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(11)翡翠のお願い

少し残酷な描写が入ります。ご注意ください。

 生徒会室にて_。


 「翡翠は、私と舞踏会で踊りたいのよね。」

 「うん。」

 「…もし私にもう相手がいたら、どうするつもりだったの?」

 「おどし………頼みに行く?」

 「物騒なこと言いかけたわね。」


 翡翠とメニールは机を挟んで長椅子に座り、話していた。もちろん話題は、舞踏会のことだ。


 「もし…ってことは、まだフリーなんだよね!」

 「そういうことになるわ。」


 今にも踊り出しそうな翡翠に苦笑しながら、メニールは翡翠にしっぽがあったら、引きちぎらんばかりにしっぽを振るのだろうと考えていた。


 「_翡翠。」

 「!…はい。」


 メニールの真剣な声に翡翠は姿勢を正した。しかし、その顔は期待に満ちている。


 「……ごめんなさい…。私、舞踏会には出れないの…。」


 「…え。」


 頭を下げてから、顔が上げられない。膝の上では拳が強く握られている。背中は冷や汗で濡れ、空気は真冬のように冷たく感じた。


 「_奥様から、舞踏会の日は学校を休みなさいと言われて…。」

 「…なんて、言われたの?」

 「…。」


 ーーーーーーーーーーーー


 『舞踏会の日は、学校を休みなさい。』


 『っ…何故、ですか。私は生徒会の仕事が_』

 『黙りなさいっ!』


 『っ…。』


 『醜いあなたが、クリスタル家の人間だと知られたらどうしてくれるのです!クリスタルパレスの舞踏会には、外からのお客様が多くいらっしゃるのよっ!』

 『…っはい…。』


 『あなたは私の言うことを聞いていればいいの。あぁ、醜い醜い。雑巾みたいな色。』


 ーーーーーーーーーーーー


 「__っ。」


 メニールは唇を噛みしめて、昨日“奥様”に打たれた左腕の傷の痛みを堪える。しなやかな鞭で打たれたせいか、酷く痛んだ。


 「…脱いで。」

 「…は?…」


 いきなり立った翡翠が言いはなったのは、予想もしない一言だった。もちろんメニールは唖然となった。


 「…全部脱げとは言わないから、上着脱いで。シャツの袖は肩まで脱ぐか、腕が見えるようにして。」

 「え…?」

 「っ!早くっ!」


 翡翠の促す声に、いそいそと脱ぎ始めるメニールがシャツのボタンに手をかけたことで、翡翠は回れ右をした。

 その様子に、やましい心があるわけではないのと、翡翠が紳士なことがわかった。


 「…いい?」

 「…うん。」


 翡翠が、ゆっくりと後ろを振り返る。


 「っ…やっぱり…!」


 翡翠の目に写ったのは、傷跡だった。古いものから新しく、包帯を巻いていても血が滲んでいた。


 「何で隠してた…?」

 「…。」

 「黙っていたら、分からない。話して。誰がやったの?」

 「…言いたく、ありません。」


 メニールは頑なに口を開こうとしない。その様子に、翡翠は深い溜め息を吐いた。


 「まぁ、予想はついているよ。話の流れからして、“奥様”でしょ?」

 「っ…言わないで、ください。」

 「うん?敬語はいらないよ。」

 「っごめん、なさい…。」


 翡翠の顔が見れなかった。呆れた顔?怒っている顔?笑っている顔?……そのどれかなのかを確認するのも恐かった。


 深い溜め息が、頭上から降ってきた。


 「っ…。」

 「_恐がらないで。怒っても、呆れても、笑ってもいないから安心して?」


 優しい声がすぐ近くで聞こえたと思ったら、俯いて床しか見えなかった視界に、翡翠の顔がいきなり現れた。

 メニールは驚いて、顔を上げる。


 「…メニール、ほら。僕は今、どんな顔してる?」


 「っ…し、心配している、顔?」


 「それもだけど…悔しい、かな。」

 「…。」


 メニールは、翡翠に相談しなかった。だから…


 「頼ってもらう前に気付けなかったことが悔しいよ…。」

 「え…。」

 「…そんなに僕は、頼りなかった?」


 翡翠の顔は俯いていて、わからない。けれど目元が赤くなっているのは、見なくても分かった。


 (私が、一人で抱え込んだだけで翡翠はこんなに悲しそうな顔をしてくれる…。)


 「ありがとう、翡翠。」

 「…。」

 「翡翠が私を思って心配してくれるだけで、私はとても嬉しい。気付いてくれただけで、私は救われた。」

 「…。」

 「翡翠?私をこんなに心配してくれる、大切に思ってくれる、怒ってくれる、泣いてくれる人は…私の傷を自分が負ったかのように顔を歪ませる人は、翡翠だけよ。あなただけ。…ありがとう。」


 ベリーだってフリームだって心配してくれるけれど、家のことはいまだに言えていなかった。

 本当のことを知っていて、こんなにも思ってくれる人は翡翠だけだ。


 「なんだ…そんなの、反則だよ。こんなのってない。僕、本当に泣きそう…。」


 翡翠はそう呟くように言うと、ソファーに座っていたメニールを抱き締めた。

 メニールを抱き締める腕は、震えている。それを知ったメニールは、翡翠に身を任せると自分も翡翠の背中に腕を回してトントンと一定のリズムで優しく叩いた。


 「ごめんなさい。ありがとう。」

 「…。」

 「私、舞踏会、本当は楽しみだったの。」

 「っ!」

 「ねぇ、翡翠?私のお願い、聞いてくれる?」


 顔をゆっくりと上げた翡翠の顔は、とても嬉しそうだ。


 「っ…もちろん!何を願うの!?」


 「それはね_」


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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