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(14)王家の悲劇



 __今から約、15年前のこと。__





 「もうすぐ産まれてくるのね…。」


 大きくなったお腹を愛しそうに撫でるのは、森の精霊に間違われてもおかしくない美貌の王妃だった。


 「医者の話だと、女の子なんだそうだってな。楽しみだ。」

 「えぇ、うちは男の子ばかりなんですもの。女の私は肩身が狭かったわ。」


 和やかな会話。王家は、とても幸せに満ちていた。後継者もいる。姫も産まれてくる。こんなにも幸せで良いのかと、王は緩む頬を抑えながら思った。


 _数日後。


 王妃は可愛らしい女の子を産んだ。


 「まぁ!綺麗な紫…!」


 白い髪には薄紫が所々入っていて、王に似て色素が抜けたような瞳は、光の加減によって紫が見える。


 「とっても綺麗だ…。」

 「兄さん、この天使が俺達の妹になるのか…?」

 「ヤバい…妹なのは嬉しい…けどっ…!」

 「嫁にしたかった…。」

 「ぼく、この子とけっこんする!」


 王子達は初の妹にメロメロだった。それはもちろん王も同じで…


 「王妃の髪と同じだ…所々が違っていて見飽きないのも、私の瞳と同じな所も…」


 何だか泣きそうになっている王を横目に、王妃は姫を愛しそうに見つめた。


 「_ありがとう。私達の下に産まれてきてくれて…本当に、ありがとう。」


 いつの間にか涙をこぼしていた王妃につられるかのように、王も王子達も、涙した_。


 ーーーーーーーーーーーー


 事件は、そのすぐに起きた。


 姫が__ほんの少し目を離した隙に、拐われたのだ。


 「どこっ…?私の…私達の赤ちゃんは…?!」

 「王妃!その体で何処へ行くっ!」

 「あなた…!だってっ…!私達のっ……っつ。」


 王妃は泣き崩れたかと思うと、気絶してしまった。出産後の体は、思った以上に疲労している。


 「…くそっ…!」


 姫の存在はまだ公表させていなかった。本当なら今頃は祝福を受け、王家全員で笑っているはずだったのに…。


 「父上!捜索部隊は…!?」

 「だめだ…っ!!姫はまだ公表もされていない存在だ!混乱どころか、姫を余計危険にさらさせるっ!」


 そう、何もできない。


 王は、これほど自分が王であることを恨んだことはなかった。


 「…私達の…姫っ…!」


 王の必死な捜索の末、_姫は見つからなかった。



 「姫……ひめ…っ。」


 「王妃…。すまない。」


 王の言葉に王妃は首をふった。


 「…名前を…付けましょう…?姫が、帰ってきた時のために…。」

 「…王妃。」


 王の目は泣き腫らしたようで、赤い。王妃はそれを見て、くすりと笑った。実に1ヶ月ぶりの笑顔だった。


 「っ…あ、」

 「?どうしましたか。」

 「いや…やっぱり…」

 「…思いついたんですね?」

 「いや…」

 「教えてください。」


 王妃の押せ押せに、しぶしぶ口を開いた。


 「…ルピナス。」

 「まぁ!良い名前です!」


 王は照れくさそうに頬を赤くした_。


 ーーーーーーーーーーーー


 「ルピナス…消えた姫の名前だ。」


 「「……。」」


 辺りはしんと静まり、物音一つしなくなった。

 そんな中、翡翠が口を開いた。


 「…その、ルピナス姫が…」

 「…えぇ。同じよ。ルピナスと同じ輝き。」


 王妃に視線を向けられ、メニールはびくりと体を揺らした。

 _王を目の前にしてもメニールはヴェールを取らなかった。取れなかった。

 ヴェール越しの視線はとても痛い。


 「…そのヴェール…取ってはくれまいか。」

 「「…っ。」」


 メニールは膝の上の両手を強く握り締め、翡翠はぐっと唇を噛んだ。

 ヴェールは…この舞踏会だけ着ているのではない。いつも着けている。_奥様…メニールの母親に強制させているからだ。


 「わたし…は…。」

 「頼む…!そなたの輝きは同じらしいのだ…。」

 「…。」


 メニールは俯くしかない。


 「…陛下。お話があります。」


 翡翠はそれを見かねて王に粗方のダイヤモンド家の状態と噂を話した。

 王は黙って聞いていたが、話が終わると同時にソファーから立ち上がった。


 「…まさかこのようなことが起きているとは…!目をつけてはいたが、そこまでだったなどっ…」

 「あなた、落ち着いてください。_メニール、と呼んでいいかしら?」

 「…はい。」


 王妃は力強く立ち上がるとメニールの前に立ち、視線を合わせるかのように膝立ちになる。


 「_今まで気付いてあげられなくてごめんなさい…。今謝ったところで何かが変わるわけではないでしょうけど…。もう、大丈夫よ。あの人が…王様がすぐに証拠を掴むわ。」


 「僕も協力します。証拠は多い方がいい。これまで沢山のことを調べてきたんです。」


 王が、王妃が、翡翠がメニールのために動いている。大丈夫だと安心させてくれる。

 それがとても_


 「っ……。いいえ、いいえ。もう、両親が悪事に手を染めることのないように_平穏な生活に戻れるようになってほしいのです。


  どんなに両親が手酷くしても、私は両親が大切で、好きだから_。」


 「「「……。」」」


 涙を流しながら頭を下げるメニールに、三人は歩み寄った。そして、優しく微笑んだ__。


 ーーーーーーーーーーーー


 ~メニールSide~


 私は、人生全ての幸せを使ったと思う。


 キース様と婚約して、ベリーとフリームと仲良くなって、翡翠に出会って、舞踏会で王様と王妃様に声を掛けられて…


 両親のことも…


 「……。」


