(19)ベリーとフリームの物語
ちょっと番外編っぽくなっています。読み飛ばしても、本編に支障はありません。
タイトルの通り、メニールの友人ベリーとフリームが中心の話です。
その頃、学園の生徒会室ではベリーとフリームがゆったりと資料を片手にお茶をしていた。
「…メニール不足ですわ。」
「…右に同じく。」
姿勢正しくも、言葉だけぐったりとしている二人に苦笑を返したのは、翡翠と翡翠が連れて来た顔のそっくりな双子だった。
「大丈夫?…と言いたいところだけど、聞いただけで分かるほど疲労しているね。」
「当たり前ですわ。メニールは私達の天使でしたのに…。」
「天から舞い降りた女神…!私達の癒しだったのに!」
ついには資料をほっぽり出して、情熱的に二人は語り出してしまった。
「…そこら辺で止めない?彼らの紹介もしたいんだ。」
「うぅ…っ!」
「メニーるぅっ!」
それからしばらく二人はメニールのことを語り続けたのだった_。
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「とりあえず語り尽くした?」
「…まだ…、語り足りませんが、良いでしょう…。」
「喉っ……渇いたっ…。」
語りに語った二人は、気付けば酷い喉の渇きに水を求めた。
実は翡翠、二人の語らいに切りをつけるために、お茶を飲ませないように配慮していたのだ。
「どうぞ。カモミールティーです。美味しいですよ?」
「さすがだよな。ほらよ、お茶。」
「「あ、ありがとうございます…。」」
脇からそれぞれお茶を差し出したのは、顔のそっくりな双子だった。先ほどからずっといたのだが、二人は気付かなかったようだ。
「言葉が丁寧な方が双子の兄『アレキサンドライト・レバノン』。
雑…大雑把なのが弟の『アレキサンドライト・レンブラント』。」
「アレキサンドライト・レバノンです。『レノン』と呼んでください。」
「アレキサンドライト・レンブラントだ。『レント』と呼んでくれ。…って、翡翠ぃ!雑とはなんだ、雑とは!!」
そのままの意味だよ、と翡翠はさらりと受け流し、ベリーとフリームが落ちついたのを見計らって、話を続けた。
「彼女達はあの方の同級生であり、かつ親しい友人のベリーとフリーム。従姉妹同士なんだって。」
「アクア・マリン・ベリーです。サファイア家の長女で、兄が一人と弟が二人、妹が三人いますわ。」
「ガーネット・フリーム。ルビー家の一人娘。よろしく。」
ベリーはともかくとして、フリームは緊張しているのか言葉が硬い。それに気付いたのかレントが、フリームの背中をバシッと叩いた。
「っなにすんのさ!」
「緊張はほぐれたか?紅姫。」
「べにっ…?!」
どうやら仲良くやれそうだと一瞬で判断した翡翠は、ベリーとレノンのいる方を見た。レノンはベリーが見ていた資料の紙を覗き見ている。
「…これ、計算が間違っていますね。」
「え!?……あ、本当ですわ。」
「おや、今の一瞬で間違いを見つけるとは、やりますね。」
「レノン様、でしたか…?ミスを見つけるのはそちらの方が速かったですわよ。」
「_薔薇の蕾のような令嬢ですねぇ。可愛らしい…。レノン、と呼び捨てにしてください。あなただけ、特別です。」
「れ、レノン…っ。」
二人とも大丈夫そうだ。
それどころか翡翠はお邪魔なようなので、静かに席を立つと扉に向かい、こっそりと出て行った。
「…いいなぁ。レノンもレントも、パートナーとイチャイチャ出来て…。」
翡翠の羨ましそうな声は、誰もいない学園の廊下に響き渡った_。
