(12)メニールのお願い
切りが良かったので、少し短めです。
舞踏会当日、夜_。
メニールは自分の部屋に閉じ籠っていた。
家の者は何も言わないので、大人しくいるメニールにはありがたいことだった。
「…。」
何もない、闇に染まった空を見つめ続ける__
ガサッ
「…っ。」
突然、窓の外から物音がした。メニールは恐れることなく窓に近寄り、開けた。
「…迎えに来たよ。」
「翡翠_。」
ヴェール越しにでも分かる。メニールは嬉しそうに微笑んでいた。翡翠はそれを見ると、ゆっくりと登って来た木からメニールの部屋に飛び移った。
「ありがとう、私のお願いを叶えてくれて。」
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「それはね__私を、家から連れ去ってほしいの。」
ほんの一瞬、翡翠は目を丸くして驚いたが、すぐに微笑んでソファーに座っていたメニールの傍に片膝をついた。
「その願い、聞き届けました。あなたを連れ去り、舞踏会へ愛の逃避行…とでも行きましょうか。」
妖しい笑みに、自然とメニールも微笑む。
「アメジストレディ…」
「翡翠、何か言った?」
「…何も言ってないよ。」
翡翠の呟きは、誰の耳にも届くことなく終わった_。
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「まさか舞踏会まで連れ去って、だなんて…。男として、僕は嬉しいなぁ。」
「…そういうものなの?」
「……僕が悪かったです…。」
メニールの無垢すぎる質問に、翡翠は白旗どころかまた土下座したくなった。
翡翠はメニールを横に抱くと、軽々窓枠を飛び出し何の衝撃も感じさせない見事な着地をした後、学園の方向に走る。
「魔法は使える?」
「もちろんよ。_《風よ答えよ。我々の目指した導まで、運べ。我の代償は、魔力なり。》」
そうしてメニールと翡翠は学園の生徒会室まで、跳んだのだった。
ふと、生徒会室の壁際にあるものに、メニールは目が離せずにいる。
「…これは…?」
「ベリーさんとフリームさんに協力してもらって、用意したんだ。」
翡翠に背を押されて、それに近づく。
「__綺麗_。」
舞踏会用の夜会ドレス。生徒会室にはそんなもの、もともとあるはずがない。
「今夜、君が着るドレスだよ。」
白と紫でできているドレスは、レースが細かくとても繊細な色使いだ。裾は濃い紫で、上にいく度にどんどんと白が混じり、胸元と二の腕までを隠すように作られた手袋は純白の白。Aラインの型で、スカートの部分はレースを重ねることによって、ふんわりとしていて年頃の少女らしい。胸元はざっくりと肩が出るようにしてあるが、真っ白な生地で作られた花を飾ってあり、清楚だ。
それに_
「これ、ヴェール…。」
ドレスと合わせて作ったと明らかに分かる薄紫色のヴェール。
「今年の舞踏会は、仮面舞踏会を参考に考えたんだ。男は仮面を着ける。女性は_ヴェールを被る。」
「ーーっ。」
翡翠はメニールが舞踏会に行っても、ドレスを着て踊る気がないと知っていたのだろうか。だから、メニールはドレスの心配などしていなかったのだが…。
翡翠にしてやられた。
「さ、早く着替えよう。ベリーさんとフリームさんは生徒会の仕事を手伝っているから、ドレスの後ろのファスナーは僕が上げれるけど…、髪はどうする?」
「…一通り自分で出来ますが、ドレスの後ろはお願いします。」
分かった、と言って翡翠は部屋から出て行った。
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「準備は整ったね。」
「ええ。」
翡翠に後ろを手伝ってもらって、メニールの夜会に行く準備ができた。翡翠も、メニールが準備ている最中に着替えて来たようで、黒に近い深緑色の夜会用のタキシードに身を包んでいる。袖には明るい黄緑の飾り縫いが施してあり、少し洒落ていた。
メニールの髪型はけして複雑ではないが、メニール本人がやったとは思えないぐらい綺麗にまとめられている。
「_行くよ。」
そうして、舞踏会へ入る扉が開かれた_。
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