 私はあの後、気絶するかのように眠ってしまったらしい。緊張の糸か何かが切れてしまったのだろう。目覚めると、知らないベッドで寝ていた。今もヴェールはしたままだ。


 「お嬢様、おはようございます。」

 「おはよう、ございます。」


 私は、王妃様達が住まう『王家のとう』の一部屋を借りることになっていた。…もちろん私なんかが王家の棟に泊まるなんて、と抗議しに行ったのだが、


 「君はキースの婚約者だったのだから、全然問題ないだろう?王妃も私も君のことを気に入っているしね。」


 と、押しきられてしまった。


 「メニール。ゆっくりと休んでいってね。」


 王妃様ものりのりらしい。息子ばかりだったために、年頃の女の子とティーパーティーをするのが夢だったらしく、よくお昼のお茶会に参加させてもらっている。


 そんな日が何日か過ぎ、10日たった日のこと_。


 「今日は二人っきりよ。」


 そう言ってお茶を入れるのは王妃様だった。周りには、侍女もいない。本当に二人きりだ。


 「楽しみましょう?」

 「…はい。」


 しばらくお茶やお菓子を嗜みながら世間話もまぜてお喋りを楽しんだ。ひととおり話に一段落がつくと、王妃様がきらりと目を光らせて私に迫った。


 「ねぇ…メニールは翡翠のことが好き?」

 「……………は、い?」


 思わず聞き返してしまった。


 「だ・か・ら、メニールは翡翠のことが好きなの?」

 「…………。」


 好き。


 それは友人として…なわけがないだろう。この流れで。

 なら、好きって……


 「っ…?」

 「あら、考えたことはなかった?」

 「……は…い…。」

 「なら今思っていることでいいわ。教えて?」


 王妃様の言葉に悪意はなく、純粋に恋ばながしたいようだ。


 「私…は、そういうことは、キース様のことしか考えていませんでした。」

 「みさおを立てていたと?」


 それは、違う。私は首を横に振った。


 「男性が…苦手になってしまって…。疎遠だったのです。」


 そう。私は男嫌いなのだ。今だって苦手意識の方が強い。けれど、翡翠はまた違った。


 「翡翠は…何か違うんです。」

 「あら。」


 王妃様の声色は驚いていたけれど、顔はまったく驚いていなかった。私の心の中を、まるで分かっているかのようだ。

 王妃様は考えるかのようにしながら目を瞑り、少ししてから目を開いてこちらを見た。


 「例えばだけど…メニールの中で、人の好き嫌いの判別が一番大まかに“男”と、“女”とするわね。


 まず“女”のグループは、家族と、メニールの“友人”と、“友人ではない他人”にまた仕分けられるわ。」


 突然の例え話に少々驚いたが、黙って聞いてみる。


 「メニールの中で“男”のグループはその中で、家族か、“本当に嫌い”か、“他人”か、“大丈夫”にまた別けられると思うわ。」


 「…は、はい。」


 王妃様は何を言いたいんだろう。首を傾げながら私は返事をした。


 「なら、翡翠は“男”のグループで、何処に属しているの?」

 「だ、“大丈夫”にです。」

 「どう大丈夫なの?話すのは良い。さわられるのも良い。エスコートされるのも良い。…翡翠は友人?」

 「…翡翠は、男性の中では二番目に私が気を許した人です。」


 そう。二番目。翡翠はキース様の次。


 「…私はどこかで、翡翠をキース様の代わりにしていたんだと思います。」


 優しいキース様と翡翠。

 似て異なる優しさ。

 翡翠がキース様を知っていると知ってから、私は甘えていたんだと思う。

 翡翠は__私が好きだと言っていたのに。


 『大好き。愛してる。生涯に一人の僕の花嫁さん。』


 「…翡翠の思いに私はまだ、返事をしていません…。」


 そう言って、私は俯いた。


 「あら、翡翠は返事が欲しいと言ってなければ、良いんじゃない?」

 「……は…?」


 思わずまた聞き返したのは仕方がないだろう。王妃様は頬に手をあてながら首を傾げた。


 「その時が来るまで考えたらいいわ。じっくりとね。とりあえず、メニールは翡翠のことが気になってはいるのね。」


 穏やかに笑う王妃様に私は毒気が抜けて、ソファーの背もたれに体を預けた。


 「あらあら、ごめんなさいね。」


 ついにはころころ笑う王妃様。私もつられて笑った_。


 ーーーーーーーーーーーー


 ひとしきり笑ったところで、私は姿勢を正した。王妃様もそれを見て笑いを止める。


 「…王妃様。」

 「なぁに?」


 私は緊張を和らげるために深く息を吐く。すると、目の前のヴェールが揺れた。

 そう。私はまだヴェールを着けたまま過ごしていた。部屋には鏡も置いていない。自分の姿を見るのが怖かったからだ。


 「私、ヴェールを外そうと思います。」

 「……!」

 「まだ、私は自分の姿を見たことはありません…。でも、ヴェール越しではない世界を見てみたいのです。」

 「それは…良い進歩だと思うわ。」


 きっと、王妃様は私がルピナス姫であることを望んでいる。

 がっかりさせてしまいたくない。それが私の心だった。もし、私がルピナス姫でなかったら…そう考えるとヴェールを外すのが怖い。


 「大丈夫。私はあなたがルピナスでもそうでなくても…あなたという人を受け入れるわ。」


 緊張に手が震えながらも、ゆっくりとヴェールを外す。そして_ヴェール越しではない視界が色鮮やかになる。


 「っ…!」


 「王妃、様…?」


 「あぁ、やっぱり。



   __ねぇ、お母様と呼んで?メニール。…いいえ…








    ___ルピナス。」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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