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~フリームside~
ある日の午後のことだ。私は内心ガチガチに緊張しながら、レントとお茶をしていた。
「……。」
「……なぁ。」
「は、はいっ?!」
_声が裏返ったのは気にしないでほしい。緊張しているのだ。
「甘い物、好きか?」
「?嫌いじゃない、です。」
「可愛い物は?レースとか、小物とか。」
「…似合わないのであまり…。」
「うん?似合うと思うがなぁ。あ、あと敬語も様付けもいらないぜ?呼び捨てにしてくれ。俺もフリームって呼ぶから。」
何も喋らない私に対して不満を言うことなく、話のきっかけを作ってくれている。
真っ赤な髪は朝焼けのように情熱的なのに、瞳は月みたいに凪いでいて、神秘的な感じさえする。
とても…魅力的……。
「…に……ないか?」
「え?あ、はいっ!?」
「良しっ。じゃあ行こうぜっ!」
_話を聞いていなかった私は、レントに手を引かれ、その行き先を知らないままに馬車へ乗り込んだ。
しばらく無言という気まずい空気の中、馬車は数十分で止まった。
「ついたな。」
「あ…。」
さっさと降りてしまったレントに、私も急いで降りようとタラップに足を掛けた。
「お手をどうぞ?」
「っレント…!」
不覚にも、ドキッとしてしまった。親族以外の異性に手を貸してもらうだなんて、恋人同士みたいで恥ずかしい。
しかし、わざとなのか偶然なのか、タラップは何時も使っている馬車のより段差が高く、降りにくくなっていた。
「あ、ありがとう…。」
手を差し出すとそのままエスコートされ、目の前のお店へ連れられた。
ここは_
「『クラウンベリー』…って、可愛い小物が揃っていると噂のお店じゃない!」
「ん?好きだろう、こういうの。」
「んなっ?!」
驚きすぎて変な声が出た。レントはそれが面白かったのか、クスクスと笑っている。
…そう。私は誰にも言っていないが、可愛いものを集めるのが好きなのだ。
バレないように、内緒で仕掛け扉を造りった。そこを開けると今まで集めた可愛いものが、ところ狭しと並んでいるのだ。
「っあ…。」
ついつい手にとってしまったのは、ストロベリー色の兎のぬいぐるみ。両手いっぱいになるほど大きいぬいぐるみは、モコモコで、肌触りも気持ちいい。
…ほしい。けれど、今この場て買う勇気はない。
諦めるしかないだろう。
「?それ、ほしいのか。」
「っ!」
何か買いに行っていたレントが帰って来た。
私が返答に困っていると…
「これ、買うからいくらだ?」
急に腕の中からぬいぐるみが消え、唖然としているうちにはっと気付けば、店員にラッピング代わりのリボンをつけられていた。
「ほらよ。」
「え…あ、の…っ。」
「受け取れ。じゃないと、俺の部屋が一角だけ乙女チックになっちまう。」
さらっと、ぬいぐるみをプレゼントしてくれたレントに感謝して、受け取ったぬいぐるみをギュッと抱きしめる。
モコモコ、ふわふわ…可愛い…っ!
お店を出ると、馬車にぬいぐるみを置いて、公園へと連れて行かれた。
そういえば、レントが買ったのは、小物っぽかったな…。誰に渡すんだろう。注文した物を受け取っていたみたいだし。
プレゼントする相手は誰だろう?きっと可愛い物が似合う女の子だろうな。
考えれば考えるほど、何故か胸が苦しい。
「…?」
そう考えている時だった。
「…フリーム。」
やけに周りがざわつく。それもそうだろう。なにせレントは今、私の目の前で膝をついているのだから…?!
