…?」
「事情は分からないが、そうだろうな。」
「ことが済むまで、大きな声で言うのはダメですわよ?この学園には野次馬がたくさんいますからね…。」
軽く毒を吐いたベリーは、冷めた目をして周りを見た。
「相変わらず、ベリーを怒らせると怖い。」
「フリームに1票ね。敵に回すと厄介だわ。」
そんなこんなで時間は過ぎ、昼食を取る時間になった。あらかじめ翡翠には、魔法で連絡をしておいたので一緒に行くことはない。
「行って来るわ。」
そうフリームとベリーに言って、メニールは裏庭へ昼食を取りに行った__。
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「3学年も上だなんて、どれだけ予想外の記録を上塗りするつもりかしら?」
「………さあ?」
「わかっていて、土下座で迎えたのね。翡翠。」
裏庭に弁当を持って向かったメニールは、ベンチの傍らにあった固まりに、嫌な予感に襲われた。予感は当たる。
それが、先程の会話に繋がる。
「まあ、別に良いけれどね。」
「いいのっ…!?」
「それは、こちらの台詞っ。」
年下のメニールに、こんなにも頭を下げるどころか、土下座なんて…。
「変わった人ね…。」
そう呟いたメニールに、翡翠は苦笑を漏らした。
「良く言われるよ。」
「…そんな呑気なこと言わないで、早く座りなさいな。」
「ありがとう。隣、失礼するよ。」
顔に見合った紳士な態度に、メニールは翡翠を飽くまでこっそり観察した。
価値者は、自信の宝石の色を身に纏う。
フリームなら、紅色の髪。ベリーなら、水色の瞳と髪。
…翡翠の場合、それは瞳に現れているようだ。髪は毛先が少し襟首にかかったぐらいの長さで、真っ黒な髪色。背も平均よりは、高いと思う。
優しげな顔。誰もが振り返るような、美しい容姿。
(…私の隣にいて良い人じゃない。)
「君?どうしたの。」
「あ……っ、な、何でもないわ。お昼を食べてからお話しましょう。」
弁当を包んでいる布を取り、蓋を開ける。二段になっているメニールの弁当は、下がサンドイッチ上がおかずとサラダに分かれていた。美味しそうではあるが、とても有名な家の出の娘が持って来る弁当には見えない。翡翠はそれを見て、何か言うかと思ったが、何も言わなかった__。
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「宝石がつくれなくなったのね。」
「うん…。」
翡翠の手からは、いつからか分からないが、いつの間にか宝石が手からつくられなくなったらしい。………摩訶不思議だ。メニールも、今のところそんな実例は聞いたこともない。
「私には、あなたがどんな状況なのかが、あまり分からないわ。とりあえず、基礎基本から勉強しましょう。」
「っ…!ありがとう!」
パッと、太陽のような輝かしい笑顔に、メニールは目を細める。
「そろそろお昼も終わりよ。」
「あ…。じゃ、じゃあ今日の授業後、空いてる?」
「…空いてるわ。」
それにまた目を輝かせた翡翠に苦笑しながら、メニールは授業後に勉強会を開くことを約束した__。
読んでいただき、ありがとうございます。