(13)王妃の戸惑い
短めです。
初めての舞踏会は、とてもキラキラしていた。
「…うわぁ…っ。」
「メニール、ちゃんと前は見てね。」
全体的にシックな感じでまとめられた会場は、仮面をした男達とヴェールを被った女性で色鮮やかに染まっている。
「_素敵な方ね。」
「どちらからいらしたご令嬢なのかしら?」
「…ふふっ。」
「どうしたの?」
「いや…君が良い意味で注目を集めていると、嬉しくなったんだよ。」
どうやら、先程耳に入って来た噂はメニールのことらしい。
確かに、メニールの姿はとても美しい。顔を隠しても、その気品は衰えることなどない。まず、立ち姿から美しいのだ。立てば芍薬、座れば牡丹とは、メニールのことだろうと翡翠は思った。いや、実際にそうなのだから仕方がない。
「なぁ…声掛けないか?」
「ええ…?!でも、いや…。」
「何だよ。せっかくの舞踏会だろ?」
「…。」
「翡翠?」
翡翠が何処かを睨んでいたのが気になり、メニールは声を掛けた。すると、翡翠はメニールに「ちょっと止まって」と言うと、立ち止まったメニールの前に膝まずいた。
「…?」
「素敵なアメジストレディ…今夜は一晩中、僕と踊って頂けませんか?」
途端に辺りがしんと静まり返る。翡翠に差し出された手をメニールは_
「_はい。よろこんで。」
ワァッ__!
周りから、おめでとう、などの歓声と拍手が送られる中、翡翠はメニールの手を取ってダンスホールの中心へエスコートする。
「踊ろう。今夜の主役はどうやら君のようだから。」
「え…。」
そう言って翡翠はくるりとメニールを回し、いつの間にか流れていた音楽に合わせてステップを踏み始めた。
メニールも、慌てながらついてステップを踏む。
「やっぱり上手いね。思った通りだ。」
翡翠が微笑みを口元につくりながら、そんなことを言った。
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ダンスが終わると何処からともなく拍手があがり、メニールと翡翠は人の波を掻き分けながら壁際へ寄った。
しばらくすると_
「?どうしたのかしら。」
「ん?…あぁ、王様と王妃様だ。」
翡翠の目線の向こうには、来賓用の部屋へと繋がった階段上の扉から入って来た、きらびやかな男女が一組いた。
男性の方は白銀の髪に、色素が抜け落ちたかのような不思議な白い瞳の色。年は40代後半のようだ。
一方、女性の方は鮮やかな森の緑の髪と瞳だった。光の角度によって、色味も違っている。まだ年若い20代ぐらいにしか見えない。
「今宵はクリスタルパレスのパーティーに招待いただき、ありがとう。まだまだ夜は長い。私達のことは気にせず、存分に楽しんでいるところを…未来の国を担う民の元気な姿を見せてください。」
王の言葉に歓声が沸く。王はそれを聞き届けると、階段から降りて会談し始めた。しかし、あまり寄り付く人はいない。皆、“気にしない”ということを忠実に守っている。
「_翡翠は王妃様の甥にあたるのよね。」
「うん。でも、キースのことがあってからは会ってないんだ。…やっぱり気まずくて。」
「…。」
その言葉にメニールは俯く。
「…翡翠。」
「ん?」
しかし、メニールはガバッと顔を上げると、翡翠の手を握って王がいる方向へと歩き始めた。
「え?!メニール…!?ちょっ、待って…。」
「会いましょう?私、会ったことないの。」
「へ…?」
翡翠が、ぐだぐた言っているうちに王の下までたどり着いた。
「翡翠、ほら。」
「…うん。」
どうやら翡翠も覚悟を決めたようだ。メニールの手を取り、自身の腕に絡ませてエスコートをする形になった。
ゆっくりと王との距離を詰めて行く。そして、あと何歩かというところであちらが翡翠とメニールに気付いた。
「っ…!ひ、すい…!翡翠じゃないか!?」
「…はい。お久しぶりです。陛下、王妃様。」
仮面をしていても、王は翡翠を分かったようだ。目を見開き、翡翠を凝視している。
「あぁ…翡翠。本当に、久しぶりね…。」
「長い間顔を見せなくて、すみません…。」
「いいのよ。もう…。」
三人の間に、和やかな雰囲気ができたことに、メニールは邪魔をしてはいけないと、一歩下がった。
けれど次の瞬間_
「っ…?!!_ルピナスっ!あなた、ルピナスなの?!」
「え…。」
「これ、やめなさい…。_君は…?」
何故か混乱し始めた王妃を宥めながら、王がメニールに名を聞く。しかし、メニールは答えられなかった。何故なら_
「…陛下、ここは仮面舞踏会と同じ形式を取っています。名を明かすのはこの場ではやめて置いた方が懸命です。」
「っそうか…なら、部屋で話しがしたい。良いだろうか…?」
王の頼みではない。一人の人としての頼みに、メニールは頷くしかない。
「…はい。」
「よし…。」
王は王妃をエスコートしながら、こっそりと会場を抜けた。翡翠とメニールは時間を少しおいてから、違う出口で抜け出して王の侍従に部屋へと案内される。
「こちらになります。」
「ありがとうございます。」
翡翠が礼を言い扉を開けると、二つの向かい合ったクッション付きの長椅子の間にテーブルがあり、扉から向かって左側の奥に王妃、手前に王といった形で座っていた。
翡翠は無言で礼を取り、メニールを空いている方の長椅子までエスコートした。
「どうぞ。緊張しないで寛いでくれ。私も王の仮面は外す。」
「…はい。」
「_それで寛げたら苦労しないわよ、あなた。」
メニールが俯きかげんで返事をすると、意外な方向から声が飛んで来た。
「…さっきはごめんなさい。でも…どうしても、あなたの輝きが…あの子にそっくり…いいえ、同じだったから…。」
王妃は悲しげに瞳を臥せると、俯いてしまった。それを補うかのように、王は口を開いた。
「改めて、君の名前を聞いてもいいかな?」
「_クリスタル・メニーと申します。」
「クリスタル…失礼だが家名を聞いても?」
「……ダイヤモンド、です。」
「「!!!」」
王は目を見開き、王妃は肩を揺らした。とても動揺していることが分かる。
「そうか…やはり…」
「あなた…。」
王の顔が陰りを帯びていくのを、メニールは内心とても不思議に思わなかった。何故なら、キースのことがあったからだ_。
「…陛下、ルピナスとは誰ですか。」
助け船のように今まで黙っていた翡翠が口を開いた。
王はその質問に、少し困ったような顔をする。
「ルピナス…ルピナスは、私と王妃の娘だ。」
「「?!」」
翡翠とメニールが驚くのも無理なかった。何故なら、今の王には息子…つまり王子しかいない。
「あなた…この二人には話をしませんか。」
「そう、だな。」
翡翠とメニールをおいて、王と王妃は考えをまとめたようだった。王は一つ、溜め息を吐くと改めて翡翠とメニールに向き合う。
「これは…私達、王家だけの秘密。いわば、国家機密に等しい話になる。二人共、それを頭の隅に置いて話を聞いて欲しい。」
「「…はい。」」
これから話すのは、十数年前の話になる_。
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ちなみに…
メニール、ベリー、フリーム 14才
翡翠 17才
クリスタルパレスの授業は、自分に合った授業を受けるようになっていて、基本的に担当の先生がスケジュールを組む。なので授業は年齢がばらばの時がある。入学してから一年は、だいたい同い年での授業が多く、そのほとんどが基礎を学ぶための授業。
…つまり、2話で翡翠は基礎を学びに来ていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。