「!?何をしているの!」
「フリーム!聞いてくれ、一目惚れなんだっ!」
「…?!!」
ざわめきが大きくなる中、私はレントの声だけしか聞こえなかった。
「結婚を前提にお付き合いしてくれっ!」
ずいっと突き出されたのは、夕陽をモチーフにしたオルゴールの箱。箱の隅には、『クラウンベリー』の焼き印が入っている。
「…私で、いいの?」
「お前が、いいんだ。」
「っバカね…。大好きっ!」
「フリーム…!」
こうして私は、公衆の面前で告白され、ドラマチックなカップルとして一時期、有名になるのだった_。
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~ベリーside~
夜明け前の澄んだ空の色が、冷たい空気が、好き。
毎朝早起きの習慣がついたのは、それが好きになった時から変わらない。
早朝の、まだ星がちらつくほんのりと明るい空に、私はまた溜め息のような呟きをこぼした。
「レノン、か…。」
先日、翡翠に紹介された双子の兄の方アレキサンドライト・レバノン様は、私の補佐になってくださった。それは嬉しい。嬉しいけど…。
「結婚を前提にお付き合い、なんて私も言われてみたいですわね_。」
レノン様の双子の弟、レンブラントがフリームに公開告白したのが私の耳にも入って来た。
私も、従姉妹のフリームが幸せになることが嬉しかった。フリームは私にとって、まるで双子の妹のように育って来たのだから。
けれど、悔しくもあった。先を越されたのだ。
私はショックで、自室なのをいいことにベッドに突っ伏して泣きに泣いた。おかげで今も目元が腫れぼったい。
「っ…はぁ__。」
私が大きく溜め息をついた時だった。
「おや、幸せが逃げてしまいますよ?お嬢さん。」
「っ!レノン?!」
驚いて振り向くと、そこには予想した通りレノン様が佇んでいらっしゃる。
「隣、よろしいですか?」
足を抱えて芝生の上に座り込んでいた私の隣に、汚れるのも構わずレノン様が些か近すぎるような距離で座った。
「早起きなんですね。」
「え?あ、はい。」
「何故ここにいたのですか?冷えるでしょう。」
「…ふふっ。何故だと思いますか?」
それは、試しているつもりでもあった。
早朝の誰も起きていない時間に、こっそりと屋敷を抜け出す令嬢なんて、自分でもはしたないと思う。けれど、そんな罪悪感をスパイスに、唯一好きなものを見に行くのはとても楽しい。
フリームは、このことに何も言わなかったけれど、父はあまり良く思っていない。母が言うには、嫁ぎ先でもこんなことをしていると理解されないのではないかと、心配しているそうだ。
もし、少しでも……なんて、私は怖がりだ。
堂々とした、何時もの私は何処へ行ったのだろう。
「…分かりました!この空ですね。」
「…ぇ……。」
「違いましたか?」
「い、え。合っています。」
「綺麗ですね…。人は、これを毎日見逃しているのだとしたら、とても惜しいです。私もその中の一人、だと。
あなたと出会い、教えてもらえた私は幸運ですね。」
私は、驚きを隠せないでいる。
まさかレノン様がこんなにも理解してくださるなんて、思ってもいなかった。
「…ベリー。」
「っはい!」
急にレノン様が立ち上がったと思ったら、私に向かって膝をついている。
そして、懐から小さな箱を取り出し_
「この美しい空を、死が二人を別つ時まであなたの隣で見る許可をくださいませんか?……いや、ください。あなたの一生を側で支えていたいのです。」
小さな箱の中には、指輪が鎮座している。中心には私の宝石、アクアマリン。その両脇についている宝石は_
「っ…!」
「私は、結婚を前提に、なんて甘いことは言いません。
_結婚してください、ベリー。」
「っ喜んで!!」
アレキサンドライト。
自身の宝石と送る相手の宝石を渡したら、求婚の合図。
なんてロマンチックで素敵なんだろうと、憧れていたことが自分にも起こるなんて思いもしなかった。
「ベリー。まだ日は経っていませんが、一目惚れだったんですよ。私はあなたに。弟は、フリームさんに。」
「っ!」
まるで物語のようだ。けれどこれは、私自身の物語。
「愛しています。ベリー。」
彼と私のこれからの物語__。
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本編が終わりましたら、また番外編として出すかもしれません。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。