(2)断るはずだったのに…
「男なんて、大っっっっっ嫌いっ。」
そう、メニールは〈大〉の男嫌いであった。
だから、目の前に男がいるだけで…
「っ!」
「……(想像しただけで固まるなんて)。」
「……(大袈裟ですわ)。」
フリームとベリーがそう思った時だった。
「お願いいたしますっ!!!」
「嫌です。他を当たって下さい。」
「そんなっ!?せめて、願いだけでも聞い…」
「聞きたくありません。」
メニールの、拒絶するような声に驚いた二人は、メニールの影に隠れて見えない何かをひょいと見た。
「!おや、土下座か。」
「いい絵になりますわね。イケメンがそれをすると。」
ベリーが言ったように、見め麗しい男は土下座をしてメニールの順路を塞いでいた。
「これはマジだな…とりあえず、移動してから話したら?」
「ノートは、二人分ですわね。写しておきますから、ごゆっくりどうぞ。」
「ありがとうございますっ!」
「…裏切り者…」
メニールの目もマジだった__。
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「…で?迅速かつ具体的に、不快感のないように話して下さい。」
不機嫌丸出しのメニールにビクビクしながら、男は口を開いた。
「僕の名前は……翡翠…と、言います。」
「私の話、聞いていましたか?」
まだ名前を言っただけで、翡翠は睨まれてしまった。
「もっと、ハキハキ話しなさい。不快です。あと、敬語は必要ありません。私もそれで話します。」
「う、うん。ありがとう。」
「…先程の土下座に精神力を使いすぎよ。そうね…この時間中に700文字以内で用件をまとめてくださる?」
「うん。わかった。」
幸いにも、ここは文学を学ぶための教室。原稿用紙なら、腐るほどある。
原稿用紙を、いくつもある棚の中の一つから取り出し、机の上に置く。一枚350文字の原稿用紙だ。
「…すごい、ね。」
「700文字以内だから、全て埋める必要はなくてよ。」
「えっ…!?ち、違うよ。」
翡翠が言うには、メニールが迷いなく棚を選んだことに驚いたらしい。
「それに、優しいし。」
「どこに接続語を使っていますの?…保健室に行くことをお勧めいたしますわ。」
「だって、『10文字以内でまとめろ』とか言われると身構えていたのに、700文字以内だなんて予想外で…優しいな、って。」
その言葉に、メニールは顔をしかめた。翡翠もその顔を見て、明らかにメニールを不快にさせたと青ざめる。
すぐさま謝るために席を立つ翡翠に、メニールは手を差し出して止めさせた。
「…自身にできないことを強制させるほど、非情ではないわ。」
それは、拗ねているようにも見える。メニールだって、外の顔ぐらいはいくらでもあるが、中身は一つしかない。
性格まで冷徹で冷めているなんて、思われたくない。
「ご、ごめん……。」
察した翡翠は、すぐに謝罪した。しかし、メニールは顔を俯かせてしまう。勿論、怒っているわけない。
「本っっ当に、ごめん!君には不快な思いしか、させていない僕の話しを少しでも聞こうとしてくれているのにっ!」
「…別に、不快には感じないわ。あなたの言葉には、馬鹿にしている要素がないもの。」
メニールをさげすむ人は、たくさんいる。
理由は様々だったが、陰口などは当たり前であった。
幼い頃は、そんなことにいちいち傷ついてもいたが、メニールは気付いた。メニールが顔を俯かせるたびに、陰口を言う人々はにやにやと、まるで誇るかのように顔を歪ませるのだ。
(この人は、そんな顔もそぶりも見えない。)
純粋に、思ったことを言っていただけだった。
「書き終わりましたでしょう?。見せてくださる?」
半ば奪う形で、原稿用紙を受け取る。翡翠の字は男らしく、見た目に見合わない。……風に吹かれたら、倒れそうなぐらい弱々しい身体付きのくせに、繊細な字を書くと思ったら違った。
「…あなたのお願いは、わかったわ。」
「っ!なら!」
翡翠が目を輝かせたのを、メニールは見逃さなかったが、無視して話しを進める。
「時間、ですわ。」
そう言うと、席を立ったメニールは見てしまった。
「っ!・・・・・。」
一気に落胆した、捨てられた子猫のような翡翠を。
ここで大事なのが、“子猫のような”だ。
子犬は、縋るようにこちらを見るが、子猫は違う。
子猫は、他人に媚びることはせず信頼した者にしか弱い所を見せない。
何が言いたいかというと、つまりは“手を差し出さずにはいられない”ということだ。
「………明日の昼食で、またお話ししましょう?」
「っ…はい!」
…ちなみに、メニールは翡翠という名の小動物の目線に勝てるほど(ほとんどが勝てない)心は強くなかった__。
ゆっくりな最新になります…。